過保護 第13回
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最初は自分の目を疑った。
次に白昼夢かと疑った。
それはグラウンドで投球練習をしている赤ハチマキの少女と……私の最愛の少年、倉田健斗だった。
あの少女は……どこかで見たような気がする。
どこかで会ったではなく、どこかで見た事があるような気がする。
いつだったけ…あんなにも特徴的な女の子を忘れるとは思えないんだけど…
う〜ん……えっと……
あっ、ちょっと前に友達の噂になってた女の子。
あんまり興味がなかったから半分しか聞いてなかったけど、確か超の付くお嬢様口調、金髪、
赤いハチマキ。
何だっけ、あのハチマキって確か噂では……いいや、思い出せないしどうでもいいし。
今の私にとって重要な事は一つ、それはライバルが一人増えた事だけ。
ライバルがまた一人増えただけ……天よ、貴方は私を見捨てたのですか?
とにかくまずい、このままじゃ本当にまずい。
黒崎先輩一人にもてこずってるのにこれ以上ライバルが増えるのは無視できない。
そうなると今までみたいに先輩だけに注意を払う訳にもいかなくなる。
そう、これからは常に抜け駆けを警戒しなちゃいけいんだ……かつて私がしたように。
今……ようやく倉田君は会長と別れたみたい。
どこかへと走り去って行く生徒会長を手を振りながら見送っている。
ここからは見えないけど、一体どんな顔をしているんだろう。
倉田君の……馬鹿。
どうしてこの期におよんで女の子にそんな事をするの?
私が倉田君に抱いてる想いに気がついているの?
君は知らないと思うけど、女の子って意外とそうゆうのに弱いんだよ。
倉田君の……大馬鹿……
ここ2週間ばかり、倉田君は妙によそよそしかった。
まるでそう……私から距離をおこうとしてるみたいに。
最初は黒崎先輩とよりを戻したのかと思った。
けど違った、倉田君は病院には行ってなかった。
だから二股をかけた事への罪悪感からかと思っていた、今までは。
でも……本当にそうだろうか?
あんまり考えたくなかったけど……あるいは他の女の子と一緒に居る時間を捻出するため
だったんじゃないのだろうか。
そしてその他の女の子が新任の生徒会長だった……今の私にこの説を否定する材料は無かった。
いえ、それはどうだろう。
倉田君はどちらかと言えばそんなにモテる方じゃない。
それに倉田君は自分から積極的にアプローチするタイプでもない。
生徒会長が倉田君に惚れているなら、あるいは……あるいは……
でも、三階の教室から見たあの女の子の表情。
遠かったから確信は持てないけど、楽しんでいたような気がした。
証拠はないし、確信も持てない、でも……やっぱりライバルが一人増えたと考えた方が良い。
これからは三つ巴の体制となる。
そう、古の三国時代のように。
決して隙を見せず、付け入る隙を与えず、倉田君を助け出す……
そう、助け出すんだ。
先輩にも生徒会長にも倉田君を幸せにするのは無理だ。
私が、倉田君を一番良く見ている私だけが倉田君を幸せにできる。
私が正しいんだ、私だけが倉田君を想っているんだ。
そうだ、もう……手段は選ばない……選んでられない……

「可奈!聞いて聞いて、むしろ聞きなさいっ!」
……と、どうしてこの友人は他人が真面目に考え事をしている時に話しかけるんだろ。
まあいいや、ちょうどこの子に聞きたかった事があるし。
この子は私の友人(?)の村風由江(むらかぜ ゆえ)、ごく普通(?)の噂好きな女子高生。
どこから仕入れてくるのかは知らないけど、学校の七不思議や期末テストの問題、
果ては校長先生の不倫相手まで知ってる。
しかも困った事に由江が知った事は3日以内に全校生徒にまで知れ渡ってしまう。
お蔭で試験前日に全教師が徹夜で問題を作り直したり、校長先生が辞職したりと
先生にとっては大迷惑な存在でもある。
でも、今となっては好都合。
この子は記憶力も良いから一度流した噂を忘れたりはしない。
この間生徒会にヘッドハンティングされたって嬉しそうに話してたし、
生徒会長の情報を集めるにはこれほどまでにうってつけの人物はいないと思う。
「由江、ちょうど良かった。ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「そんな事はどうでもいいのっ!良い、なんと昨日にね……」
「ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「……何?」
頭に怒り皺を増やすのがコツ。
「今度新しく就任してきた生徒会長の事教えて」
ちょっと不満そうな顔をするけど、由江はすぐに喋り始める。
基本的にお喋りが好きな子なんだ。
「え〜……と。名前は三河岬(みかわ みさき)、身長158cm、体重47kg、B82/W56/H/86。
誕生日は9月11日、イギリス人のお母さんと日本人のお父さんの間に産まれたハーフで、
十手と取り縄を操って相手を殺す事無く捕縛するのを目的とした武術
『功水流(こうすいりゅう)捕縛術』の正統後継者……
あんまり血筋とかは考えない流派らしいわ。
現在昇龍高校生徒会会長に就任、生徒会再建計画と不良撲滅政策を遂行中……
こんなもんで良いかしら?」
……本当にどこでこんな話を仕入れてるんだろう。
「あのさ、あのハチマキについて前に何か話してなかったっけ?」
ついでだから聞いておいた、何が何処で役に立つかわからない。
「それがねぇ……あのハチマキ、普通に染めたにしてはちょっとくすんだ色だと思わない?」
言われてみると、あの色は確かに普通の赤とは違うような気がする。
「実はあれね……元々白かった布が血で染まって赤くなった物なんだって、それも相当昔に」
「本当に!?」
「本当よ、私が可奈に嘘ついた事がある?」
由江の噂話には良くも悪くも信憑性がある。
と言うよりも基本的にしっかりと裏づけの取れた物しか教えてくれないし、
裏づけの無い物は事前に断ってから言ってるだけなんだけど、
どちらにせよ信憑性はある。
でも今の話は後で役に立つかもしれない、覚えておこう。
「由江、他には何か知ってない?」
「う〜ん、会長に関してはこのくらい。後は可奈が健斗君に色目使ってるとか……」
「由江、それだけは言いふらさないでね……」
「まっ、流石に親友の恋路は邪魔しませんって」
こんな所までいつもの由江だ。
基本的にこの子は自分が気に入った人の害になるような事はしない。
まあ、後でパフェを奢らされなければ良い友人だと思う。
「そうそう、さっきも言いかけたけど可奈にとっては悪くない噂をついさっき耳にしたのよ」
「悪くない噂……?」
「倉田健斗君が昨日黒崎栞先輩と別れたんだって」
「ええっ!?」
ああ、なんだ……天は私に味方してるんだ。


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