リボンの剣士 第14話
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はぁ〜、何かネタはないですかね。
歩き回って走り回って探し回って、それでもネタ一つ手に入りません。
無駄な努力ほど疲れるものってないですよね。
はい? お前は誰だ?
申し遅れました。自分は、屋聞新一(やもんしんいち)といいます。
しがない新聞部をやっている一年生です。
新聞部ということで、学校内のことをネタに新聞を作っているんですが、最近、新聞にできるほどの
ネタが不足しているんです。
古典の先生のヅラ疑惑も、先月、植毛という事実が発覚して、一大ニュースとなりましたが、
それも過去の話。
新聞の名の如く、すぐに新しい情報を仕入れなければならないのです。
……言葉通りにうまくいくことなんてほとんど無いんですけどね。

校舎内はほとんど見て回りましたし、校庭にでも出てみましょうか。
そう思い下駄箱の方へ向かうと……おや、なにやら睨み合っている女性が二人。
あれは新城先輩と木場先輩ですね。
ん? 少し妙です。新城先輩は確か剣道部。今は部活の時間じゃないんですか?
「あ、あれ〜? 新城さん、部活はどうしたの?」
木場先輩が尋ねています。さっきは、「睨み合ってる」って言いましたが、どちらかというと、
木場先輩は新城先輩に押されている感じです。
それにしても変な組み合わせです。あの二人、接点ありましたっけ?
「そんなの木場さんには関係ないでしょ」
新城先輩のドスの利いた声が放たれました。凄いプレッシャーです。離れて見ている自分も
怖いくらいですから、至近距離の木場先輩には、どれだけ恐ろしいか。
しかし、こんな話し方をするなんて、お二人、仲が悪いんでしょうか。
「それより木場さん、今日も人志に付き纏いに行くの?」
「え、えぇ〜? 私、そんなつもりじゃ……」

バァン!!

うわっ! 竹刀が、竹刀でロッカーをぶっ叩きましたよ!? ドアが大きくへこんでますよ!?
「……嘘つくんじゃないわよ」
ひぃ〜怖い。さすが剣道部。こんな人と向き合ったら、戦う前にやられそうです。
おっとそれより今の言葉、『今日も人志に付き纏いに行くの?』
人志というのは、伊星先輩のことですね。あの人、変人変人言う割には、記事にできそうな事は
全くしない、あまり使えない人なんですよねぇ。
自分も結構前、インタビューをしたんですけど、質問の答えが電波全開で、とても
新聞に載せられるもんじゃなかったんです。
で、新城先輩は、その伊星先輩と親しい数少ない人物。加えて異性であり、そして今、
木場先輩が近づくのがいかにも不快という態度。
これは……これは、なにやら事件の予感がしますよ!

「べ、別に嘘なんかついてないよ〜」
木場先輩、腰が引けてます。無理もない話ですが。
「そう。あたしはね、これから人志の家に行くの。今日学校に来てないから、気になってね」
大分、新城先輩の殺気が弱まりました。
うーん。あの返事で納得したとは考えにくいですがねぇ。
「木場さん、付き纏う気がないっていうなら、人志の家には行かなくていいから」
おおっ!? 明らかに木場先輩を牽制してます。伊星先輩絡みのことで、ここまで露骨に
他の女性に敵意を出すとは。

……はい。形が見えてきましたよ。三角関係、ってヤツですね!
なんという幸運でしょう。今日はもう半分諦めていた矢先、目の前に極上のネタが!
いや〜やるじゃないですか伊星先輩。女性二人の心を奪い、争いの火種を生み出すなんて。
次のメインの記事は、これで決まりですね。
早速取材を開始しましょう。

「話は聞かせてもらいましたよ!」
さあ、屋聞新一、女の戦場に颯爽と登場です。
二人は呆気に取られています。ここは勢いで入り込むべし!
「勝負とは、公平に、行われるべきものであります!」
腕を大きく旋回させ、ぐっと拳を握って一説! オーバーアクションではありますが、
今はこの位が丁度良いでしょう。
「新城先輩。木場先輩の善意を挫くような真似は、貴女にふさわしくありません」
「はぁ? いきなり何よ。っていうか誰よ」
しまった! 取材の前には名を名乗るという鉄則を失念していました!
いささか興奮し過ぎてしまいましたね。
「失礼しました。自分は屋聞新一と申します。一年伍組、新聞部所属の者です」
「新聞部ぅ? あのうさんくさい部の回し者が何の用よ」
ああ、耳が痛いです。新聞部が胡散臭い部に成り下がったのは、決して自分のせいではありません。
本当ですって。
「御意見申し上げに参りました。新城先輩。あなたは剣道に精通される身でありながら、
勝負の舞台に上がる前の相手を叩くというのは、その道に反することではないですか?」
「意味がわからないわよ」
「本日欠席した伊星先輩を気遣う心はどちらも同じ。それなのに、木場先輩に圧力をかけ、
当人に会わせようとすらしない。これでは到底勝負になりえません」
ぐわっ、と新城先輩の殺気が広がりました。これはヤバイです。
「気遣う心は同じ? バカなこと言わないでよ。こいつのは全部下心なのよ!」
手にしている竹刀が、今にも自分に襲い掛かってきそうな剣幕。でも怯むわけにはいきません。
ここで札を切りますよ。
「それを客観的に判定する案があるのですが」
ぴくっ。

よし、流れが変わりました。殺気から疑問、興味といったムードが新城先輩から出てきました。
「新城先輩に木場先輩、そして自分。この三者一丸で、伊星先輩のところへ行きましょう」
「ちょっと待ってよ、何でそうなるの!」
「さっきも言いましたが、勝負とは対等の条件で行われるべきもの。先輩方二人が一緒に行くのが
これに当たります。また、その勝負の内容を判断する第三者、つまり自分を加えることにより、
より理想的で公正な勝負になるのではないかと」
我ながら、中々うまく口が回るもんです。まあ、新城先輩のように直情的な人に有効な、
シンプルな理論というのは素早く思いつくもんですよ。
「アンフェアな勝負で勝つ。これに何の意味がありましょう。それは自分より、新城先輩のほうが
心得ていると思います。いかがですか?」
分かれ道に来ました。ここでどちらか一方でも自分の案に乗ってくれればいいのですが。

しばしの沈黙、そして。
「……あたしは、別に良いわよ」
やりました! さすが新城先輩、単じゅ……いえ、話のわかるお人です。
「木場先輩はどうですか?」
一応振り返って聞いてみます。もう答えは一つしかないですけどね。
この流れで肩透かしをするのは不可能でしょう。
「う〜ん、どうしようかなぁ〜」
身体をもじもじさせる木場先輩。妙に色っぽく見えます。
「う〜ん」
「うぅ〜ん」
「ん〜……」
長いですねぇ。実は、木場先輩にはその気はなくて、新城先輩だけがムキになってる、とか?
「なに時間稼ぎしてんのよ。こそこそしないで早く決めなさいよ」
新城先輩の言葉が、自分の案の追い風となりました。やはりこの二人は、伊星先輩をめぐる
恋敵同士なのでしょう。
「……うん、いいよ。新城さん、お手柔らかにね」
OKです。これで舞台は整いました。
「では行きましょう」
「あんたが仕切るな!」
痛、痛っ!? 新城先輩、竹刀でのツッコミはきついですよ!
でも大物のネタの為、この程度の痛みとリスクは乗り越えてみせましょう。
これから、二人には存分に争ってもらいますからねぇ。


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