振り向けばそこに… MAIN 第7回
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 放課後、今日もわたしは図書館で一人本を読み耽っていた。
 祥おにいちゃんとお姉ちゃんの邪魔をしたくなくって、でもわたしには親しい友人と呼べる子は
 居なかった。 それで結局暇をもてあまさずに済める場所として主にココを利用していた。
 読む本は其の時々によりまちまちだった。 もとより読書より時間を潰す事の方が目的なのだから。
 でもだからといってあんまり適当に選んでも後で後悔することになる。
 特に恋愛小説は慎重に避けている。 以前考え無しに選んで読んだら自分に重ね合わせたり、
 過剰に感情移入して泣きそうになった事がある。

 図書館に頻繁に毎日のように出入りするようになると常連と言える存在がいる事に気付いてくる。
 若しかしたら私も其の人達から同じ様に思われてるのかもしれない。
 でも、そうした人達と知り合いになる事は無かった。 私自身他人と話すことが苦手だったし
 其の人達もみんな読書に没頭してたから。
 あと……私の目付きも原因の一つなんだろうな。 話すのが苦手で人見知りで、
 オマケに目付きが鋭いのだから、よほどの物好きでも私に話し掛けてくる事は無かった。
 口下手なのと、この目付きのせいで昔っから友達が居なかった。
 でも私自身はこの目はそれほど嫌いではなかった。 ……まぁ嫌った所でどうにかなるものでもないけど。
 それは祥おにいちゃんのお陰。 皆が怖いって言う中、祥おにいちゃんだけはそんな事言わなかった。
 それどころか褒めてくれた。 きりっとした鋭い眼差しが素敵だとまで言ってくれたっけ。
 そう、身内であるお姉ちゃんを除けば祥おにいちゃんだけだった。
 どんなときでも私のことを解ってくれたのは。

 気が付けば手元の本は何時の間にか、かなりのページが進んでいた。
 にも拘らず読んだ内容はまるで頭に入って無い。
 またやっちゃった。 気を取り直してページを戻す。
 祥おにいちゃんの事を考えまいと本を開いても、気が付くと意識がそっちに飛んでしまう事がある。
 ……早く吹っ切らなきゃいけないのに。
 ふと、祥おにいちゃんの声がした気がした。 幻聴なんか聞こえてるようじゃ駄目ね。
 未練がましい自分に我ながら呆れる。
「結季ー。 おーい聞こえてるか?」
 幻聴なんかじゃなかった。
「……! 祥おにいちゃん?! 何でココにいるの?! お姉ちゃんは?!」
「あのなぁ、幾ら付き合っているからって四六時中一緒って訳じゃないんだぜ?」
 そう言って祥おにいちゃんは笑って見せた。 その笑顔につられて私の顔もほころびそうになる。
 だが、わたしは感情を押さえ込み祥おにいちゃんから顔をそむけるように手元の本に視線を移す。
 そして口を開く。
「……何の用?」
「いや、特にこれと言った用があるわけじゃ……」
「だったらほっといてくれる? わたし今本読んでるんだけど」
 言いながら自己嫌悪に陥る。 用なんか無くても話し掛けてきてくれて、本当は嬉いぐらいなのに……。
「そう言うなよ。 ココ最近あまり話もしてないんだし折角久しぶりに……」
「ほっといてって言ってるのよ!!」
 わたしは思わず怒鳴り声を上げてしまった。
「わ、悪りぃ。 邪魔しちまったみたいだな……。 じゃぁ俺行くから。 またな……」
 そう言った祥おにいちゃんの声には申し訳なさと、寂しさが入り混じったものだった。
 そして力なく立ち去っていく靴音。 それらがわたしの胸を締め付ける。
「ゴメンナサイ!! ……祥おにいちゃんゴメ……ンナサ……」
 私は思わず祥おにいちゃんの背中に縋りつくように抱きついていた。
 祥おにいちゃんは振り向くと私を優しく抱きしめ、そしてそっと髪と背中を撫でてくれた。
 祥おにいちゃんに抱きしめられてるとたまらないくらい幸せな気持で満たされていく。
 やっぱりわたしは祥おにいちゃんの事がどうしようもないくらい好きだ。
 今更この気持どうする事も出来ないこと分かっているのに……。
 お姉ちゃんの邪魔なんかしたくないのに……。

 そして祥おにいちゃんはわたしと少しだけ言葉を交わした後、図書館を後にした。
 祥おにいちゃんの背中を見送っる私の心の中には満ち足りた幸福感が残った。
 でもそれは直ぐに自分の弱さ、情けなさへの憤りに変わる。
 あそこは、あのまま突き放すべきだったはず。 なのに……なのに。
「わたしの……、バカ……。 こんなのじゃお姉ちゃんに顔向けできないじゃない……」


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