振り向けばそこに… ANOTHER 第10回
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 俺たちは荷物を車のトランクに積みいれて席に座る。
 ちなみに席は結季が助手席で俺と羽津姉が後ろの席だ。
 俺たちが乗り終わると車は走り出す。 開かれたウィンドウから入ってくる風が気持いい。
 ふと、風に乗って潮の香が漂ってきた。 空を見れば海鳥の姿も見える。
「季歩ねえさん。 どんな場所に連れて行ってくれるの? 海、よね?」
 羽津姉が問い掛けると季歩さんはバッグミラーで後部座席をのぞきながら応える。
「そうよ。 水着もってきたでしょ? とっても良いところよ。 滅多にヒトに教えない取って置きの
 穴場なんだから」
「結季は知っているのか?」
 俺が問い掛けると結季は振り返りながら答えてくれる。
「わたしも未だ詳しくは教えてもらってないの。 だからわたしも楽しみなんだ」

 そして目的地の砂浜に辿り着く。 その光景は予想以上に素晴らしいものだった。
 輝くばかりの真っ白な砂浜。 青くすんだ海。 波も少なく穏やか。
 それなのに驚くほど人が少ない。 僅かに点在する海水浴に興じてる人たちを見た限りでは
 遠浅で遊ぶにもとても適してるようだ。
 俺が目の前に広がる風景に見惚れていると横で羽津姉が歓声を上げる。
「うわ−! とっても素敵。 見て見て祥ちゃん」
 隣で嬉しそうにはしゃぐ羽津姉。 其の笑顔を見て改めて思う。 なんのかんの言ってもやっぱり
 羽津姉って美人で可愛いんだよな。 そしてその笑顔は俺は決して嫌いじゃない。
 小さい頃から何時も間近で見てき、そして俺を見守ってきてくれた笑顔……。
 久しぶりの満面の笑顔に心が軽くなる。 だが同時に胸も痛む。 其の笑顔を意図的に曇らせた
 張本人がそんな事考えるなんて我ながら身勝手なものだ、と。
「ね、だから穴場だって言ったでしょ」
 俺は季歩さんの声に引き戻された。 
「ええ、本当に素敵なところですね」
 俺は笑顔で相槌を打つ。
「ありがとう季歩ねえさん。 私とっても気に入っちゃった」
「季歩おねえちゃん。 素敵な場所教えてくれてありがとうね」
 羽津姉と結季も続けて口を開く。
「どういたしまして。 可愛い従妹と其の幼馴染クンのためなら」

「あれ? ところで着替える場所は?」
 羽津姉が上げた疑問の声に俺も気付き辺りを見回した。 そう、穴場と言うだけあって
 人が少ないのは良いのだが代わりに海の家なども無い。 よって着替えるような場所も見当たらないのだ。
「あ、大丈夫よ。 そこん所もちゃんと抜かりは無いから」
 そう言って季歩さんは車のトランクを開けて何かを取り出す。
「テント……ですか?」
 取り出されたもの、それは折りたたまれた小さなテントだった。
「そ、コレを組み立てて其の中で着替えるの」
「成る程。 あ、じゃぁ俺組み立てます」
「あ、私も手伝う。 速く着替えて泳ぎたいしね」

 そしてテントも組み終わった。 レディーファーストと言う事で先に着替えてもらい
 俺はテントの外で待っていた。
 ちなみに今着替えているのは羽津姉と結季。
 季歩さんは年長者で引率者と言う事もあって一番最初に着替えてもらって、
 今はビーチパラソルの下レジャーシートを敷いてくつろいでいる。
 あの二人の従姉だけあって美人でスタイルも抜群だったりする。
 口元に引いた紅の鮮やかさとサングラスが大人の色気を感じさせる。
 結季と羽津姉ももう数年したらあんな感じになるのかな。
「祥ちゃんお待たせ―」
 羽津姉の声に振り返るとそこには水着に着替えた羽津姉が居た。
 水着はピンク色のビキニでプロポーション抜群の羽津姉には良く似合っていた。
「どう? 似合う」
 そう言ってまるでグラビアモデルのようにポーズをとってみせる羽津姉。
 成る程、実際このまま雑誌のグラビアに載ってても何の不思議も無いくらいだ。
「ああ、よく似合って……!」
 言いかけて言葉を呑んだ。 羽津姉の後ろに少し控えめそうにしている同じく水着に着替えた
 結季の姿。 結季の水着姿を目の当たりにした瞬間自分でも分かるほど顔の温度が上昇していくのを
 感じる。
「やだ、祥ちゃんったら赤くなっちゃって可愛い。 そんなに私の水着姿って魅力的?
 いいよ、祥ちゃんにだったら幾らでも見られたって」
 赤くなった俺の顔を見て、羽津姉は頬に手を当て照れたようなそぶりをしつつも嬉しそうに声を上げる。
 だが、口には出さないが俺の心のうちは羽津姉が思っているのとは大分違う。
 客観的に見れば羽津姉の水着姿の方が魅惑的なのだろう。
 標準サイズより(多分)大きめのそれでいながらとても形の整った張りのあるバストも、
 引き締まったウエストも、そこから柔らかな曲線を描くヒップラインも、すらりと伸びた長い手足も、
 其の魅力も色気も十分に引き立たせるビキニも。
 対する結季のプロポーションも均整の取れた見事なものだが、胸も小振りでスレンダーな感じで、
 グラマラスな羽津姉とは対照的だ。 水着も綺麗や色気より可愛らしさを感じさせるデザイン。
 多分普通の男の視点で見れば殆どが羽津姉の方を押すのだろう。 だけど俺の目には結季の方が
 はるかに魅力的に映り釘付けになった。
「そ、それじゃぁ俺も着替えさせてもらうわ……!」
 俺は逃げるようにテントに駆け込む。
 やべぇ、結季の水着姿は去年の夏にも見ているのにこんなに興奮しちまうなんて。
 新しい水着と言うのもあるんだろが、あの日告白して以来(断わられたけど)今まで以上に結季に
 女を意識してしまっているせいだろうか。
 下半身も微妙に反応しちまってるし……。 まぁ、とりあえず静まってくれたから良いケド。
 お陰で着替えるのに手間取っちまった。


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