振り向けばそこに… ANOTHER 第11回
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「もう、祥ちゃんったら赤くなっちゃって、相変らずウブで可愛いんだから」
「そうだね……」
 照れ隠しのように慌ててテントに駆け込んだ祥おにいちゃんにお姉ちゃんは上機嫌。
 でもわたしには分かってしまった。 祥おにいちゃんが赤くなったのはお姉ちゃんにじゃない。
 私の水着姿にだって事を。
(祥おにいちゃんのバカ……! 祥おにいちゃんはお姉ちゃんの彼氏でしょ?!
 わたしなんかに見惚れてどうするのよ……)
 反面、わたしに女としての魅力を感じてくれる祥おにいちゃんを嬉しく感じる自分もいる。
 祥おにいちゃんの態度にも、矛盾した私の中の二つの気持に対しても思わず溜息が出そうになる。
 だめ、溜息なんかついちゃ。 今日は折角の楽しい旅行なんだから。
 そんな事考えていると水着に着替えた祥おにいちゃんが出てきた。
 其の姿を目の当たりにしお姉ちゃんは歓声を上げる。
 向こうでくつろいでいる季歩おねえちゃんも「へぇ」と感嘆の声を洩らす。
 祥おにいちゃんって特別運動とかしてるわけじゃないけど、でも筋トレ日課にしてるって言ってるだけ
 あって結構イイ躯してるのよね。
 やや痩せ型で、でも結構付く所には付いてて締まる所は締まっていて。
 特にお腹とウエストはくっきり浮き上がった腹斜筋のお陰か引き締まって……。
 いけない、いけない。 これじゃわたしも祥おにいちゃんのこと言えないわね。
 その時わたしは自分の手を引っ張られる感触に我に返る。 お姉ちゃんだった。
 反対側の手には祥おにいちゃんの手が握られている。
「ほら、結季。 ボーっとしてないで速く泳ぎましょ」
「行こうぜ結季」
「あ、うん。 そうだね」
 折角の旅行、それもこんなに良いところに来たんだから楽しまなきゃね。

 わたし達三人は童心に帰って波と戯れ楽しんだ。
 追いかけっこして泳いだり、ビーチボールやビーチボートで遊んだり。
 ちなみにボールもボートも季歩おねえちゃんの車のトランクに入っていた。
 で、その季歩おねえちゃんはと言うと、相変らずパラソルの下でくつろいでいる。
 一緒に遊ぼうって言ったんだけど『幼馴染水入らずで三人で楽しみなさい』って。
 気を使ってくれたのかな季歩おねえちゃん。 今回は色々協力してくれて本当に感謝している。
 三人で夢中になって遊べて本当に楽しかった。 三人で、と言うより祥おにいちゃんと一緒に遊べて……。
 駄目、この旅行はお姉ちゃんの恋を応援し、確固たるものにする為のもの。
 そして私の想いにピリオドを打つ為の……。

 夢中になって遊んで、気が付けば日も傾き始めてた。
 水平線に沈みゆく太陽。 オレンジ色の夕陽に照らされに金色に輝く海。
 ルビーのような紅からアメジストのような紫、そしてサファイアにも似た紺碧へと
 深いグラデーションに染まっていく空。 其の美しさにわたし達は目を奪われる。
 ふと、わたしは両手の人差指と親指で窓を作り、其の中に夕陽とお姉ちゃんと祥おにいちゃんを
 収めてみた。
 うん、とっても絵になる。 やっぱり妹の贔屓目とかそう言うの抜きにしても
 とってもお似合いだよね……。
 …………
 あ、あれ? な、何だか視界がぼやけて……。 涙? どうして? どうして涙なんか……。

