振り向けばそこに… MAIN 第3回
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 電話を切ると涙が滲んできた。 駄目、泣いたりしちゃ。
 だってコレは私が望んだ結果なんだから。
 大好きなお姉ちゃんと祥おにいちゃん、二人が晴れて恋人同士になれたんだから。
 お姉ちゃんがどれだけ祥おにいちゃんを好きか、
 そのことは妹であるわたしは誰よりも良く知っていた。
 祥おにいちゃんだってお姉ちゃんのこと決して悪くは思っていない。
 私達3人は小さい頃からずっと仲良しだったのだから。
 だから、わたしさえ身を引けばきっと全てが上手くいく。

 祥おにいちゃんがわたしを好きだと言ってくれた時、本当はすごく嬉しかった。
 でもそれを受け入れるわけにはいかなかった。
 だって受け入れてしまえばそれはお姉ちゃんの恋心を摘んでしまう事に他ならなかったから。
 それだけは絶対にしたくなかったから。
 だから……だからコレは最良の結果のはず……なのに、なんで、なんで……。

 次の日の朝、わたしはいつもよりも早く家を出た。
 折角付き合いだした二人の邪魔をしたくなかったから。
 でも本当はそれだけじゃなくてわたしが辛かったから。
 今のわたしは祥おにいちゃんの前でどんな顔をしていいか分からなかったから……。

 その日からわたしは一人になった。 いや、一人になる事を選んだ。
 お姉ちゃんも祥おにいちゃんも悪くない。
 二人共気にせず今まで通り一緒にいようって言ってくれた。
 でも其の言葉に甘えたらきっと決心が鈍ってしまうから……。

 

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 その日朝は快晴。 まるで私の心を表してるかのように澄み渡っていた。
 昨日の告白を思い出すと自然と頬が緩む。 そして学校への通学路、祥ちゃんを発見した。
 嬉しさのあまり私は駆け出し、そして抱きついた。
「おっはよ〜。 祥〜ちゃん」
「う、うわっ! は、羽津姉?! イキナリ抱きつくなよビックリするじゃないか」
 祥ちゃんったら顔を真っ赤にして驚いてる。 可愛いったらありゃしない
「良いじゃない。 だって私達はコ・イ・ビ……」
「ストップ! 羽津姉、昨日俺が言ったこと憶えてる?」
 勿論忘れるわけが無い。 でも晴れて恋人同士になれたっていうのに、
 それを押さえて今まで通りなんて出来るわけ無いじゃない。 だから私はとぼけて見せた。
「え〜? 何だっけ〜?」
 そんなつまらない約束とぼけて押し切ってうやむやにしちゃえい。
「羽津姉!」
 瞬間、祥ちゃんは厳しい声を発した。 いや、声だけじゃなく其の表情も険しかった。
「羽津姉が約束守れないようならこの話やっぱり無しにしようか?」
 私は其の気配に気圧され慌てて慌ててその身を放す。
「ゴ、ゴメンゴメン。 つい調子にのりすぎちゃって悪かったから、そんなに怒らないで、ね」
 私は慌てて両手を合わせて謝る。 
「ね、ねぇ。 じゃぁせめて手を繋ぐぐらいイイでしょ?
 コレなら昔っからしょっちゅう繋いでたんだから」
 私がそう言って手を差し出すと、祥ちゃんは少し照れながら手を握り返してくれた。
 昔もこうしてよく手を繋いだけどこういうのも何だか初々しくて良いな。

「あれ? そう言えば結季は?」
「あ、、あのコなら今朝は用事があるとかで一足先に出たわよ」
「そう……」
 私の返事を聞くと祥ちゃんはチョット寂しそうな顔をする。
 そう言えば何時も登校時は三人一緒だったけ。 二人っきりになると物足りなく感じるのかな。
 ……なんかちょっと妬けるな。 ってなに考えてるんだろ。
「ね、ねぇ。 若しかしたらあのコ私達に気遣ってくれたのかも」
「え? 気を遣うって?」
「折角私達が付き合いだしたんだから、二人っきりで水入らずにさせてあげようってつもりなのかも」
 そう思ったら急に結季の事が可愛く思えてきた。 勿論今までだって可愛い大切な妹だけど。
「そんなわざわざ……」
「ねぇ、折角の好意なんだからありがたく甘えとこうよ」
「でも、なんか寂しいよな」
「其の分は私が埋めてあげるから元気出してよ。 ね」
「まぁ、確かに俺たちはそれで良いけど、結季の方は大丈夫なのかなぁ。
 アイツ友達あんまり居ないみたいだし」
「大丈夫よ。あのコだってもう子供じゃないんだし」
「そうだよな。 でもあいつに言っといて。 あまり俺たちに気を使うなって。
 俺も会ったら言っとくけどさ」
「分かったわ」
「頼むよ。 結季は俺にとっても妹みたいなものだから」
「そうね。 でもこれからは妹みたいじゃなくて『義妹』とかいて『いもうと』って呼んだほうが
 正しいかもね」

 

 正午――昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴るや否や私は二人分のお弁当をもって飛び出した。
 目指すは屋上! 祥ちゃんと一緒にお昼を食べる為に!
「祥ちゃん、おっ待たせ〜」
 ってチョット早く来すぎたかな。 まぁいいや待つのもまた楽し、って言うし。
 屋上での一緒のランチは昔っからの日課だったけど、今日の楽しみはひとしおだった。
 何せ今日は私がお弁当を作ってきたのだから。 はっきり言ってかなりの自信作!
 今回は結季も協力してくれたし。 あのコ対人コミュニケーションはからっきしだけど、
 其の分一人で何かに没頭する作業は得意だから料理も物凄く上手だったりするのよね。
 コレばっかりは私も全く敵わない。 だから今回はお願いして手伝ってもらっちゃった。
 お陰でとっても美味しく出来た。 だから今回は結季に物凄く感謝してる。
 
