生きてここに… プロローグ 香葉の章
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「ごめん・・・・俺、好きな人がいるから」
「おねがい!」
「ごめんなさい!」
「どうしても・・・・ダメなの?」
「ごめんなさい・・・・」
ああ、やっぱり・・・・
想像していたはずの答えなのに私は立ちくらみを覚えた
そして見てしまった
少し先の物陰の彼女の姿を・・・・
幸せそうな顔をしてその場を去っていく
殺してやりたい・・・・
「好きな人って・・・・月緒さん?」
仁さんは少し顔を伏せると決意したかのようにパッと顔を上げた
「はい、もうベタ惚れです・・・・彼女しかみえません!」
はっきりとした口調に目の前が真っ暗になる
「婚約者だから・・・・勘違いしてるんじゃないのかな?」
「確かに親同士が決めたことだけど・・・・でも俺、本気ですから」
・・・・どうして?
あの女を見るときは優しい目をしているのに
私を見ている目は冷めていた
「あの、俺・・・・ごめんなさい!」
去って行く背中
引き止めて私だけのものにしたい
心がダメなら愛刀で切り裂いて私のモノにしてやりたい
でも、それを実行したところで彼の方が数倍以上の身体能力を持っているので
返り討ちにあい私は警察に突き出されてしまうだろう
そして、彼は永遠にあの女と幸せに暮らすんだ

許せる?許せるわけがない・・・・
トボトボとおぼつかない脚で歩き出す
最悪・・・・雨まで降って来たよ
この雨の中あの二人は相合傘なんてして帰ってるのかな?
それに比べ私は・・・・
なんとか家まで帰ることができた
ただいま・・・・仁さん
部屋中に飾ってある仁さんの写真にほほえむ私
この部屋結構広いのに写真で覆い尽くされている
絶景なのに悲しい気分になった
まずパソコンに向かって今日の仁くんの行動を書き込む
もちろんフラれたことは書かなかった
また悲しくなった
「こういうときは・・・・」
私は立ち上がり実家のおじいちゃんが作ってくれた愛刀を手に持った
隣の道場に向かい袴に着替えた
私の家は田舎の大地主でお金持ちだ
おじいちゃんが趣味で刀作りなどしている以外は
ほかのお金持ちの家と変わらない
欲しいものはなんでも手にできた
お洋服にお人形
父と母の愛情にペットに・・・・
数えたらきりがないくらいだ
男の子にだってなんども告白された
みんなバカばっかりだから速攻でフッてやったけど

でも仁さんは違った
他の子にはない高貴な雰囲気を持っている
勉学はいまいちだけどスポーツに関しては天才だった
私は初めて人を好きになった
ドラマのような劇的なものはなにもない
でも好きになっちゃたんだから別にいいよね?
なのに!いつもいつも!あの女が仁さんの隣にいる
羨ましそうなたくさんの視線を受けて誇らしげにしている
ああ、殺してやりたい!殺してやりたい!
私は目の前にある木でできた人型人形の顔の部分に貼ってある
あの憎くてしょうがない女の写真に向かって一太刀入れる
ちょうど顔が真っ二つになった
物足りない・・・・次は心臓部
木に刀が入り込むと同時に快感が身体に走る
気持ちいい・・・・これが本物だったらどれだけ気持ちいいのかな?
現実には不可能のだろう
だって彼が全力であの女を護ろうとするだろうから
だから今はこれで我慢しなくちゃ
でもいつ我慢できなくなるかわからないな
今の状況・・・・
「はぁぁーーーーー!」
人形の写真部分を真っ二つにする
ふぅ、すっきりした
でも、あの言葉がフラッシュバックする
『ごめん・・・・俺、好きな人がいるから』
どうしてそんなこと言うの?
どうして私を拒絶するの?
足元に転がる真っ二つにされたあの女の写真を見つめる
顔が綺麗だからその顔に魅せられてるの?
それともあの大きな胸?
もしかしてその股ぐらで騙されてるの?
汚されていく仁さんを想像して私は胸が煮えくり返る気がした
そうだよね?あの女は穢れしならない彼を騙しているんだ
待っててね?すぐに彼女より私の方が優れていること証明して見せるから
待っててね・・・・仁さん


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