振り向けばそこに… ANOTHER 第13回
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「ゴメンね季歩おねえちゃん。 色々してもらって泊めてもらった上にみっともない所まで見せちゃって」
 朝、わたしは季歩おねえちゃんの部屋で朝を迎えた。
「気にしなくても良いわよ。 従姉なんだから変な遠慮なんかしないでどんどん甘えなさい。
 それより平気なの?」
「うん、大丈夫……」
 わたしがそう言いかけると季歩おねえちゃんは私の顔にそっと手を沿える。
「もう、だから強がりはよしなさいって。 昨晩はずっと泣きっぱなしで結局泣きながら
 寝ちゃったじゃない。 今日も二人と一緒に回るんでしょ?」
「うん」
 そう、宿はそれぞれ別にとったものの予定では旅館の前で再び合流し午前中一杯軽く観光地を
 回ってから家に帰る予定。
「大丈夫なの? 辛いなら無理しないで良いのよ? 私から言ってあげるから」
「うん、もう平気。 折角の旅行最後まで綺麗に終わらせたいから」
「でもひどい顔してるわよ。 折角の可愛い顔が台無し……。 チョット待っててね」
 そう言うと季歩おねえちゃんはファンデーションとパフを取り出す。
「ほらジッとして。 気休めかも知れないけどやらないよりは少しはマシだから」
「ありがとう。 季歩おねえちゃん」

「ここでイイの?」
「うん、ありがとう季歩おねえちゃん」
 私はシートベルトを外しながら答える。
「ゴメンね。 本当は旅館まで送っていってあげたかったんだけど今日は仕事があるから……」
「ううん、十分よ。 本当色々ありがとうね季歩おねえちゃん」
 そう、季歩おねえちゃんは出勤前にわざわざ最寄の駅まで送ってくれたのだった。
「あと、辛かったらいつでも電話してきなさい。 私でよければ力になるから。
 もっとも泣き言や愚痴聞いてあげるぐらいしか出来ないけど」
「うん、ありがとう。 本当に大丈夫だから。 それじゃぁ、ね」
「じゃぁね結季。 羽津季と幼馴染クン、叔父さんと叔母さんにもヨロシクね」
 そしてわたしは季歩おねえちゃんの車を見送ると駅構内へと向かった。

 電車とバスを乗り継いで旅館に到着すると祥おにいちゃんとお姉ちゃんは笑顔で出迎えてくれた。
 二人共笑顔ってことは上手く行ったってことだよね? うん、良かった。
 こんな事突っ込んで聞けないけどそう言うことだよね。
 そしてガイドブック片手に予定通り観光地を回る。 三人で回るのも多分コレが最後
 なんだろうな……。 そう思うと……駄目泣いたりしちゃ。
 最後だからこそ笑顔で楽しい思い出にしなくちゃ。
 祥おにいちゃん、お姉ちゃん。 二人共幸せになってね……。

 そして正午を過ぎた頃、帰りの電車に乗り帰路に着く。
 お昼ごはんに買った駅弁に車内で舌鼓を打ち、来た時と同じ様にお喋りに興じたりトランプで遊んだり。
 きっとコレが最後になるであろう三人での楽しい一時。 わたしは其の最後の瞬間まで噛締める。
 そして、この瞬間を想い出に胸にしまっていこう……。

 日が西に傾いた頃、わたし達は無事帰宅。 これにて旅行は終り。
 最後まで無事済んでくれて本当に良かった。 そしてわたしの……。
 夕食時、お父さんとお母さんと一緒に食事しながら旅行の話に花が咲く。
 わたし達の話を聞いて、お父さんもお母さんも楽しい旅行でよかったねって言ってくれた。
 お風呂に入って旅行の疲れを完全に流しそして就寝、その時部屋にお姉ちゃんが入ってきた。

