生きてここに… プロローグ 奈々の章
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唖然と立ち尽くしてしまった
すごい目で睨みつけられた
なんという迫力なのだろう
力技でこそこなかったものの威圧感はすさまじいものがあった
なにもできずにいる私を勝ち誇ったかのような笑みで見つめ
二人でその場をあとにする
数分経って悔しさが込み上げてくる
「ああ!もう!」
近くにあった椅子を蹴り飛ばす
ああ、先輩方が怯えてるよ
でもどうでもいいや
正直な話仁ちゃん以外の男性の評価など私にはどうでもいいことだから
帰り道私はイライラしながら車の中で窓の外を見つめた
せっかくお話できたのに
気軽に話ができる仲にはなったと思うけど・・・・
あの人に邪魔されてしまった
ああ、悔しい!悔しい!悔しい!
正直容姿であの人に勝てるなんて夢にも思えない
それほど彼女の美は完成しきっている
街中で歩けば100人中100人の人が彼女とすれ違いざまに振り返るだろう
でも、私は彼女よりもちいさいけど胸はそこそこある
顔の方はカワイイねとは言われるけど綺麗とは言われない
子供っぽいと言われることも多々あるが
それでも中学のときなんどか男子に告白された
でも私はあの時から仁ちゃんしか目に入っていなかったので断った
少しはカワイイって思ってくれてるかな?
他の女子と違って私には壁を作らないところを見ると
多少の好意みたいなものはあるよね?
彼のことを考えているとすぐに家まで着いてしまった
不機嫌そうな私を運転手さんが横目でちらちら見ている
私は愛想笑いを浮かべ門をくぐった

 

初めて会ったのは2年ほど前だ
繁華街に買い物に来ていた私はお付の人と離れてしまった
世間知らずの私が途方もなく歩いていると男の人二人が私に声を掛けてきた
どうしよう・・・・・こわい
オロオロする私に男の一人が強引に手を引いてきた
「やめて・・・・!」
周りの人は横目で見るだけでなにもしてくれない
「いいじゃん、飯だけだぞ?」
「いまどき純情っこなんてモテないって」
軽薄そうな笑みを浮かべ私を無理やり引っ張る
私がさっよりも大声を上げようとしたときだった
「・・・・・・どわ!」
急に前に男の子が倒れこんだ
年は私と同じくらいでびっくりするくらいの美形さんだった
「痛てて・・・・」
「なんだ、お前?」
男の一人が挑発的に男の子にそう言う
しかし男の子はなにごともないかのように立ち上がりズボンをはたいた
「なんか言えよ、チビ」
挑発は続くが男の子は方をすかした
「なにやってるの?」
「デートだよ」
「男二人で・・・・・キモ」
横の二人の男がぴくぴく頬を動かしている
どうしよう・・・・このままじゃこの男の子ボコボコにされちゃうよ
「どうしてそうなるんだ!」
「だってどう見たって真ん中の子、二人の連れじゃないでしょ?」
「バカにして!」
一人がとうとう腕を振り上げた
私のことはいいから逃げて!
目で訴えかけても男の子はまったく動かなかった
「・・・・・な」
私の腕をつかんでいる男が驚きの声を上げる
男の子が軽々と拳を受け止めたからだ
「反射神経には自信があるんだ」
そう言って次々に飛んでくる拳をよけている
私の腕をつかんでいた男も加勢に入る
けれど男の子はひるまない

 

「・・・・・」
冷静な顔をして拳をよけていく
もう一人の男が掴みかかろうとするがそれもうまくよけていく
男の子の目を見ると『逃げろ』と言っている様な気がした
でも・・・・・
『いいから逃げろ』とその目はまた語りかけてくる
私は小さくうなずくと後ろを向き駆ける
はやく助けを・・・・!
私は駆け回った
早く早く!
すると向こうのほうにお付の人を見つけた
その人はボディガードもかねているので急いで事を伝え元来た道を引き返した
その場に着くと男の子の姿はなかった
近くの人に聞くと二人の男が男の子を追っていくのを見たらしい
ああ、私のせいだ・・・・
青ざめていく私をどうにか車まで戻してくれるお付の人
お付の人は男の子の容姿を私に聞いて探しに言ってくれた
「・・・・・・」
私のせいだ・・・・
自己嫌悪に陥っていると窓がコンコンと小さく叩かれた
「うそ・・・・」
思わず声が出た
窓の向こうには先ほどの男の子が立っていました
急ぎ窓を開き顔を確認する
少し殴られたあとがある
「ごめんなさい」
「こういうときはありがとう・・・・だと思うけど?」
それを聞いて顔を見てみるとなぜか男の子は微笑んでいた
一瞬で私は魅せられた
ああ、素敵・・・・
「あ、ありがとう・・・・それであの人たちは?」
「ああ、バカみたいに追っかけてくるから警察の前まで行ってそれに
気づかないで付いてきてさ、そこで一発殴られてやったら即刻御用だよ、
手錠なんてはじめて見たよ・・・・いい経験だった」
彼は殴られた頬をポンポンと叩きながら冗談を言うようにそう言う
「すぐに報告しようと思ったんだけど事情説明で遅れちゃって、ごめんな」