「結季?」 
「おい、一体どうかしたのか?」
 気が付けばお姉ちゃんと祥おにいちゃんが不思議そうな、そして心配そうな顔でわたしの顔を
 覗き込んでいた。
「え、あ、いや何でもないよ。 その……夕陽があんまり綺麗だったから……」
 わたしは慌てて取り繕い答える。
「なんだ、そうか」
 私が答えると祥おにいちゃんはホッとした表情を見せる。
「結季ったら感激屋さんなんだから」
 お姉ちゃんは笑ってわたしの頭を撫でてくれた。

 

「気持ちイイ〜。 昼は海水浴で夜は温泉なんて今日は本当に良い一日だったわ。 ありがとうね結季」
 夜、わたし達は季歩お姉ちゃんの車で送ってもらい予約しておいた旅館にチェックインし、
 晩御飯も済ませそして温泉に浸かって昼間の疲れを癒していた。
「そんな、お礼なんて。 楽しかったのは私も一緒なんだから。
 それに海水浴は季歩おねえちゃんのお陰だし」
「そうね。 季歩ねえさんにも感謝してるわ。 季歩ねえさんも折角なんだから一緒に泊まっていけば
 いいのに」
 そう季歩おねえちゃんは私達を送ってくれた後帰ってしまった。
 季歩おねえちゃんにも用事があるしね。 それに……
「どうしたの結季。 ヒトのことジッと見つめたりして」
「ん、やっぱりお姉ちゃんって綺麗だなって思って。 胸だって私より大っきいし」
「ちょっ! い、いきなりなに言い出すのよ!」
 真顔で言った私の其の言葉に、お姉ちゃんは温泉で上気し朱を帯びた頬を益々紅らめる。
「うん、だって改めてそう思うんだもの。 祥おにいちゃんも果報者よね。
 こんな綺麗なお姉ちゃんの彼氏なんだから」
「も、もう……、このコったら一体何を言ってるんだか……!」
「お姉ちゃん顔紅いよ?」
「お、温泉で長湯したせいよ! もう出ましょ。 これ以上入ってたらのぼせちゃうわよ!」
 そう言ってお姉ちゃんは照れ隠しするように湯船から上がる。 そして私もそれに続く。
「そうね、もう十分浸かったものね」

「あれ? 結季、何で浴衣着ないの?」
 そう、旅館に泊まったら、ましてや温泉から上がったら普通浴衣に着替えるもの。 でもわたしは……
「折角なんだからアンタも浴衣に着替えなさいよ。 それじゃまるで帰り支度みたいよ」
 そう、お姉ちゃんも、そして多分今頃同じく温泉から上がってる祥おにいちゃんもくつろいだ浴衣姿。
 対して私は上から下までしっかり着込んで、ついでに言うとバッグも準備して完全に帰り支度。
「うん。 私は一足先に退散させてもらうからお姉ちゃんは祥おにいちゃんと恋人同士
 水入らずの夜楽しんでね」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 私も祥ちゃんも結季のこと邪魔だなんて思ってるわけないでしょ」
 うん、分かっている。 お姉ちゃんはどんな時だって私を邪魔者扱いなんかしない。
 退散するのはあくまでも最初から私が決めてた事なんだから。
「それにこんな夜遅くどうやって帰るつもり? きっとこんな時間じゃ電車も途中で無くなって
 家に着かないわよ?」
「大丈夫よ。 季歩おねえちゃんちに泊めてもらうから。 話はつけてあるし」
「季歩ねえさんに?」
「そ、ここって季歩おねえちゃんのマンションから車ですぐ……とも言い切れないけど、
 それほど離れていんだよ。 もう直ぐ迎えにきてくれる頃だからわたし行くね」
「結季、あんた若しかして最初ッから……」
 用意周到な私の対応にお姉ちゃんは驚きを隠せないと言った表情を見せる。
 わたしはお姉ちゃんの言葉を遮り小さな小箱を手渡す。
「ちょ、結季! こ、これって……!」
 手の中のものを見てお姉ちゃんの顔は見る見る紅く染まっていく。
「買うとき物凄く恥かしかったんだから……」
 言ってて自分でも顔が熱くなるのがわかる。
「頑張ってね。 お姉ちゃん」


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