過保護 第1回
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いつも私は満たされなかった。
親の勧めで日本舞踊を習った。
大会に出場し、常に上位入賞できる腕前になった。
けど…これは私が執着できる物ではなかった。
先生の勧めで友達を作った。
いろんな人と話すように心がけ、今ではアドレス帳には3ケタの登録がある。
けど…これは私が執着できる物ではなかった。
友達の勧めで部活に入った。
高校の部活で私に並ぶ人は無く、私は部長に任命された。
けど…これは私が執着できる物ではなかった。
別の友達の勧めでストリートファイトに出た。
と言っても、近所の不良に喧嘩を仕掛けるだけのものだ。
我流の格闘術とはいえ、やっぱり私の相手ができる者は無く、最近では『踊る黒い死神』と呼ばれ恐れられている。
けど…これは私が執着できる物ではなかった。
だけど喧嘩はストレス解消にはなった。
実を言うと親にも教師にも内緒で時々やっている。
そしてまた別の友達から恋人を作る事を勧められた。
そう言えば私には何度か告白された記憶がある。
けど…どれも断った。興味が無かったからだ。
その矢先、私は学校の後輩から呼び出された。
「僕と…付き合ってくださいっ!」
そう言われた。
少しだけ興味が湧いた。
恋人とはどんな物だろうか?
だから答えた。
「いいよ」と。
期待はしていなかった。
私が何かに執着する姿なんて想像がつかなかった。
けど違った…私に必要なのはこの子だった。
私はこの子を愛してしまった。

最初は料理、次に裁縫。
覚える事は多すぎた、それでも時間は少しでも多くあの子と過ごしたかった。
初めて作ったお弁当はとても食べられる出来ではなかった。
けれどあの子は食べてくれた。
それが嬉しくて…同時に美味しい物が作れない事を悔しく思った。
私は今まで何ができても嬉しくなかったし、何ができなくても悔しくなかった。
今まではそんな事はどうでも良いと思っていたが、今はそれが誇らしく思えた。
私は今悔しい思いをしてるんだぞ、と世界中に宣伝したい気分だった。
私は今までになく頑張った、母親に師事し、足りない分は自主練と読書で補った。
一ヶ月もすると、あの子は引きつった作り笑いをしなくなった。
ある日あの子のボタンが取れかけていた。
私は上着を借り、ボタンを付け直そうとした。
だけど次の日のあの子の上着にそのボタンは付いてなかった。
私は再び悔しい思いをし、もう一度母親に御教授を願った。
一週間後…ボタン付け程度なら楽にこなせるようになった。
友達の勧めで編み物を習う事にした。
手作りのマフラーをプレゼントすればあの子が喜ぶらしい。
秋の間に完成させる必要があるので、少し早めに始めた。
だけど私はあの子の事を考えると居ても立ってもいられず、寝食を忘れて編み続けた。
完成した日に、私は嬉しくなってあの子にあげた。
けどその日は夏至を少し過ぎた頃の話だった。
それでもあの子は、嬉しいよと言ってくれた。
あの子が不良からカツアゲを受けているとの噂を聞いた。
私はすぐさまあの子と同じクラスの不良どもを呼び出し、痛めつけた。
しかし、どうやら目標はその中にはいないようだった。
私は痛めつけた不良から新たな情報を聞き出し、走り出した。
相手は上級生だったが、負ける戦いではなかった。
7人ほど病院送りにした時、また新たな情報が得られた。
カツアゲをしたのは…あの子と名前の似た別人だったらしい。
大晦日の日、私はあの子の家にお邪魔して大掃除を手伝った。
いや、手伝うつもりだったが逆に妨害してしまった。
私は悔しかった、だからいつものように特訓を開始した。
家の中を故意に散らかして、それを素早く所定の位置に戻した。
模様替えも頻繁に行った。
今なら役に立てる自信が有る。
もっとも、今の所はその機会は無い。
除夜の鐘はあの子の部屋で聞いた。
それなりに良い雰囲気になったと思うが、一線は越えなかった。
気安く越えるなと先生に言われたからだ。
私は全身全霊を賭けてあの子を愛した。
だから…どうか嘘だと言ってほしい…
「お互いに…もう別れた方が良いよ…」
そんな事…言わないでくれ…
「じゃあ先輩、さよなら…」
私は病室で一人泣いていた…


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