義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第12回
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『涼子』

 秋日に照らされた中庭に目を向ければ彼女――三沢さんが一人ベンチに小さくうずくまっていた。
「何やってんの?」
「……何でもありません」
 返事はするが顔を上げようとはしない。
 いつか見たシロウへの彼女の視線が思い浮かぶ。
「言いたい事言えないってあたり?」
 長い間をおき、彼女は言葉を返す代わりに小さく頷いた。
 そういえば、振られたとは聞いたが、具体的な流れについては全く聞いてなかった。
 シロウ達は一体どんな伝言ゲームやったんだろう。
「やりたいけどやれない、やらない方がいいに決まっている――そうやって
 自分に言い訳していることってのは大抵は後悔するもんだよ」
 彼女の後ろのベンチに背中合わせの様に腰を下ろす。何となく説教くさくて
 正面から話す気にはなれない。
「やって失敗したってのは大抵自分に決着付けた結果だけど、自分の本心偽ってやらなかったてのは
 例え悪くない結果でももしやってたらってのが心の中で引っかかりつづけるんだよ」
 振り返り彼女を見ればうずくまったままだ。この辺はシロウに似ているかもしれない。
「で、あんたはやるの? やらないの?」
 ――本来大した面識もないような相手に何故ここまで押し入っているんだろう。
 彼女は顔をしたままで返事はしない。
「はい決定! 今日の放課後」彼女の頭を軽く叩く。
「心の準備が――」
 慌てて顔を上げた、やっぱりシロウに似ている。
 大きな溜息が落ちた。
 ――手間のかかる――

 ――彼女は行動に移すのだろうか。
 放課後になってそんな考えが浮んだ。あのまま首根っこを掴んでシロウの前まで
 突き出してしまった方がよかったかもしれない。
 自分で悩んでもしかたないのだが、背中を押してしまった手前気になって仕方ない。
 校門へと向かって歩いていくとシロウと三沢さんは向いあっているのが見えた。
 二人ともまるで見合いを始めたかのようにお互いを前にしたまま口を開こうとしては
 上手くいかない。
 二人を見守る為に足を止めて数分立つがお互いが言葉らしい言葉を発していない。
 多分放っておくと終電時間までこの様子が続きかねない。
 言葉よりアクション。無言で近づき、シロウの頭を掴んで、そのまま前へと押し出す。
 掴んだ頭が正面にある別の頭にぶつかる感触がした。
 ラブコメなら上手い具合にキスになるだろうが、
 鼻もしくはおでこがぶつかっただけかもしれない。そこまでは責任はもたないが、
 二人の動きに変化は現れるに決まっている。
 数秒たつが、二人に動きはない。頭を押した誰かより、
 目の前に存在に全神経を持っていかれているんだろう。
「士郎くーん!」
 モカが駆けてくるだ。せっかくの話の腰を折りそうなタイミングで。
 ラリアットの要領でモカの首を引っ掛け止める。
 喉にあまりにいい具合に入りすぎたモカはうめいている。
「こっちは適当に話つけとくから、あんた達はキッチリ決着つけときなさい」
 相変わらず二人は固まったままだ。
 ――こっちは蚊帳の外ですか。
「さーて、邪魔者はさっさと帰るよ」
 首を絞めたままモカを引き摺って歩き始めていた。

 

 ――数日後。
 秋というより冬に季節は変わりつつあり、日が沈んでしまった帰り道のことであった。
「にゃおん」
 鳴き声がした。
 なるべく視界に入れないようにしていたが、やっぱり入ってしまう。
 極太マジックで『拾って下さい』と書かれたダンボール箱の中のものが。
 この声は私へ向けてのものだ、間違いない。
 小さく溜息を吐いて声の主へと顔を向ける。
「何かの罰ゲーム?」
 ご丁寧にネコミミに鈴付首輪までつけたダンボール箱の中のモカへ向かって投げかける。
「捨てられた哀れな仔猫にゃーん。ここまで体張れば誰かいい人に拾われるかと思ったけど
 小学生にまでシカトされる始末だにゃ。人の別れ話作らせた原因なんだから
 誰かいい人紹介してにゃ」
「誰かいい人ってもね、あんたと私の交友関係でダブってない人間なんて何人いると思う?」
「――うん確かに」


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