振り向けばそこに… MAIN 第2回
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 あれから数日が流れた。 俺が羽津姉の告白を断わり、結季に俺の想いを断わられてから。
 一見すると俺達3人ともあんな事があったとは思えないほど平穏に日常は過ぎている。
 だが実際には羽津姉の顔からは常に俺への好意――いや未練と言った方が正しいのかもしれない――
 が見え隠れし、それに関しては俺も一緒で結季の気持に変化が現れてないか、
 其の事ばっか気になってる。 そんな片思いの一方通行が交差する日々。
 そんな日々を終わらせたくて俺は行動に出ることにした。
 かなり強引だしある意味賭けだが、これ以上埒があかないのはイヤだったから。

 放課後俺は羽津姉に二人っきりになりたいと屋上に呼んだ。
 そうして目の前に現れた羽津姉の顔は期待と不安と自信が入り混じったかのようなものだった。
「悪ぃな羽津姉、わざわざ呼び出したりして」
「ううん、気にしないで。 ね、それより話って何? あ、も、若しかして……?」
 あからさまに其の眼差しから期待が伺える。
 其の眼差しに俺の胸は僅かに痛んだが、決めた以上は躊躇は無用だ。
「ん、まぁ多分羽津姉の考えてる通り……って、うわぁ!」
「ありがとう祥ちゃん!!」
 話の途中にも拘わらず、羽津姉はその豊かな胸が当たるのもお構い無しに俺に抱きついてきた。
「イ、イキナリ抱きつかないでくれよ! 先ず話を最後まで聞いてくれ!」
「え〜。 良いよ、聞かなくったって分かるもん」
「いいから!」
 俺が抱きついてきた羽津姉を引き剥がすと羽津姉は露骨に残念そうにする。
 でも直ぐに其の表情は期待に満ち溢れたものに変わる。

 そして俺は口を開く。
「その、な。 俺の条件呑んでくれるのなら、付き合っても良いぜ」
 其の瞬間羽津姉の表情はまるでこの世の幸せを独り占めにでもしたかのように輝く。
 そしてまた抱きついてきた。
「ありがとう! 条件? 何だって聞くよ!? 祥ちゃんが付き合ってくれるのなら何だって!」
「だからむやみと抱きつかないでくれって」
 羽津姉の抱きつき癖は昔っからあった。
 其の事に気恥ずかしさを感じなかったわけじゃないが、今感じるそれはそれだけじゃなくて……。
 兎に角俺は羽津姉を引き剥がすと話を続けた。
「条件ってのはその、付き合う上での主導権は俺のほうに握らせてくれ。
 何事も俺の思うようにやらせてくれ。 それでもいいか?」
 我ながら恐ろしく身勝手な条件。 でもコレで引き下がったり呆れたりしないだろうな。
 実際、羽津姉は一瞬きょとんとした表情をしたが、直ぐ其の顔にはにんまりとした笑みが浮かぶ。
「OK 私の恋人になってくれるんだったら、なんだって聞いてあげちゃう。 キャ♪」
 そうして羽津姉は満面の笑みを浮かべたまま頬を赤らめ手をあてる。
 こりゃ、間違い無く俺の意図を取り違えてて誤解してるな。 まぁいいや、兎に角切り出そう。
「まず、基本的な態度は今まで通りにして欲しい。 あんまり露骨に恋人恋人しないでくれ。
 って言うか出来れば周囲に気付かれないようにしてくれ」
「え〜? どうして〜?」
 言った瞬間、羽津姉は露骨に不服そうな顔をする。
「羽津姉だって自覚してるだろ。 自分が結構どころか、かなりもてるって事。
 羽津姉に好意を持ってるやつからの嫉妬を全て受けてたら身がもたねぇよ」
「なるほどねぇ。 でも出来たらそんな嫉妬の視線を受けて悠然と構える余裕を持って欲しいな〜」
「いやなら付き合うの止めようか?」
「ああ! ごめんごめん! 解かってる。 言う通りにするから。 ね?」
 俺が言うと羽津姉は慌てて取り繕う。 その顔は相変らず幸せで一杯といった風である。
 そして更に続けてきた。
「ね。ね。 他には? 他には無いの?」
「無いよ。 今のところはそれだけだよ」
 羽津姉には申し訳ないが俺の要求に羽津姉の求めるような事は、多分無い。

 その日の夜、電話がかかってきた。 結季からだ。
『お姉ちゃんと付き合うことになったってった本当……?』
「ああ。 羽津姉から聞いたのか?」
『うん。 お姉ちゃん……とっても、嬉しそうな顔……してた』
「これがお前の望みなんだろ?」
『うん……。 ありが……とう。 用は、それ……だけ、だから。 じゃぁ……オヤスミ……ナサイ」
「ああ、お休み……」
 そして俺は電話を切った。 
「ありがとう……か。 だったら……、だったら何でそんな辛そうな、泣きそうな声で話すんだよ……!!」
 俺は思わず携帯を壁に叩きつけそうになる。 だが、寸前で思いとどまる。
 落ち着け。 憤るな。 焦るな。 事は未だ始まったばかりなんだから。


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