リボンの剣士 第4話
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木場さんが、人志を狙っている―――――。
そう桐絵に言われてから、あたしは木場さんを観察するようになった。
別に、人志を取られたくないとか、そういうんじゃなくて、ただ、何となーく気になるってだけの話よ。
で、その木場さんなんだけど、確かに何かに付けて人志に干渉しようとしている。
一日に一回は、あれ貸して、それ見せて、みたいな事を言う。昼休みはいつも一緒に昼ゴハン、
放課後は、一緒に帰ろ、の連発。すごい積極的だった。
でも人志は、それに対してどうも冷ややかというか、素っ気ない態度ばかりで、
特に、一緒に帰ろ、の誘いは、あたしが見ている限りでは、全部断っている。
何もそんなに冷たくしなくても……。人志、木場さんのこと嫌いなのかなあ。
というかそもそも、木場さんは人志のどこを好きになったの? それが分からない。
今までにいろんな男と付き合っては別れ、を繰り返してきたらしいけど……まさか!

 ” 地球の 男に 飽きたところよ ”

……まさかね。いくら人志が、通称『異星人』でも、それはさすがに……ね。

*    *    *    *    *

きっかけになったのは、一学期の後半、ある体育の授業だった。
そこで私は、初めて伊星くんを一人の男として認識した。
ただの自慢だけど、スタイルには自信がある。その裏付けとして、水着姿になったときに強く感じる
男子からの視線。あんまりじろじろ見ちゃいけないと思いつつ、チラッ、チラッと見ているのは
分かっている。まあ中にはそういう下心をオープンにする男もいて、堂々と大きな声で言っていた。
「ほら、見ろよ伊星、木場の胸、すげえよなあ」
周りの女子たちは失笑していた。話しかけられた伊星くんは、プールサイドにしゃがみ込んで、
プールの水をじっと見ていた。
私のほうも、相手のほうも全く見ない。無視も同然の態度だった。
「おい、どこ見てんだよ!」
背中を叩かれてる。ちょっと見てみれば、伊星くんは、水面のある一点を見つめているようだった。
「これを見ている」
伊星くんが指差した先にあったのは―――葉っぱ?
そう、水面に浮かぶ一枚の葉っぱだった。
「何だよ、葉っぱがどうしたんだよ」
私の疑問と声が重なる。おそらくプールから少し離れた所にある木の葉っぱが、
風でプールまで流され、水に入ったといったころだろう。で、その葉っぱが何?
「いや……普通、木の葉というものは木から落ちれば地に着き、風に流される。風さえ吹けば、
何処にだって行くことが出来る。が、この葉っぱは、水に浸かった以上、このプールから出られない」
「はぁ?」
はぁ? あ、また声と被った。何を言ってるのこの人は。
「葉っぱ一枚にしてみれば、プールは広い。でも有限だ。このプールから出られない。
それがどうも……気の毒に思えて」
「……詩人かお前は」
詩人でも、そんなこと考えないよ。

それからだった。彼の噂を耳に挟むようになったのは。

ついこの間、私は付き合っていた男と別れた。
結局その男も、今までの男のように、付き合ってしばらくするうちにただの肉欲馬鹿になってしまった。
だから、”飽きちゃった”の一言でさよなら。
思えば、碌な男に当たった記憶がない。
胸だけを見て話す男。一回目のデートでホテルに連れ込もうとした男。これも一回目のデートで、
観覧車に二人で乗った時に身体を触ってきた男。それも、手を握る、なんて手緩いもんじゃなく、
下着の中に手を入れてきた。最悪。
分かれて清々したと同時に、無性に気分が悪くなる。そりゃちょっと思わせぶりな態度もとったけど、
そんなにすぐにヤリたがるの?
もうちょっと、愛と性欲を切り離すことは出来ないの?
そんな男はいないかと考えて、候補に挙がったのが、伊星くん。私の水着姿よりも、
水面の葉っぱ一枚に興味のあった伊星くん。

もし、彼が女性を好きになったら?
その女性が好きでたまらなくなったら、どんな愛し方をするんだろう。
変人と呼ばれる伊星くんの価値観は、ほかの男とは大きく違うはず。私が求める愛し方を持っていれば、
そしてそれが、自分のほうに向いてくれれば――――。

早速私は行動に移した。今のところ伊星くんは冷たい態度だけど、ほとんど面識なかったんだから
仕方ないよね。これからこれから。
ただ……ひとつ気に掛かるのは、伊星くんとよく一緒にいる新城さん。
伊星くんとは幼馴染で、割と仲がいいみたい。
友達以上恋人未満、って感じだけど、いつ化けるかも分からない。
別に、数いる女友達の一人、程度だったら入り込むのは簡単だけど、
問題は、伊星くんと仲がいいのが、新城さんだけ、って状態。
言い換えれば、伊星くんが心を開く相手は(学校では)一人だけであること。ここをどうするかが鍵だよね。
よし、伊星くんにアプローチしつつ、昔のことについて調べてみようっと。
攻略法を、見つけるためにね……。


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