生きてここに… 本編 第16章
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結局香葉さんの遺体は発見されなかった
この事件は大きく取り上げられたけど一週間ほどで沈静化を見せている
あの後仁くんは私の家までやって来てお父様に謝っていた
涙を流しながらどんな理由があろうと私を危険な目に遭わせたのは事実
言い訳しない、自分が悪いと・・・・
もちろんお父様は仁くんを責めたりなんてしない
だって、そうでしょ?悪いのは全部あの悪魔なんだから
お父様は微笑んで仁くんを抱き締めていた
やさしいお父さんだね・・・・仁くんは言って微笑んだ
そうだね・・・・わたしのお父様は世界で一番のお父様だよ
でもね、仁くんもお父さんになったら一番のお父さんになれるよ
そのあと仁くんは奈々ちゃんのお家まで出向いて同じように謝っていた
私はその背中を見つめることしか出来なかった
自分が激しく無力に思えて私は酷い自己嫌悪に蝕まれていた
奈々ちゃんのお父様は目に涙を溜めて仁くんの手を握ってお礼を言った
『キミは奈々を護ってくれた、違うかい?それに最初からキミに非はない、
奈々を護ってくれてありがとう』
一番言ってあげたい言葉を奈々ちゃんのお父様は仁くんに言った
そうだよ・・・仁くん・・・・仁くんは私と奈々ちゃんを護ったの
それも命がけで・・・・

後日私は仁くんをデートに誘った
気分転換になったかな?
最初は定番の映画、もちろん淡い恋物語
仁くんはああ見えて涙もろいの
必死で涙を隠してた
カワイイな・・・・も〜
そのあとはフランス料理・・・・は仁くんが苦手なのでファーストフード店に入った
仁くんは減量しらずなので気にせず食べていた
もう・・・・ほっぺにご飯が付いてるよ
私がペロッと舐めて取ってあげると仁くんは頬を赤く染めた
そのあとは私のお洋服をお買い物
仁くんに選んでもらって仁くんにそれを持ってもらう
少し持つよって聞くと仁くんは首を振った
前が見えなくなるほどの大荷物を持っているのに仁くんはバランスひとつ崩さずに歩いていた
さすがだね、重いはずなのに・・・・バランスだって・・・・
やっぱり仁くんはすごいや
私も婚約者として鼻が高いよ

「ふぅ・・・・・」
玄関で買い物袋を置いて一呼吸いれる
すぐに坂島さんがやって来て「ご苦労様」と言って荷物をお手伝いさんに運ばせていった
俺がお辞儀すると坂島さんは「お姫さまの相手も大変ですね?」
と聞いてきた、俺は「ナイトにケガや疲労は付き物ですよ」と答えると坂島さんは「頼もしいですね」と
言って微笑んだ
ジト目で睨み付ける詩織がすごくこわかった
坂島さんにまで嫉妬するの?
思わず吹いてしまう俺に詩織は顔を真っ赤にしてそれを否定していた
日常を取り戻していく感覚
いつもこうだったんだ・・・・変わりない日々
変わらない日々を人は退屈な人生だと笑うかもしれない
でも俺は変わらない日常がこれほど大事なものだと初めて気づいた
不安はある・・・・彼女の、香葉さんの遺体見つかっていないということだ
正直あの爆発で生きているとは思えない
けれど俺の頭から離れない、あの悪魔のような目
本や漫画で出てくるような悪役より数倍の恐怖を俺たちに植え付けた
身近に死を感じさせたあの瞳
まるで日常のことのように刃を身体に食い込ませた時のあの顔
あの人がこれで終わるなんてどうしても思えない
けれど、あれから三週間ほど経過したがなんの反応もない
あの時はなんとか二人を護れたが・・・・次は自信がない
情けない話だ・・・・なんのために俺はボクシングを始めたんだ?
もちろん、詩織を護りたいという想いが強かったからだ