 そんな事考えてるとドアが開いた。
「祥ちゃん!」
「悪りぃ、待たせちまったか? 羽津姉」
 祥ちゃんの顔を見ると嬉しさがこみ上げてくる。
「全然そんな事無いよ。 私も今さっき来たところだから。 それより座って座って。
 今回は自信作なんだよ」
「……自信作……って、羽津姉が作ったのか?!」
「チョット?! 何よその反応は!」
「いや、だって羽津姉、料理……」
 そう、はっきり言って私は料理はあまり得意じゃない。 っていうかストレートに言えば下手。
 でも今回は……
「私だって成長してるのよ? そ・れ・に、今回は結季に手伝ってもらったの」
「結季に?」
「そ、あのコのお墨付き。 ってあからさまにホッとしないでよ!」
 まぁ、祥ちゃんの反応も尤もなんだけどね。
 前に私が一人で作ったときは思い出したくも無い程散々な結果に終わっていたから。
「ハハ、悪い悪い。 じゃ、あとは結季が来るのを待つだけか」
「あ、あのコなら今日は来ないわよ。 折角の二人っきりの時間邪魔したくないし。 だって」
「そっか……」
「そう言う訳だから食べましょ」
「そうだな。 俺もはらぺこだし。 じゃ、いただきます」

 祥ちゃんはお弁当の蓋を開けると物凄い勢いで食べ始めた。 ふふっ、よっぽどお腹がすいてたのね。
 とっても美味しそうに食べてる。 そんな姿見るとやっぱり作った身としては感無量よね。
 でも出来ればもうチョット落ち着いて食べて欲しかったな。
 折角の恋人同士の二人っきりのランチタイムなんだから定番の『ハイ、あ〜んして』とか
 やりたかったのになぁ。

「ごちそうさま」
「おそまつさまでした」
 そうして私は空っぽになったお弁当箱を受け取る。
 こうして綺麗に空っぽになったお弁当箱を見ると満足感が込み上げてくる。
「ねぇ、ところで何が一番美味しかった?」
「そうだな〜。 どれも美味かったけど卵焼きかな。
 結季のと比べても遜色ないぐらい美味しく出来てたよ」
「え? 卵焼き?」
「ああ、美味かったよ。 おっと、実は次の授業に提出する課題を終わらせなきゃいけないんで、そろそろ教室に帰るわ。 じゃぁな、羽津姉」
「あ、うん」
 そうして祥ちゃんは屋上を後にしていった。
「結季のと比べても遜色ない、かぁ……。 そりゃそうよ。 だって……」
 実は卵焼きは何度やっても上手くいかなかったので、
 結局結季が作ったのをそのまま使わせてもらったのだったから。
「やっぱ、料理じゃ結季にはかなわないなぁ。 ってしょげてたってしょうがない。
 だったら次こそは本当に私が作ったのを美味しいって言わせて上げるんだから!」
 そうして私は拳を握り締め決意を固めた。

 ふと空を見上げれば空はどこまでも澄み渡っていた。 お日様の光が気持ちイイ。
「祥ちゃんも課題ぐらいウチでやっときなさいよね」
 折角のいい天気なんだからもう少し一緒にのんびりしてたかったのにな。
 お腹も一杯でポカポカと気持ちイイからお昼寝とかも良いかも。
 そしたら膝枕とかしてあげたのになぁ。
 まぁ、愚痴ったり欲張ったりしてもしょうが無いか。
 それに次にとっておく楽しみが増えたって考えれば良いしね。
 そして私も屋上を後にした。

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「そう言えば一人っきりでお弁当食べるのって久しぶりだな……」 
 わたしは中庭で一人木にもたれかかってお弁当を食べている。
 折角美味しくできたお弁当なのに一人で食べると何だか味気ない。 でも仕方ない。
 自分で決めた事なんだから。 祥おにいちゃんとお姉ちゃんを二人っきりにさせてあげようって……。
「祥おにいちゃんとお姉ちゃんも今頃食べてるんだろうなぁ……」
 初めてかもしれないなぁお姉ちゃんがわたしに頼みごとするなんて。
 何でもこなすお姉ちゃんが唯一苦手で、そして同時に唯一私が勝てること、それがお料理だった。
 恋はヒトを変えるって言うけど本当ね。 あんなに一生懸命なお姉ちゃん始めてかも。
 だからそんなお姉ちゃんには絶対に幸せになって欲しかった。
 大丈夫、そんな健気な姿見せられればきっと祥おにいちゃんも……。
 だから……、だから私も早く気持を切り替えなきゃ……。

「よう、結季。 こんなところで一人でメシか?」
「しょ、祥おにいちゃん?! お、お姉ちゃんと一緒にお昼食べてたんじゃなかったの?!」
「ああ、さっき喰い終わった」
「お、美味しかった……?」
「ああ、結構美味かったぜ」
 良かった……。 うん、お姉ちゃん一生懸命頑張ってたもの。
「結季もお疲れ様。 大変だったろ。 あの羽津姉にあそこまで作れるようにレクチャーするのは」
「そんな事無いよ。 全てはお姉ちゃんが頑張ったからだよ」
「でも、卵焼きだけはお前が作ったヤツだろ?」
「……!」
「やっぱりな。 あれだけ出来が段違いだったからな。 美味かったぜ。
 とりあえずそれだけ伝えたかったから。 じゃな」
 祥おにいちゃんは笑顔でそう言うと手をヒラヒラ振りながら去っていった。

「……祥おにいちゃんのバカぁ……。 そんな……、そんなこと言われたら諦められないじゃない……。
 折角の……決心が、鈍っちゃうじゃない……」


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