生きてここに… 本編 第18章
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「見つけた・・・・・仁さん」
向こうに見えるのはなんだ?
まるでこの世の物とは思えない光景に俺は息を飲んだ
真っ赤に染まった身体を引きずるように歩み寄ってくる
その後ろに広がるのは血の道
身体の右側を包帯で覆っているが端から見える火傷のあと
手に持っている物が血なのか刀なのよくかわからなくなっている
真っ赤な刀を引きずって静かに近づいてくる
剣先が道路に引きずられる音と共に真っ赤に染まったそれがニヤっと笑んだ

どうしてそんなに怯えているの?
ねぇ?仁さん・・・・?
すぐに仁さんは横にいた雌犬を後ろに隠した
そう、そうなのね・・・・その雌犬がいけないのね
だったら待ってて・・・・すぐに消してあげるから
刀を立てて突きの体制に入る
咄嗟に仁さんが雌犬を残して私の方へ向かってくる
どうするつもりなの?
瞬間拳が飛んでくる
私は真っ赤に染まった手でそれを受け止める
不思議ね・・・・以前は見えなかったその拳も今はスローモーションに見える
もしかして神様が私に雌犬どもへの制裁のために力をくれたのかしら?
あは・・・・・・く、ははは!
ごめんなさい・・・・・少し大人しくしていて
私は仁さんの右足に軽く刃先を食い込ませた
「ぐ・・・・・!」
脚を抑えて仁さんは後ろに尻餅を付く
ごめんね、でもね・・・・雌犬成敗のためには仕方ないの
だって仁さん洗脳されちゃっているのだもの
こうでもしないと目が覚めないでしょ?
私は静かにしかし確実に一歩一歩雌犬に近づいていく

どうしたの?あの目下したような瞳をしたあのときの勢いは?
こわい?私が怖い?・・・・・ふ、ふふふ・・・・・味わいなさい
あなたがどれだけ罪深いかを!
刀を振り上げる・・・・・
「死んじゃえ・・・・!」
振り下ろすとわずかに肉を裂く感触がした
ふふふ・・・・・あ、はははは!
思い知った?自分の業の深さを・・・・・罪深さを
死んで償いなさい・・・・
しかし目の前の光景に私は息を飲んだ

「が・・・・・・うぐ!」
仁くんが私に覆いかぶさって悲痛な叫びを上げる
な・・・・・なに?なにが起こったの?
今にも飛んでしまいそうな意識の中で私は自分の全身が凍りついたように動けずにいた
「う・・・・・・ぐ・・・・・・・詩織・・・・・」
急に仁くんが私にもたれかかってくる
それと同時に仁くんの右肩から尋常ではない血が噴出した
雨のように仁くんの血が私を濡らした
「仁くん・・・・・仁くん!」
ゆすっても声をかけても反応も返事もない
真っ青な顔をした仁くんの横顔に私は時を忘れた
許せない・・・・・自分勝手な理由でこれだけのことをして
仁くんを傷つける人を・・・・・私は許さない
私の一番大切な人を傷つけるなんて・・・・・
ゆる・・・・・・さない!
私は無意識のうちに悪魔に向かっていった
護身用のスタンガンを取り出し呆然としている悪魔に押し当てる
「く・・・・・ぅ」
小さなうめき声と共に悪魔は倒れていく
はぁ・・・・・はぁ・・・・・
私の呼吸だけが聞こえる・・・・・
しばらくしてすぐに警察の人が近所の人の通報でやって来た
赤しかないその光景に思わずむせる人
気分を悪くしてその場を去る人
悲惨な現場を見慣れている警察の人もそうなってしまうほどこの景色は残酷な物だった
「仁くん!仁くん!」
私は運ばれる仁くんにすがるように泣きついていた
このままじゃ仁くんが・・・・・私を護ろうとして・・・・・ごめんなさい、仁くん
私は心と言葉でなんども仁くんに謝った
それしか知らないかのように仁くんの名を呼び謝り続けた


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