俺を好きでいてくれる人一人や二人護れる自信がないなんて
俺はケガが回復するとすぐに練習にのめり込んだ
そんな中に生き抜きにと詩織からのデートの誘いを受けた
断る理由なんてない
いい息抜きになった
詩織が今日、泊まっていかない?
と帰ろうとする俺に聞いてくる
子供じゃないんだからどういうことなのか理解できる
俺は軽くうなずくと出口に向けた足を元の方向へ向けた

お父様も交えての楽しい食卓
幸せ・・・・
仁くんと結婚したら毎日こんな風に楽しく暮らせるのかな?
幸せなのは間違いないか
仁くんって誠実で生真面目さんだもんね
でもなんでか普段は不真面目でぶっきらぼう
まるで正反対のその二つがうまく合わさっているのが仁くんなの
帰りの言葉を受け入れてくれたってことは・・・・わかってるってことだよね?
食事のあとは私の部屋でなにげない雑談
でもね、仁くん・・・・奈々ちゃんの話・・・・なんでするのかな?
それ以外はほとんど東児さんとの話
仁くんは友達も多いけどやっぱり東児さんが一番みたいなの
東児さんは私よりも仁くんと付き合いが長い
東児さんのお父様が古くから仁くんのお父様の会社と付き合いが合って
自然とその息子の二人も仲良くなっていったみたいなの
正直な話、私はあまり東児さんと面識がないので
入り込めない話になると・・・・
ああ、もう・・・・なんで私男の子の友達なだけの東寺さんに嫉妬してるの?

不機嫌になる私を感じて仁くんは少し俯いてすぐに思いっきり顔を上げた
そして慌てて視線を外す私の頬に手を重ねて自分の方に向かす
微笑んで口付けを交わす
初めてだね・・・仁くんからしてくれたの
私が身を委ねると仁くんはゆっくりと私の肩に手を置いた
ゆっくりと這わされる仁くんの指
片手を背中に回して少し強く抱き寄せ仁くんは私にもう一度唇を近づける
絡み合う舌と舌
初めて私は大人のキスをした
そのあとゆっくり前のボタンを外していく
下着も上手に外した
「上手だね・・・・もしかして経験あるの?」
そうだよね、仁くんほどの人なら何人も・・・・
過去のことは気にしないでいよう・・・・
そう考えていると
「経験なんてないよ・・・・ただ、構造を知ってるだけ・・・・」
そうなの?男の子ってそういうことも知っているの?
でも初めて・・・・なんだよね?
私もだよ・・・・仁くんが初めてだよ、キスもこんなことも
これからだって私はずっと仁くんだけのモノだよ
優しく私をベットに寝かして仁くんはまたキスしてくれた
初めて人に身体を晒す私に仁くんは「綺麗だよ」とつぶやくと
優しい愛撫を繰り返した
そして私は仁くんを受け入れた
初めての痛み・・・・でも、仁くんがくれる私だけの痛み
最後まで痛いだけだったけど・・・・幸せだった
その後深夜までなんども交わって私は仁くんと愛し合った

「結局朝帰りだね♪」
腕に抱きついて仁くんの家まで歩いて向かう
「そう・・・・・だね」
もう、あれだけ激しく交わったのに
いまさら恥ずかしがるなんて
私まで・・・・
思わず赤くなる頬を抑えて私は幸せを噛み締める
これが私たちの日常になっていく
これからずっと・・・・
そう思わせてくれるほどこの時間は私にとって幸なものだった

〈緊急ニュースです。
 先日お伝えした学校で生徒達に刀で襲い掛かり
 逃走後襲った一人を拉致しその場を爆発させ行方不明とされていた
 女子学生の家で女子学生の両親の遺体と女子学生の通う
 学校の生活担当の教師の遺体が庭で発見されました 
 警察は女子学生が犯人と見て捜索中とのことです 
 なお女子学生は凶器を所持している模様です 
 近隣の住民の方は戸締りをしっかりし外に出ないようにしてください 
 繰り返します・・・・・・・・・・〉


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