生きてここに… 本編 第21章
[bottom]

仁くんに抱いてもらったあと私は出入り口である人を待っていた
来た・・・・・奈々ちゃんだ
奈々ちゃんは私を確認すると少し顔を俯けた
「どうして・・・・ここに?」
「わかっているよね?」
彼女は仁くんの記憶がないのをいいことに騙したんだ
けれど彼女はまるで開き直ったかのように笑みを浮かべた
「あなたの・・・・・あなたのせいじゃないですか!」
その言葉に私は一瞬で言葉を失った
「あなたのせいで仁ちゃんは記憶を失った!大怪我までした!あなたに私にそんなこという資格があるんですか!」
思わず奈々ちゃんの頬を叩く私
奈々ちゃんもひるまずに私の頬を叩いた
「私がどんな気持ちで仁ちゃんと接してきたかわかりますか!どんなに想っても仁ちゃんはいつもあなたを見ていた・・・・・嫉妬で狂いそうになった日もありました!その気持ちがあなたにわかりますか!」
乾いた音が辺りに響く
先ほどよりも大きな力で頬を叩かれた
「私だって・・・・苦しいんだよ!」
仁くんが私のせいで・・・・考えただけでも怖くなる
だって私は自分が死ぬよりも仁くんを失うことのほうが怖い
だから・・・・・私は・・・・・

後ろめたさがないわけじゃなかった
でも、この人はいつも私を見下したように見ていた
仁くんは私の物なのよ〜って毎回毎回
どれだけ私が嫉妬したかわかりますか?
いまあなたが味わっている嫉妬を私は長い間一人で耐えていたんです
ようやく回ってきた私の至福の時間を誰にも邪魔なんてさせない
仁ちゃんは私の物なの!
「私はあなたを許しません・・・・仁ちゃんを傷つけたのは香葉って人だけど、私はその
人の次にあなたを許しません!」
詩織さんの顔が悲痛に歪んでいく
私はなおも続けた
「もう、私は我慢するなんて・・・・しません!」
そうだ・・・・私はもう引けないところまで脚を入れてしまっている
後悔はないむしろ幸福のほうが強い
だから邪魔なんてさせない
「私は仁ちゃんを必ずあなたから奪い取ります・・・・必ず!」
そう言うと詩織さんは私の頬を思い切り叩いてきた
そしてファーストコンタクトしたときと同じように無言で睨みつける
あのときの私には唖然とすることしかできなかったけど今は違う
私は叩き返してやると詩織さんも叩き返してきた
「私がどれだけ仁くんを想っているのか知っていてよくも!」
「言ったでしょ!あなたにそんな資格ないって!」
「うるさい!泥棒猫!」
詩織さんらしくない声
私らしくない声が病院の前に響く
「泥棒猫で結構です!私はもうあなたに遠慮なんてしません!」
「どれだけ私が仁くんのことで苦しんでいるのか知っていて・・・・・よくも!よくも!」
「あなたがすべていけないんです!すべて!」
「うるさい!」
もう詩織さんの頬は真っ赤になっている
私の頬も同じだろう
「泥棒猫のくせに!私の仁くんを!」
「何度でも言います・・・・あなたにそんなこと言える資格はありません!」
でもお互いに引かない
私たちはもう引き返せない場所まで来てしまったから


[top] [Back][list][Next: 生きてここに… 本編 第22章]

生きてここに… 本編 第21章 inserted by FC2 system