リボンの剣士 第10話
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「あ〜もう何やってんのよ〜」
この台詞も何度目だろう。数えるのも憂鬱になる。
我ながら、なんてバカなのよ。ねぇ?
試合に負けて、頭がごちゃごちゃして、一晩中雨の中で素振りやって。
おかげで熱が出て学校を欠席。
それより何より、学校を休んだことで、人志と顔を合わせずに済んだから結果オーライ、なんて事を
今朝考えた自分にイライラする。こそこそ逃げるなんて、やっちゃいけないのに。
あーもう、バカバカ! 大バカ!
とにかく、今日中に風邪を治して、復帰しないと。
夕方の今、熱はだいぶ下がっている。このまま行けば、夜には全快しそう。
人志への言い訳は……ま、後で考えればいいか。
結論が出ると、なんだか胸の奥のしこりが取れたような気分になった。
そうよ、また明日から頑張ればいいのよ。

ピンポーン。
「?」
インターフォンが鳴ってる。たぶん、お母さんが出るわよね。二階の閉まった部屋にいるあたしには、
誰が来たのかわからない。
少ししたら、パタパタと足音が聞こえてきた。誰かが、二階に上がって来てる?
「明日香ー」
「お母さん?」
ドアの向こう側よりまだ遠い、階段のあたりからの声が聞こえる。
「人志君が、お見舞いに来たわよー」
「え」
え、えぇ? 人志が、お見舞い?
「おばさん、見舞いじゃなくて見物です」
この声はほんとに人志! ちょっと、何やってんの? 顔合わせるのは明日だと思ってたのに、
なに奇襲かけてんの?
こっちはびっくりしてどういうわけか直立姿勢よ? さっきまで寝てたのに!
ええいうろたえるな! これは孔明の罠よ!
「入るぞ、いいか?」
ちゃ、と人志がドアノブに手をかける音がする。
「待って! まだ心の準備が!」
「ん?……そうか」
人志の手は離れた……と思う。こっちからは見えないけど。

と、とにかく、ここ最近整理してなかった机を何とかしないと。
机の上には、人志から借りたノートも置きっ放しになっている。しかもジュースを溢して
でっかい染みをつけちゃったヤツ。
これ、いつ返そう……ってそんなこと考えてる場合じゃなかった。
机の上に散らかった本を重ねて、本棚に押し込んでおく。
「……もういいかい?」
「もういいよああああぁぁぁーっ!!」
「どうした!? いいのか? 悪いのか?」
「悪い! いや人志は悪くない! もうちょっとだけ待って!」
危ないところだった。ベッドの上からだと見えなかった、って言うかすっかり忘れてたんだけど、
床には寝苦しいからと放り投げたブラジャーが!
こんなの見られたら、末代までの恥よ。
すばやくそれをタンスの中に詰め込む。あー危なかった。
……もう大丈夫よね。
ベッドに潜ってから、ドアの向こうに「もういいよ」と声を飛ばす。

それにしても、人志がお見舞いに来るなんて、どういう風の吹き回しよ。
あれ、見物って言ってたっけ? まぁ同じよ同じ。
今ドタバタしたせいで、妙にテンション上がってきちゃった。
人志に会うのはちょっと気まずいけど、この気分なら乗り切れそうな気がするわ。
あーでも、試合で負けたことの話が出てきたらどうしよう。
いまさら考えたって間に合わない。アドリブしかないわね。
人志だったら、少しくらい変なこと言ってもスルーしてくれそうだし。

ガチャ。
ドアが開いて、人志が入ってくる。
「やけに騒がしかったな」
「おじゃましまーす」
そして、予想してなかった、もう一人。

さっき上がったテンションが、急降下していった。


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