 

恩着せがましくない男の子の態度にますます魅せられてしまった
「報告も済んだし、じゃあ・・・・俺はこれで」
そう言って去ろうとする男の子の腕を私は必死で掴んでとめる
「あの、私・・・・大川奈々です・・・・あ、あなたは?」
まるでドラマのようだ
いや、私にとってはもうこの人は王子様だ
「俺か?俺は流仁っていうんだ」
それと同時に後ろで声がした
「仁様〜!もう逃がしませんよ!」
「やばい・・・・見つかった」
彼は軽く手を振ると全速力で逃げていく
「またケンカしたのですか!まったくこんどという今度は許しませんよ!」
「ごめん!でも仕方なかったんだよ!ゆるしてくれ!」
かなりのおじいさんだがすごく元気だ
疲れを見せるどころか少し嬉しそうに彼を追っていった
「流仁・・・・・」
私はこのとき恋をしたのだと確信した
その後泣きながらお付の人が戻ってきた
私を護れなかったどころか
代わりに護ってくれた恩人にお礼も言えないとはと・・・・
私はいまの出来事をお付の人に言うと少し安心していた
帰ってお母様に大目玉を食らうお付の人を私は必死で庇った
なんでかって?だってお付の人のおかげで彼と出逢えたから
私の声もあってその人はクビにはならずに済んだ

 

高校に入って私は彼と再会した
ああ、運命って素敵
彼を見つけた私が声を掛けようとしたときだった
「仁くん♪」
そう言って彼に抱きつき頭を撫で撫でしている
誰?その女・・・・
私はグツグツと煮えたぎる嫉妬を生まれて初めて感じていた
その後私は彼女のことを必死で調べた
この学校一の美人で大金持ちで成績優秀な彼女の情報はすぐに把握できた
すごくショックだったなにがって?
だって彼の婚約者だって言うのだもの
本人が言いふらしているらしくその話は入学してすぐに広まっていった
イライラしながら席に腰掛ける
ああ、最悪・・・・
ため息を付くとバカ騒ぎが聞こえてきた
クラスメイトの男子の一人が騒いでいる
うるさいな・・・・
イライラが増していく
「うるさい、黙ってろ!」
思ったことが現実に聞こえた
騒いでいた男子を見ると同時に額をゴンと叩かれていた
「痛いじゃないか、仁!」
仁?もしかして・・・・
ああ、そうなんだ
「みんな引いてるぞ?お前・・・・クラスデビュー失敗決定だな」
「が〜ん」
辺りを見回すと彼を見つめる皆の瞳にハートマークを浮かべている
もちろん視線の先にあるのは騒いでいた男子ではなく
もう一人の彼だった
「席はどうなんだ?」
彼の友達が彼にそう聞くと彼は適当に辺りを見回して私の隣に腰掛けた
「適当でいいじゃないの?」
「そうだな」
彼の後ろの席に彼の友達も腰掛ける

 

「おお、カワイイ子・・・・よろしく!」
目を輝かせて私に挨拶する彼の友人
「わたくしは高坂東児ともうすものであります!ぜひ親しいお付き合いを!」
私が思わず後ろに引くと同時にまた東児と名乗った男子の額に
ガツンと一発ぶつけていた
「東児・・・・引いてるだろ、その子」
「きさま、またいいとこ取りなのか・・・・ええ?」
「お前が見境ないって言ってるんだよ・・・・色魔くん」
反撃を試みるもそれをかわされてまた額を叩かれている
「ごめんね、うるさく・・・・・・・て」
言葉が途中で止まった
もしかして?
「キミ・・・・・確か二年前の・・・・・奈々さんだったかな?」
覚えていてくれたんだ
ああ、嬉しい!嬉しい!嬉しい!
「お久しぶり・・・・・仁ちゃん♪」
「仁ちゃん?仁ちゃんだとーーーーー!!!」
東児さんが恨めしそうにしているが彼は無視している
「仁ちゃんはやめてくれ・・・・」
友人同士の会話のようにスムーズに言葉が交わせた
でも、すごいな入学一日目なのに嫉妬の的だよ私
けれどなんか優越感っていうのかな?
気持ちいいなこういうの
もっともっと嫉妬させてあげるよ
すぐに恋人になるんだから・・・・ね?仁ちゃん・・・・
だってこんな偶然ってないよ?
同じ学校に入って同じクラスであなたは私の隣を選んだんだよ?
これはそうなるべくしてなったんだよ仁ちゃん・・・・


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