過保護 第2回
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あれは今から二週間前の話…
あの日の私は少々イライラしていた。
あの子が一緒に昼食を摂るのを拒否した、たったそれだけの事だ。
『たまには先輩以外の人とも付き合わないと…』そう言っていた。
良いではないか、たかが一度や二度疎遠になった位で離れるような友人など放っておいて。
私は…誰よりも健斗を愛してる、誰よりも健斗のためを想っている。
昼食時位は一緒に居ても良いではないか…
頭の浮かぶのはそんな言葉ばかりであった…
私は少々ライラしていた。
たとえ放課後に一緒に中間試験対策をしても、帰りに一緒に寄り道をしても、このイライラは収まらなかった。
だから私は適当に良心の痛まない人種を見つけ出して…病院送りにしようと思っていた。
その日は少し遠出をして、隣町にやって来た。
「黒崎栞(くろさき しおり)だな…悪いがここは通行止めだ。この町の治安が悪くなるのを快くは思わんのでな」
裏路地で、見知らぬ男からそう声をかけられた。
重複するが私はイライラしていた。
誰でも良いから叩きのめしたかった。
今になって思えば…イライラを発散させる手段に喧嘩を選んだのも、いつもより遠出をして隣町まで出向いたのも、
そして相手の実力を測らずに向かって行ったのも…どれか一つでも欠ければ、今の私は病院などには居なかっただろう。
「うるさい…文句があるならかかって来い…」
もしも私が相手の実力を知っていたら…私は恥も外聞も捨てて逃げ出していただろう。
私は『踊る黒い死神』の異名を付けられて、少し慢心していた。
だから…『不死鳥のキラーマシーン』と呼ばれる不撓不屈(ふとう ふくつ)の事なんて知らなかったし、知ろうともしなかった。
 ドンッ!
「…えっ?」
そんな素っ頓狂な声しか出なかった。
何をされたのかがわからなかったのだ。
「まず足だ…」
そう言われて、ようやく私は足を撃たれた事に気がついた。

…少し前に、改造エアガンを持った連中と戦った事がある。
なるほど、あれによって射程距離は大幅に伸びるが、それ以上ではない。
構える、狙う、引き金を引く、概ね銃にはその三行程が必要とされる。
だが素手は、接近しながら撃つ、回避しながら撃つ、撃ちながら構える、そんな事が日常だ。
そして鍛え抜かれた手刀は防弾チョッキすら貫く。
銃は攻撃の動作で攻撃し、防御の動作で防御する。
だがある程度まで訓練された者の体術においては、攻撃の動作と防御の動作は常に同一の存在である。
故に私は、銃を恐れた事は無かった。
だけど違った。不撓不屈の動作に構えは無かった、狙いも無かった。
10mは離れた距離をただの一撃で貫通してみせた。
その動作は、その攻撃は…視認できなかった。
「腕だ」
 ドンッ! ドンッ!
「肩だ」
 ドンッ! ドンッ!
「ぎゃああぁぁぁ…ああぁ…」
私が攻撃の正体がわからず戸惑っていると、今度は4発ほど続けてもらった。
やはり何をやられたのかはわからなかった。
ただ…あの時の衝撃(あまり思い出したくはないが)から考えるに、
何かが高速で飛んで来て私の四肢を貫いたのだと思う。
もっとも…あくまで想像に過ぎないが。
「さて次は…頭か?」
その時私は死を覚悟した。
いや…違うな、死の予感に恐怖した。
もう私は動けなかったし、動く気力も無かった。
そしてあの時私は…不覚な事に失禁してしまっていたのだ。
手足が火傷をしたかのように熱くて、あの部分に生暖かい感触が広がって…ああ、思い出したくない。
それを見たあいつは、まるで家に忘れ物をしたかのような感覚で言った…
「しまった、やり過ぎたか…」
そしてそれと同時に殺気が消えた。
私はそれで気が抜けて…失神した。
次に眼が覚めたのはそれから二日後、今私が居る病室であった。
…ちなみに、当時の私はこんな思考をしていた訳ではない。
確か…痛い、怖い、助けて、以外の単語は消え失せていたと思う。
あくまでこれは回想だからできる考察だ。


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