振り向けばそこに… ANOTHER 第9回
[bottom]

「う〜ん。 こっち……じゃ無くてこっちだ! よし、あ〜がり、っと」
 俺は結季の手元からとったカードと手元のカードでペアを作り山に捨てる。
「う〜、またわたしの負け……」
 そう言って結季は手元に残ったジョーカーを睨みながら心底悔しそうに呟く。
「結季って案外顔に出るからな」
 俺は笑いながら口を開く。 結季の事良く知らない人間はポーカーフェイスだと思ってるらしいが、
 幼馴染の俺に言わせりゃ結構顔に出やすいんだよな。
「もう、祥ちゃんも少しは手加減してあげなさいよ」
「羽津姉、真っ先に上がった人間の言う台詞じゃねぇよ」
「えへへ、それもそうか」
 反対に表情を使い分けたくみに惑わせてくれるのが羽津姉だ。
「もう一勝負いくか?」
「当然よ。次こそお姉ちゃんにも祥おにいちゃんにも負けないんだから」
 そう言った結季は既にトランプをシャッフルし始めてた。 普段人前であまり表情を出さないくせに、
 いや、だからこそか。 気心の知れた姉である羽津姉と幼馴染の俺にだけは其の感情をあらわにする。
(考えすぎだったかもしれないな)
 正直言うと今回の旅行物凄く楽しみにしてたのは言うまでも無いが、反面積極的に動いてくれた事に
 結季らしくないと違和感を感じないわけではなかった。 だが相変らず裏表の無い結季が何か
 企んだりとかありえないよな。

 そしてシャッフルし終わった結季はカードを配ろうとして手を止めた。
 丁度車内アナウンスが流れた為だ。
「あ、もう直ぐ乗り換え」
 結季は残念そうに呟く。
「続きは次の電車に持ち越しね」
 羽津姉が言うと結季は残念そうに、でも手早くトランプを仕舞う。
 そして代わりにポケット時刻表を取り出す。 ページの間には幾つも付箋が張られている。
「乗り換えたらまた勝負だからね。 祥おにいちゃんもお姉ちゃんも勝ち逃げ許さないからね」
「おう、返り討ちにしてやるぜ」
 笑って答え俺も下りる準備を始めた。

 

 そして幾つかの乗り継ぎを経て目的地と思われる駅に着いた。
「到着か?」
「うん。 お姉ちゃんも祥おにいちゃんも疲れた?」
「大丈夫。 こんなに長い時間電車に乗ったの久しぶりだけど、乗ってる間ずっと楽しかったしな」
「乗り換えも全てスムーズに済んだしね。 本当お疲れ様結季」 
 俺と羽津姉は改札口を通りながら結季にねぎらいの言葉をかける。
「そんな、だって言い出しっぺだもん。 コレくらい当然よ。 でも予定通りの時間に到着できてよかった」
 そう言うと結季はにっこり微笑んだ。 そんな結季の笑顔に胸が高鳴る。

 改札口をくぐりぬけ駅の外に出ると出発直後には未だ低かった太陽もすっかり高く昇っており、
 空は真っ青に澄み渡っていた。
「で、この次はどうする?」
 目の前のターミナルには何台かのバスと乗客待ちのタクシーが止まっている。
「えっとね。 次はね……」
 そう言って結季は何かを探すように辺りをきょろきょろ見回す。
 目的地行きのバスを探してるのかと思ったがチョット違うみたいだ。
 其の視線は、道路の向こうの車に注がれてるようだった。
 そして一台の車が俺たちの目の前で停まった。 車のウィンドウが開き運転席から
 顔をのぞかせたのは綺麗な女の人。 年のころは二十台半ばと言った所だろうか。
 あれ? どこかで見た事があるような……。
「お久しぶりです。 季歩おねえちゃん」
「季歩ねえさん?!」
 女の人の顔を見て二人はまるで正反対の反応を示す。 待ちわびて分かりきってたかのような結季と
 不意を付かれたかのように驚きの声を上げる羽津姉。
「久しぶりね。 羽津季も結季も元気そうで何よりだわ」
 羽津姉が未だ驚きの隠せないでいるのと対象に笑顔の結季。
 そして何か思い出したように携帯を取り出し掛け始めた。
「もしもしお母さん? わたし。 うん、今着いて季歩おねえちゃんにも出会えたところ。
 季歩おねえちゃんに代わるね」
 そう言うと結季は車の女性に携帯を渡す。
「御無沙汰してます叔母様。 はい二人の事は任せてください」

 車の女性が電話してる間に俺と羽津姉はこっそり結季に問いかける。
「どういうことだ? 結季」
「そうよ、私にも説明して」
 俺たちが問い詰めると結季はどこか悪戯っぽく笑って見せた。
「えっとね、普通にわたし達三人だけで旅行なんか許してくれないでしょ?
 だから季歩おねえちゃんに引率って言うか保護者代わりって言うか、それをお願いしたわけ」
「はぁ〜、成る程ねぇ。 それで季歩ねえさんがココにいるわけね」
 結季の回答にようやく納得が言ったかのような表情を見せる羽津姉。
 俺も大体は飲み込めたがわからないことが一つ。
「季歩……さん?」
「あれ? 祥ちゃん出会った事無かったっけ? 私達の従姉で年は私より7つ上なんだ」
「従姉? あ、そう言えば。 確かずっと前出会った事があるかも」
 記憶の糸を手繰り寄せようやく思い出せた。 何年も経ってるせいか以前出会ったときと
 大分感じが違ってるのもあって直ぐ思い出せなかったんだ。 それでもどこか見覚えがあった気が
 したのはやはり従姉というだけあって二人とどこか似てたからだ。

「お待たせ」
「季歩おねえちゃんお母さんと話し済んだ?」
 どうやら季歩さんの方は電話が済んだらしい。 携帯を返しそして結季が受け取る。
 俺の視線に気付いたのか季歩さんは俺のほうを向き口を開く。
「こんにちは。 羽津季と結季の従姉の果彩 季歩です。 始めましてじゃないわよね? えっと……」
「こんにちは瑞岬 祥です。 ハイ、確かずっと以前お会いしたことあります」
「でも祥おにいちゃんさっきまで忘れてたよね」
「いや、その……」
 結季の突っ込みに俺が口ごもっていると季歩さんが笑って口を開く。
「別に良いわよ。 気にしてないから。 さ、それより三人とも乗って。
 これから連れて行ってあげるね。 あ、荷物はトランクに入れてね」


[top] [Back][list][Next: 振り向けばそこに… ANOTHER 第10回]

振り向けばそこに… ANOTHER 第9回 inserted by FC2 system