振り向けばそこに… MAIN 第6回
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 その日の朝はいつもと違っていた。 祥ちゃんの姿が見あたらないのだ。
 いくら待っても探しても見つからないのでとうとう祥ちゃんちの玄関のインターフォンを押してしまった。
 対応に出てくれたのはおばさん――祥ちゃんのお母さんだった。
「え、風邪ですか?」
「そうなのよ。 ごめんね羽津季ちゃん。 折角来てくれたのに」
「そうですか。 分かりました。 では学校が終わったら、お見舞いに寄らせて頂きますね」
「ありがとう、あのコもきっと喜ぶわ。 ほら、そろそろ行かないと遅刻しちゃうわよ」 
「あ、本当だ、もうそんな時間。 では祥ちゃんによろしく伝えておいてください」
 そして私は一人学校へと向かう。 学校までの道のりってこんなに長くて退屈だったっけ。
 いつも祥ちゃんと一緒だから登校中のお喋りが楽しくてあっという間に感じるけど、
 一人だとこんなにも寂しく感じるものだったなんて……。

 その日は酷く退屈な一日だった。 やっぱり祥ちゃんに会えないと何をするにも気が乗らない。
 でも考えてみれば祥ちゃんは風邪でもっと辛い思いしてるんだよね。
 健康な私が文句なんか言ったら罰が当たっちゃう。
 それに今日一日会えないわけじゃないものね。 そうだお見舞いの品何がいいかな。

 あ、そうだ。

「おーい、結季」
「あ、お姉ちゃん」
 休み時間、私は廊下で結季に声をかけた。
「ねぇ、今日のお昼は久しぶりに一緒に食べましょ」
「い、いいよ……祥おにいちゃんとの邪魔したくないし……」
「相変らずそんな事気にしてるの? 大丈夫よそんな事気にしなくも」
 本当このコはそんな気ばっか使って。 まぁ、そこがまたこのコの良いところでもあるんだけど。
「っていうよりね……」
「?」
「実はね、今日祥ちゃん風邪でオヤスミなのよ」
「えぇっ?! 祥おにいちゃん風邪ひいちゃったの?!」
 私が言うと結季は驚いた声を上げる。
「うん。 それでね放課後お見舞いに行こうと思うの。 だからね、お昼ごはん食べながら
 その時持っていくお見舞いの品とか色々相談にのって欲しいの」
「そう……。 うん、分かった。 じゃぁお昼に」

 

 そして放課後、私はお見舞いの品を持って祥ちゃんの家へと向かった。
 結季と相談した結果先ず電話でおばさんに病状を聞いてみることにした。
 どうやら胃腸や消化器系をやられたわけじゃないらしいので、普通に食事も取れるし食欲もあるみたい。
 それでお見舞いにはケーキを買っていく事にした。 祥ちゃんの好物――駅前のケーキ屋さんの
 洋ナシのタルト。 きっと喜んでくれるよね。 ちなみにケーキ代は結季と半分ずつ。
 それと図書館で本も数冊借りた。 風邪で寝込んでるときって結構退屈だからね。
 今は未だ引いたばかりで読む気力なんか無いかもしれないけど、直ってきた頃、暇を潰せるのが
 あると良いからね。 そして祥ちゃんの家に到着。 ちなみに渡し一人で結季はいない。
 一緒にお見舞いしよって言ったんだけど、風邪で寝込んでるところにあんまり押しかけちゃ悪いって。
 一人も二人も変わらないと思うんだけどな。 オマケに私の鞄も持って帰ってくれて。
 本当あのコったら気ばっか使っちゃって。

 インターフォンを押すとおばさんが笑顔で出迎えてくれた。 そして部屋に通される。
「祥ちゃんお見舞いにきたよ。 どう? 具合の……」
 部屋に踏み入れて私は思わず息を呑んだ。 そのときの祥ちゃんの眼が一瞬、
 まるで手負いの獣みたいに見えて……。
「羽津姉……わざわざ見舞いになんか来なくてもいいのに……」
「え……?」
「あ、いや悪りぃ、言い方が不味かったかな。 その、移っちまったら悪いからさ……」
 そう言って吉ちゃんはバツの悪そうな顔をする。 そして私はほっと胸をなでおろす。
 さっきの態度が冷たい感じがして一瞬寂しく感じちゃったけど、風邪で体調を崩してるんだもの。
 不機嫌だって仕方ないよね。
 それに私に風邪が移らないよう気を使ってくれての言葉だったんだし。
「そんな、大丈夫だよ。 そう簡単に移ったりしないって」
「それに今だるくて話す気力も無いんだ……」
 気だるそうに吉祥ちゃんは応えた。
「そ、そう……。 そうだよね風邪引いてるんだものね。
 あ、あのねケーキ買ってきたんだけど食べる?祥ちゃんの好きな駅前のケーキ屋さんの洋ナシのタルト。
 結季と二人で出し合って買ったんだよ」
 私はそう言ってもってきたケーキの箱を掲げて見せた。
「結季も来てるの……?」
「ううん。 あんまり押しかけちゃ悪いっていって来てないよ。 一人も二人も変わらないのにねぇ」
「そうか……」
 祥ちゃんやっぱりしんどそう。
 でも食欲はあるって聞いてるからケーキ食べさせてあげれば少しは元気出るかな。
「ねぇ、それより食べない? 折角だから食べさしてあげるよ」
「いや、今あんまり腹減ってないからイイ。 後でいただくよ。
 ありがとうな。 結季にもそう伝えておいて」
「うん、分かった」
「あと、そろそろ眠くなってきたんでいいか?」
 そうだよ、病人なんだもの。 しっかり睡眠とって早く直さなきゃ、だもんね。 長居しちゃ悪いよね。
「あ、うん。 じゃぁ私そろそろお暇するね。 お大事にね祥ちゃん」


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