義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第13回
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『モカ』

「いや、でもオレ掃除あるから……」
「いいじゃん、いいじゃん、私も今日バイトあるから何処にも寄れないけど、さっさとかえろ」
 グイグイと士郎君を腕を引っ張る。
「その辺にしときなさい」
 何時の間にやら近づいていた涼子が士郎君の肩をグイッっと引っ張る。そして、なんか目がキツイ。
「こいつはそんな事したら、後で思い返して胃を痛めるようなタイプなの」
「うーうー」
 士郎君の腕を大袈裟にブンブン振り回してみるが、涼子はキッツい視線を送ってきていて、
 士郎君は少し困った顔。
「うー、後で電話するからね……」
 このまま粘ってるとバイトに間に合わなくなってくる。渋々観念してトボトボと背を向けて
 歩き始めた。
「……にゃおん」
 三歩程歩いてから名残惜しげに後ろを振り返る――猫に学ぶ名残惜しさの表現方法。

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『士郎』

 姉ちゃんと一緒に並んでドラマを見ている。
 別にいつも通り、極々普通の日常――のはずだ。
 しかし時折、目線が姉の方へ向いている。そして自分がそのことに気づくと慌てて
 目をテレビに戻す。そんな事を最近ずっと繰り返している。
 そして再び目が勝手に隣の住人にへと向いた時、その顔は笑っていた。
「ふ、風呂入ってくる」
 慌てて立ち上がっていた。

 ――おかしい。
 湯船に肩まで浸かってから考える。
 なんでもない事をやっている。その筈なのに何か意識してしまう。
 その『何か』が何であるかは、わかっている。三沢に抱いていたものと同じだ。
 今頭の中を空っぽにすべく、頭から湯を被った。
 目を閉じたまま手探りでシャンプーを探す。
「ナイスタイミング」
「へ?」
 風呂のドアが開くと同時に姉の声が聞こえる。
「まだ髪洗ってないね」
 人の脳味噌の硬直を無視したまま姉は勝手に人の頭を洗い始める。
「いや、あ……」
「昔ね、同級生の子が弟の髪洗っているって話しててね、そういやあんたに、そんなこと
 してあげたことないな、って思い出してね」
 今何が起きている? シャンプーが目に染みそうで目が開けられない。
 全身硬直したまま、リンスも無事終えると姉はさっさと風呂場から出ていった。
 何だったんだ――

 チラチラと部屋のドアを見つめては机の上のノートに目を戻しては少しだけ
 手を動かす作業を繰り返す。
 隣のベッドに枕が二つある。昨日からあるオレのと、姉ちゃんの。
「ここに枕あるってことは、そういう事だよな……」
 その言葉を口にした時、それを期待している自分に気づいた。
 階段を上ってくる音がする。一歩、二歩とこちらに近づいてくる。その音にあわせて
 胸の鼓動が早くなってくる。
 ドアが開く音――この部屋ではない、姉ちゃんの部屋だ。
 大きく深呼吸を繰りかえし、鼓動が落ち着きかけた頃頭を大きく振った。
「何か分らない問題でもあるの?」
 ベランダ側から唐突に声をかけられ背筋を伸ばしていた。


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