生きてここに… 本編 第22章
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「私は・・・・あなたにだけには負けません」
「うるさい!私は・・・・・私は苦しんでるの!」
仁ちゃんを傷つけたこと?
違うよ・・・・あなたのそれは後悔の念じゃないの
「違いますね・・・・あなたはそうやって仁ちゃんに慰めてもらおうとしています」
ずるいヒト・・・・・
「自分だけをって・・・・・そうやってあなたは仁ちゃんを縛り続けてきたんです」
「違う・・・・・違う!」
否定しても無駄ですよ・・・・・
だって仁ちゃんは忘れません・・・・
心ではあなたに非はないとわかっていてもその恐怖までは拭いきれません
「あなたを見るたびに・・・・仁ちゃんは思い出しますよ?」
赤と狂気の笑顔を・・・・
「あなたが無力だから・・・・仁ちゃんを傷つけた」
「違う・・・・違う!」
違うしか言えないんですか?
「ただ自分に言い訳しているだけじゃないですか・・・・・ふふ」
「仁くんを惑わす・・・・泥棒猫!」
今度は罵声ですか?
芸の幅が広いんですね・・・・
ああ、あれほど遠く感じたあなたとの距離が今は微塵も感じませんよ
もうあなたに大きな顔させません・・・・
ようやく同じ舞台に立てたんですから
私はこの舞台のヒロインなんです
あなたはただの当て馬なんです
私と仁ちゃんが愛し合うのは運命なんです

泥棒猫の言葉が私の心を射抜いていく
「仁くんと私は小さい頃から一緒だったの!」
「だからってあなたのものじゃないでしょ?」
どうしてあなたはそんなに冷静でいられるの?
無償に腹立たしくなってきた
「私はあなたの知らない仁くんを知ってる・・・・・私が一番仁くんを・・・・」
「いつまでそうやって・・・・仁ちゃんを束縛する気ですか!」
な・・・・・・そんなこと・・・・・
「あなたはいつもそうです・・・・仁ちゃんを所有物かなにかと勘違いしていませんか?」
そんなことない!そんなことない!そんなことない!
「私は純粋に仁くんを・・・・」
「自分勝手に仁くんを振り回わしていただけでしょ?」
「違う!違う!」
そんな訳ない私の自己満足なだけじゃない・・・・
「仁くんは私を愛してくれた・・・・」
「私だってそうですよ?」
まるで悪びれる様子もなく泥棒猫はそう言った
「あなたが仁くんを騙してしたことでしょ!」
そうだ、この泥棒猫が一番に悪いんだ
私も仁くんも悪くない・・・・全部・・・・全部
「仁ちゃんがそういう人じゃないってあなた・・・・わからないんですか?」
どうして・・・・・そんな風に堂々としていられるの?泥棒猫のくせに!!
「うるさい!泥棒猫!」
もう私は自分を忘れていた

小さな雨粒が頭上から降ってくる
まるでこの口論を止めるかのように・・・・
これだけ本音をぶつけたのってはじめてかも
「うるさい!泥棒猫!」
綺麗な容姿に似つかわしくない荒げた声で私を罵声する
「仁ちゃんは私を抱いてくれました・・・・どうしてだと思います?」
なんで黙るんですか?わかっているのでしょ?
「仁ちゃんは好きでもない女を抱いたりなんてしません・・・・記憶を失っていても」
「違う・・・・仁くんの記憶がないことをいいことに・・・・あんたは!」
「あなたのせいで仁ちゃんは大怪我をした!記憶まで失った!いつまで自分を正当化する
気ですか!」
「うるさい!黙れ!この泥棒猫!」
小さな吐息があたりを包んだ
ぽつぽつと降り出した雨がまるで泣いてるかのように私たちを濡らした
まるで私たちの口論をたしなめるかのように雨は降る
いつか・・・・雨は止む・・・・
でも、また雨は降る・・・・
雨から逃げるには深い海に身を沈めるしかない
雨はそれでしのげる・・・・
けれどもう抜け出せなくなる
その中に私といま目の前で私に銀色の刃物を向けるヒトは身体を沈めてしまった・・・・
もう、逃げられない・・・・私は確信した


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