過保護 第15回
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全く……困ったものだ。
女は三人集まると姦しいという言葉はあるが、たった二人だけでこうも扱いづらくなるとは
思いもよらなかった。
「……………………」
方やとてつもなく暗い女。
見ているこっちの心臓まで止まりそうになる。
病は気からとも言う、こんな事では傷の治りも遅くなる。
もっとも、無理のない話ではある。
悪いとは思ったが昨日の恋人とやらとの会話を聞いていたのだが、
この黒崎栞はそこで恋人に別れを告げられたのだ。
今日はなんとか気分を変えれないかと思い、助っ人を呼んできたのだが……
「不屈、最近『Phantom Evil Spirits』に居ないと思ったらこんな所に来てたんだね……」
その助っ人の機嫌が妙に悪い。
「ジェンティーレ、何かあったのか?」
「君はコーヒー一杯で8時間粘る事の苦しさを知らないんだ」
「知りたくもない。迷惑行為だろう、それは」
むっ……何故か空気がさらに重くなった。
「「………………」」
ついに二人して黙り始めた。
方や遠くを見つめて、方や俺を睨んで。
「何が不満なのかは知らんが協力してくれ」
「そりゃあ怪我人を元気付けるだけなら喜んで協力もするさ。
迂闊だったよ……相手が年頃の女の子だって可能性も十二分にあったというのにね」
「……何の話だ?」
「不屈にはわからないだろうけどね。だいたい不屈は無意識無自覚でそんな行動する所が一番怖いよ」
「……だから何の話なんだ?」
ジェンティーレの言葉は徐々に独り言に近くなっていき、それに伴い機嫌も悪くなっていく。
仮にも女性である黒崎栞の気持ちなら俺よりもジェンティーレの方が詳しいだろうと思って
連れて来たが、見通しが甘かったかもしれん。
「……不撓」
……などと考えていると今度は黒崎栞より話しかけられる。
「痴話喧嘩なら他でやっててくれ、正直に言って見ていてイライラする」
……至極もっともな意見だった。
どうやらジェンティーレを連れて来たのは良くなかったらしいな。
「ジェンティーレ、すまないがしばらくロビーで待っていてくれ」
「私もここに居る」
即答された。
「年長者は年長者らしく聞き訳を良くしたらどうなんだ」
「こんな時だけ年齢の話をしないでくれないかい」
「ふ・と・う……」
とうとう黒埼栞が殺気を発し始めた。
いい加減に限界だろう。
「ジェンティーレ、お前は子供か?否定する気があるのなら今すぐにロビーで待っていろ」
「………………」
「………………」
二方向より睨まれる。
黒崎栞はともかくジェンティーレよ、俺が何をしたと言うのだ?
「……わかったよ」
ジェンティーレはそれだけ言い残すとすぐに病室から去って行った。

「それで、恋人自慢でもしに来たのか?」
「恋人か……そうなれば良いとは思うが、今の所は違う」
「恋愛相談なら他の人に聞いてくれ。こっちはそんな余裕なんて無い」
相変わらず黒埼栞は不機嫌そうである。
「不撓は残酷だな……」
そんな独り言めいた言葉を聞いた。
「何の話だ?」
「好きな人が今どうしてるかってのは気になる。ましてや会える状況じゃなかったり
連絡がつかなかったりすると尚更に」
「ほぅ……ならば直接確認すれば良かろう」
「それが無理だと言っているんだろう」
「なら試してみるか?元より今日はそれを確認するために来たのだからな」
「……えっ?」
黒崎栞に着けられたギブスを素早く破壊していく。
「不撓!?何をやってるんだ?」
「伊達や酔狂で毎日通っていた訳ではない。これを見ろ」
ギブスの裏に貼り付けておいた札を見せる。
「これは?……難しくて読めない」
「当然だ、読めたら俺は陰陽師を辞めている」
「おん……みょうじ?」
「文字に見えるだろうが、これは治癒方術の術式だ。
生物が本来持つ治癒能力を高める効果がある札でな、傷が治るまでの時間を短縮できる」
「いつの間に……」
「とは言え使い捨てカイロのような物だからな、毎日取り替える必要があった訳だ。歩けるか?」
黒崎栞は恐る恐るベットから降り……
「凄い……痛くない」
しっかりと両足でもって立ち上がった。
見た限り両腕の経過も順調のようだ。戦闘はまだ控えた方が良いだろうが、
日常生活にはおそらく支障は出ないだろう。
「初めて不撓を凄いと思ったかもしれない……」
「片手間で作れるような精度の低い治癒符だ。本腰を入れていればもう何日かは短縮できた」
「ありがと……」
「かまわんよ、元々俺が負わせた傷だ」
「でも……ありがとう」
黒崎栞が笑う顔は初めて見た。
これが見れただけでも良しとしておこう。
「不機嫌の原因は昨日来ていた恋人とやらなのだろう?」
「ああ、健斗があんな事を言うなんて今でも信じられない」
「仲直りをするのなら早めに行った方が良かろう」
「ああ、行ってくる」
それだけ言うと黒崎栞は軽く両足を動かし……
 ガチャン……
「不撓、その……本当にありがとう」
今までの元気の無さがまるで嘘だったかのように走って行った。
さて……これでとりあえず半分は片付いた。
後はジェンティーレか……

「……と、言う訳だ。他に何か質問はあるか?」
「そんな事があったんだね……」
ロビーにたどり着いた俺を待っていたのは、ジェンティーレからの質問責めであった。
もっとも、元より隠す必要は無い。
俺は簡単にではあったものの、ジェンティーレに今までの経緯を話した。
「それであの子……栞さんだったかい?」
「ああ」
「今はどうしているんだい?」
「さあな。おそらく恋人との仲直りの算段でもしている事だろう」
そう言うとジェンティーレは露骨に眉を顰めた。
「どうした?」
「さっき占ったんだけどね……あの子の運気はあまり良くないから、
今下手に行動を起こすと悲惨な事になるかもしれない……」
……俺まで眉を顰める事になった。
「探してくる。黒崎栞の退院手続きは任せる」
「えっ!?ちょっと……不屈っ!」
俺は黒崎栞の姿を求めて走り出した……


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