振り向けばそこに… MAIN 第8回
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 付き合いだしてから祥ちゃんの感じが少し変わった。
 何て言うか昔は少し頼りなくて本当に弟みたいな感じだったけど、
 落ち着きが出てきてク−ルな感じで……まぁそっけなく感じなくも無いけど。
 あ、若しかして緊張してたのかな? 気心の知れた仲と言っても改めて恋人同士になると
 意識しちゃうものなのかもね。
 でもそのせいか何だか前よりカッコ良く感じる。
 よく幼馴染と付き合ったって知りすぎて新鮮味が無くてつまらないなんて話聞くけど、
 全然そんな事無かった。
 今までに無い祥ちゃんの側面とか見れて、なんだか全てが新鮮で。 だから改めて思う。
 付き合ってよかった、って。

 そう、少なくとも付き合い始めた最初の頃は全てがただ新鮮に見えて、楽しくて仕方が無かった。
 でもそのうち何か違和感を感じるようになってきた。 いや、違和感と言うよりも
 一種の恐怖に近かったのかも。
 本当に祥ちゃんは今のこの状況を――私との交際を満足してくれてるのだろうか。
 楽しんでくれてるのだろうか。

 ある日の正午。 その日もいつものように私と祥ちゃんは屋上で昼食を楽しんでいた。
「ご馳走様」
「おそまつさまでした」
 そして食べ終わった祥ちゃんは立ち上がると口を開く。
「あ、羽津姉。 明日は弁当いらないから」
「え?」
 私は祥ちゃんの言葉に耳を疑う。
「きょ、今日のお弁当美味しくなかった?」
「いや、そんな事無いよいつもどおり美味かったよ」
「だ、だったらなんで……」
 一体何故。 何か自分に落ち度があったのだろうか。
 胸のうちからどんどん不安が広がっていく。
「いや、全然そんなのじゃないよ。 只、たまにはクラスの連中と昼飯喰ったりしたいってそれだけだよ」
「そうなの?」
「ああ、だから羽津姉が心配するような必要は全く無いよ」
「でもクラスメイトとの付き合いなんて授業の合間の休み時間とかでも十分なんじゃ……」
「男には男の付き合いってものがあるの。 それじゃぁそろそろ昼休みも終わるから教室に帰るな。
 羽津姉も遅れないようにな」
「あ、待って私も……」
 空のお弁当箱を片付けて追いかけようとしたが既に視界には祥ちゃんの姿は無かった。

 

 何だろう……。 この頃祥ちゃんの態度がいやにそっけなく寂しく感じる。
 恋人同士という間柄に対する気恥ずかしさ? 戸惑い?
 もうそろそろ恋人同士という関係にも馴れて来そうなものなのに、未だ祥ちゃんにぎこちなさがある。

 最近祥ちゃんを見てるとそんな不安が胸の中を渦巻いてばかり。
 だからあの日も、よせばいいのに盗み聞きみたいな真似をしてしまった。

 あの日、祥ちゃんがクラスメイトと思しき男の子と話しているのを見つけた。
 丁度私のいる場所は祥ちゃん達から
<なぁ、お前ってさァ姫宮先輩と付き合っているの?>
 クラスメイトの子が祥ちゃんにそう話し掛けてるのを聞いてしまい、
 私のいる場所が丁度死角だったこともあり思わず耳をそばだてる。
 祥ちゃんは私のこと友達に何て話すのかな。
<姫宮先輩って羽津姉の事?>
<ああ、お前一緒にいる事多いじゃん。 付き合ってるんじゃないかって皆噂してるぜ>
 噂になってるんだ私達! 他の周りの人たちからそう見られてる。
 表向きでは隠していてもやっぱり分かっちゃうのね。 そう思っただけで胸が躍る。
<ただの幼馴染だよ>
 でも其の事に対する祥ちゃんの返事はそっけなかった。 もう、相変らず照れちゃって。
 さっさと観念してばらしちゃえばいいのに。
<幼馴染ぃ〜? 本当にそれだけかぁ?>
 クラスメイトの子は尚も祥ちゃんに詰め寄る。 なんか思わず応援したくなる。
<それだけだよ。 姉弟みたいなもので、そんなんじゃねぇって>
<姉弟ねぇ。 でも本当にそれだけかぁ? だってあれだけの美人なんだぜ。
 おまけに優しくって成績優秀で全高男子の憧れの的だぞ? そんなヒトを前にして……>

<だからだよ>
<へ? どういう意味だよ>

 何? 一体どういう意味?
<よく言うだろ? 高嶺の花は手が届かないし手を伸ばそうとも思わないからこそ高嶺の花なんだ、って。
 そんな女のコと恋人同士なんて上手く行くと思うか?>

 其の言葉に私は一瞬愕然となりかける。 だけど気を取り直す。
 違う、あんなのは私達の仲を悟らせない為に付いた只の嘘だ。
 うん、そうに決まっている。

<んー。 まぁ一理あるかもな。 けどよ……>
<お前もしつこいね。 確かに俺と羽津姉は幼馴染で仲良いよ。
 でもな、それはあくまでも幼馴染でかつ姉弟みたいな仲だからこそだからだよ。
 男女の仲や恋仲なんて想像しただけで肩こりそうだぜ>
<じゃぁ、さぁ。 お前、姫宮先輩が他の男と付き合う事になったとしても平気なわけ?
 サッカー部のキャプテンが狙ってるって噂もあるぜ>

 男の子の声に引き戻される。 あぁ、そう言えば告白されたっけ。
 勿論その場で直ぐ丁重にお断りしちゃったけど。
<良いんじゃねぇの。 羽津姉に良い彼氏が出来れば俺も弟分として嬉しいさ>
<へぇ、でもまぁ其の口ぶりからするとマジで姫宮先輩とは何でもないみたいだね>
<だから言ってるだろうが>

 目の前が暗くなりそうになる。 あんな言葉に不安を感じる必要なんて無いはずなのに。
 だって祥ちゃん以前言ってたもの。 私と付き合ってるのを他の男の子達には知られたくないって。
 そう、だからさっき言ってたことは全部そのための嘘……。
 分かっているはずなのに、それなのにどうしても不安な気持が広がっていく。
 さっきの祥ちゃんのあまりにも淡々としたそっけない口ぶりが何時までも私の耳の中で、
 まるで呪いの言葉のように響き続けていた。


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