生きてここに… プロローグ 第1章
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うれしさを隠さずに私は電話を置いた
「お父さん・・・・今度のパーティーに私の大切な人を呼びました」
お父さんはすこし複雑そうな顔をしたけど「そうか」とうなずいてくれた
「それで、相手は?」
「クラスメイトの仁ちゃ・・・・おほん!流くんです」
「流?もしかして、あの大会社の・・・・跡取りの?」
どうやら流家というのは有名らしい
私は少し誇らしくなって「そうです」と答えるとまたお父さんは複雑そうな顔をした
「しかし、彼は月緒さんのご息女と婚約をしているのでは?」
その話も有名らしい
ああ、もう・・・・悔しいな
でも・・・・負けてられない
「お父さん・・・・愛は与えられるものではないの・・・・奪うものなのよ!」
また複雑そうな顔をされた
これは心配かな?
「そ、そうだな・・・・それでこそ僕の娘だ、応援しているよ」
「はい♪」
うきうきしながら階段を登る
どのドレスにしようかな?
ドレスを並べて品定め
「なんか女の子してるな・・・・私」
漫画で見たような状況に私は思わず笑ってしまった
仁ちゃんに会うまで想像もできなかったけど
よく大人に奈々ちゃんは大人しくていい子だねと言われた
でも、違うの・・・・だって今の私が本当の私だから
きっかけが欲しかった
自分を出すきっかけ
それを与えてくれたのは仁ちゃんだ
仁ちゃんの前では着飾った私を取り繕う必要もない
そう思わせてくれるほど
仁ちゃんには不思議と人の心を包みこみ力がある
たぶん仁ちゃんは悲しい思いをなんどもしたのだろう

私ね、思うの
優しい人ってそれだけ悲しみを知っている人だって
だって悲しいや辛いを知っていなければ本当に人に優しくできないでしょ?
それを知らない人の優しさなんて極端な言い方だけど偽善や綺麗事だよ
知っているから仁ちゃんは優しいんだ
知っているから仁ちゃんはなにもかもを包み込んでくれるんだ
私はもうゾッコンだよ?
仁ちゃんの気持ちは知っている
でも人にはゆずれないものだってあるんだよ?
私にとってそれが仁ちゃんなだけ
だからたとえ何年経ってもこの気持ちは変わらない
誰にもゆずらないし私だけのモノだ
でも待っているだけなんて耐えられない
だけど恋愛経験の皆無な私には漫画にあるようなアプローチしかできない
でもいいよ、恋愛経験は仁ちゃんに鍛えてもらうから
だから私は私なりにがんばってみるよ
不器用でも想いは伝わると思っている
「愛してるよ・・・・仁ちゃん♪」
部屋に飾ってある私と仁ちゃんの並ぶ写真
これは無理やりにたのんで一緒に撮って貰った写真
仁ちゃんの顔にキスしてドレス選びを再開した

「ふわ〜ぁ」
大きなあくび
「これで3回目だよ?そんな眠いの?」
呆れがちな奈々さんに俺は軽く解釈した
外を見るとプールの壁に男がたかっていた
そうか、もうプール開きか
「お〜、やってるやってる・・・・・どこもこの時期は同じ景色がひろがるんだな」
「男の子ってみんなあんななの?」
少し身を乗り出してそれを見ていた奈々さんがため息まじりにそう言った
「おうよ、俺だっていますぐにあの場所に飛んでいきたいよ・・・・あ〜、授業とあの壁がなくなればな」
俺は心底の哀れみを込めて東児見てやった
「最低・・・・もしかして仁ちゃんも?」
「俺をあの犯罪者と一緒にしないでくれ」
「それもそうか・・・・」
うんうんとうなずくと東児が後ろから俺をひじで突いた
「んなこと言ってお前も見たいんだろ?たとえば、詩織さんのとか・・・・」
「・・・・・・・」
ゴン!
教科書が顔にぶつけられる
「奈々さん・・・痛い」
しかし彼女はプイっとそっぽを向いてしまった
俺はこの怒りを東児にぶつけその憂さを晴らした
酷い?違うな・・・・だって諸悪の根源はこいつだから

熱心な目が俺に向けられる
今日は他校の生徒と練習試合の日だ
たくさんの視線が俺に向けられる
そんな期待しないでくれ
期待は一度壊れるともろくて簡単になくなる
それを俺は充分に理解している
でもひとつ・・・・いやふたつだな
違うまなざしを感じる
周りを見ると滅多に試合を見に来ない詩織の姿
そしてもうひとつのまなざしは・・・・・
「仁ちゃ〜ん、がんばれ〜!」
なんだあれは
「や、やめてくれよそんな大きな旗」
それもLOVE JINとプリント付きだ
「こっ恥ずかしいな・・・・ったく」
まんざらでもない俺に詩織がムッとして
「頑張れ〜仁く〜ん!!!!!!」
キーンと耳を突き抜けるような大音量が耳を通り抜けた
その後の苦笑の声
詩織は顔を真っ赤にして縮こまってしまっている
「・・・・・ふふ」
緊張も不安も当に吹っ飛んでいた
俺は心の中で詩織と奈々さんにお礼を言って相手と右手を合わせた


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