「今回は本当ありがとうね、結季。 本当に楽しかった」
「そんな……。 楽しかったのは私も一緒……お、お姉ちゃん?!」
 私の言葉を遮るようにお姉ちゃんは抱きついてきた。 私が戸惑いを隠せないでいるとお姉ちゃんは
 そっと口を開く。
「ごめんね……結季」
 え? どう言う事? まさか……気付かれてたの? わたしの……
「ごめんね……折角お膳立てしてくれたのに……」
 いや、そうじゃないみたい。 でも、だったら一体……
「ど、どうしたの? お姉ちゃ……」
 でも返事は無い。 ただお姉ちゃんは私に縋るようにわたしに抱きつき、
 そして「ゴメンネ、ゴメンネ……」と繰り返すだけ。
 私は抱きとめながら、ただ戸惑うしかできなかった。
 やがてお姉ちゃんはポツリと口を開く。
「私ね……祥ちゃんと別かれちゃった……」
 私は耳を疑った。 な、何で?! 何でそうなるの?!
「お、お姉ちゃん一体どう言う事なの? ねぇ、何があったの?」
 返事は無かった。 ただ、お姉ちゃんは尚もすすり泣くだけだった。
 そんなお姉ちゃんにわたしはこれ以上問うことなど出来なかった。

 

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 旅行から帰った翌日。 俺は結季から電話で呼び出された。
 其の声は明らかに不機嫌そのもので用件だけを言い、取り付く島も無く切られた。
 俺は言われたとおり向かう。
 用件は……大体察しがつく。 俺が到着すると結季は既に待っていた。
 結季は俺の姿を確認すると真っ直ぐ歩み寄って来、そして其の右手を思いっきり振りぬいた。
 左頬に鈍い痛みが疾る。 反す手で反対側の頬も打たれた。
 結季の其の顔には怒りの色が、そして其の目には今にも溢れ出しそうなほどの涙が浮かんでいた。
 痛い……。 頬よりもそれ以上に胸が、心臓が……心が痛かった。
「どうして……」
 声を震わせながら結季は口を開く。
「どうしてお姉ちゃんと別れたのよ?! お姉ちゃんの何が不満なのよ?!」
 結季は俺の胸を打ちながら俺を責め続ける。 俺は黙っていた。 ココで謝るつもりは無い。
 確かに羽津姉を傷つけたことに罪悪感や胸の痛みがないわけじゃない。
 でもココで謝ってしまえばそれは自分の気持を偽る事になるから。
「どうしようもない事もあるんだよ。 どうしようも……」
「どうして!! どうし……!」
「俺だってなぁ!」
 俺は思わず叫んだ。 其の叫びを聞いて結季の体がビクッと震えた。
「……俺だって一度は腹を決めたさ……。 確かに羽津姉は魅力的な女性さ。
 そしてあくまでもお前がそれを望むならそうしようとも考えたさ」
 俺が言葉を切ると結季は口を開く。
「だ、だったら……」
 俺は結季の言葉を遮り再び口を開く。
「だけどなぁ! どうしようもない事もあるんだよ!! 俺だってなぁ!
 あの夜覚悟を決めようとしたんだ!! 羽津姉を抱いてお前への未練を断ち切ろうと思ったさ!
 だけどなぁ! だけど出来なかったんだよ!!!」
「祥おにいちゃん……」
「駄目なんだよ……。 お前じゃなきゃ駄目なんだよ結季……」
 気付けば俺の両目からは涙がボロボロ溢れ始めていた。 そして俺は結季に縋りつくように泣いていた。
 泣きじゃくる俺を結季は優しく抱きしめてくれた。 そしてポツリと呟くのが聞こえた。
「ゴメンナサイ……。 祥おにいちゃん……」

 泣いて、泣いて、ひとしきり泣いて、心は未だ痛いけど、でもやっと少し落ち着いた俺は口を開く。
「ゴメン結季……。 みっともない所見せちまって……。 俺に泣く資格なんか無いのに……」
 我ながらみっともない。 ガキみたいに泣きじゃくって……。
「ううん。 みっともないなんて、そんな事無いよ祥おにいちゃん……」
 優しく諭してくれる結季。 涙は収まったが、だが依然俺は膝をつき結季に抱かれた状態だ。
 結季は俺を抱きしめながらそっと口を開く。
「祥おにいちゃん……。 お願いがあるの」
「お願い……?」
 結季の呟きに俺は問い返す。
「来年の……桜が咲く頃まで待ってください。 そしたら、其の時には……」
「え……? そ、それって……? それって、つまり……」


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