生きてここに… 本編 第10章
[bottom]

「あなたがいなければ・・・・こんなことにならなかったの」
その瞳に映るのは獲物
捕獲し皮を剥ぎ肉を裂く
狩人の瞳
どうしよう・・・・・・
刃先が私の首元に軽く押し付けられる
小さな赤い雫が私の首を伝っていくのを感じる
「あなたがいなければ彼は私を愛してくれるの」
周りの子は怯えて腰を抜かしている
それか逃げ出している
でも、引かない
ここで逃げたら私はもう逃げるしかできない女になってしまう
「そんなので威してるつもり?」
それを聞いて彼女は冷酷にニッと笑んだ

 

「なになに?」
「なんだよ・・・・仁、真剣な顔して」
「・・・・・・・・」
三人で頭だけ出して様子をうかがう
な・・・・・
「うそ・・・・なにあれ」
奈々の顔が青ざめていく
東児は唇を噛み締めた
俺は飛び出す
詩織の元に
無我夢中で
「詩織!」
「仁くん!?」
その瞬間、悪魔のような女の刀を握る力が強まるのを感じた
それを見た詩織は地面を蹴って後ろに下がった
すぐに反応した悪魔が刀を振り上げそのまま詩織に向かって降ろしていく
「食らえ!」
わき腹に一発食らわせてやる
両足が地面を引きずって後ろに下がる悪魔
「え・・・・・」
手ごたえはあったのに・・・・なんで?
なんで立ってられるんだよ!

 

仁さん・・・・無駄よ・・・・もう私は負け犬じゃないの
・・・・あるね・・・・きっかけをがあったの
それからね・・・・私の中で何かが壊れたの
違うわね・・・・本当の私になったの
もう感じないの・・・・悲しいも辛いも
楽しいも・・・・あるのはね、あなたへの愛とどうしょうもない憎しみだけ
でも・・・・いいの
これが・・・・本当の私だから
ニッと笑えんで仁さんを見つめる
私はそのまま憎くてどうしようもない雌犬に向かっていく
仁さんが私と雌犬の間に割ってはいる
私に向かって放たれる拳
ダメじゃない・・・・仁さんはなにもせずに見ていて
あの雌犬の無様の姿を・・・・
あんな雌犬なんかより私の方が優れているってこと・・・・教えてあげる
私は回転して拳をかわしてあの雌犬に向かっていく

 

う、ふふ・・・・・どう?
見下していた人間にこんなふうにされる気分は・・・・
怖い?・・・・そうよ、恐怖で歪むその顔が私を駆り立てるの
その瞳はまるでライオンにノドを噛まれる瞬間の動物の瞳
私の肉と血にになりなさい・・・・・
「この!悪魔!」
大きな石が投げつけられて私のわき腹に当たった
あら・・・・もう一匹いたのね
可愛らしい顔・・・・食べちゃいたい
でもね、いくら可愛い顔していてもね
仁さんと私の間に入るなんて許さないわよ

 

「奈々・・・・・」
身体が震えている
怖いはずなのに・・・・
それでもと自分を奮い立たせて・・・・俺を援護してくれた
華奢な身体からは想像できない力だ
でも今は感謝するしかない
軌道の変わった悪魔がバランスを崩す
「今度は逃がさない!」
今度は顔面に一発
頬に食い込む俺の拳に悪魔の目が下がって拳を見た
そして悪魔は笑んだ、その瞳は狂気に満ちている
悪魔はいまにも声を上げそうにして刀を詩織に向かって投げつけた
「しまった!」
回転しながら詩織に向かっていく
「詩織さん!」
直前で奈々が倒れていた詩織を抱きかかえてその場から手で押した
ゴス!
地面に突き刺さる刀
いつの間にか悪魔はその刀の方へ向かっている
俺は刀ではなく詩織の方に向かった
な・・・・・違う・・・・奈々!

 

違うわよ・・・・仁さん
知ってるこういうときはね・・・・
弱いのから狩るの・・・・
私は刀を手にするとまっさきにか弱そうに恐怖するもう一匹の雌犬に向かっていく
「奈々しゃがめ!」
「きゃ!」
振り下ろした刀が弾かれて私の身体も後ろに引いた
さすがね・・・・仁さん・・・・冷静な判断よ
仁さんのいったとおりにする雌犬
すぐに言うことを聞いたってことは・・・・ふふ
でもね、仁さんは私のものなの・・・・
そこからじゃよけるなんてできないでしょ?
ふふ・・・・切り刻んで愛してあげる
可愛い・・・・可愛い雌犬さん
「させるか!!!!」
逆手に構えて振り下ろした瞬間仁さんがスライディングして雌犬を抱える
仁さん?・・・・どうしてそんな子を抱いているの?
今はいいわ・・・・でもあとで・・・・たっぷり・・・・ね?

 

また地面に突き刺さる刀
しかしすぐに悪魔は刀を俺たちに向かって振り下ろしてきた
俺は奈々を突き飛ばすと刀を握る手を殴りつけてやった
ゴンと音を立てて天空に上がっていく刀
悪魔は刀の落下地を予測してその場に駆ける
させるかよ!
俺も続こうとしたが
さっきのスライディングで脚を痛めたらしい
動け・・・・ない
俺がもたもたしているうちに刀が降ってくる
悪魔が刀を掴んだ
それと同時にまた刀が宙を舞った
「あんた、自分がなにしてるのか・・・・わかってるのか?」
東児だ!
ああ、さっきまで腰抜かしてたくせに
でもお前がいてくれて本当によかった!
「く・・・・!」
悪魔は悔しそうな声を上げ逃げていく
ボスっと音を立て持ち主を失った刀が地面に突き刺さる
辺りを一瞬の静寂が包んだ
「う・・・・・ぅぅ・・・・・・怖かったよ!」
沈黙を破ったのは奈々の声だった
俺に抱きつき顔を摺り寄せる
「仁・・・・く・・・・ん」
詩織も俺の前までやってきてガクっとひざを折った
俺は詩織を抱き寄せ二人を力強く抱きしめた
「怖かった・・・・・怖かったよ仁くん!!」
「仁ちゃん!仁ちゃん!仁ちゃーん!」

 

泣きすがる二人に俺は安堵がこみ上げてきた
「お前のおかげで助かったよ・・・・東児」
「腰抜かして、かっこ悪いとこ・・・・見せちまったな」
「そんなことないさ・・・・」
「そうか?」
二人で笑い合う
でも安心するのはここまでだ
「東児・・・・早く警察を」
「ああ、そうだな・・・・」
ケータイを取り出す東児と俺の間にある刀に俺はあるものを見つけた
「東児・・・・・」
「どうした?」
刀にこべりついた真っ赤なものを東児も気づいたようだ
「刀が・・・・・血に染まってる」
無我夢中で気づかなかった
俺たちはその刀に錆びのようにこべりついた紅の血に
唖然とする東児と俺
東児の手からケータイが落ちた


[top] [Back][list][Next: 生きてここに… 本編 第11章]

生きてここに… 本編 第10章 inserted by FC2 system