義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第20回
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『士郎』

 抱き枕――オレは抱き枕だ。密着している暖かく柔らかい感触を振り切るように、
 自己暗示にかけるように心の中で呟く。
 抱き枕抱き枕。心の中でいくら呟いても背後から自分を抱きしめている存在が消える訳でもなければ
 頭の隅へと行き緩やかな睡眠の時間に遷る訳でもない。
 姉弟――血の繋がりはないが、この歳でこの様なスキンシップは不自然じゃないのか。
 でも、自分はついこの間から、この様に抱きしめて欲しかった。
「ねえ――私の事好き?」
 耳元で囁かれた言葉が体の芯に走った。以前なら茶目っけのある姉の事だ、落ち着けば脅かせて
 人を困らせたいぐらいに思っただろう。でも弟と姉としてではなく男と女としての関係を持ってしまった。
「……嫌いじゃない」
 大きく間を置いて出たのはそんな言葉だった。
 嫌いじゃない――今まで何度もケンカしたりして煩わしいと思った事は一度や二度ではない。
 最近になって改めて感じた。傍にいて何でもない時間を一緒に過ごしていたい。
「私は『好きか』そうでないか聞いているんだけど」耳元でまたも囁く。
「そういうのはハッキリ言うのもの」

 抱きしめていた腕は離れたかと思うとパジャマの中に手が進入してくる。
 手がゆっくりとオレの腹で円を書き始める。
 この手の動きを知っている。一緒に寝た時何度もされた――無論子供の頃のじゃれ合いではなく、
 愛撫として――
 姉の手が中指を残して腹から離れる。ゆっくりと中指は体の中心を昇り胸の辺りで再び円をかき始める。
 ここから何が始まるかは知っている。でもやっちゃいけない。
「エッチの時に気持ちよくなる為に一番大事な事って何か知っている?」耳元に息を吹きかけながら
 姉の手はゆっくりと円をかきながら下へ下へと下っていく。
「あ、相手を……大事に、すること」
 シーツをきつく握り締め全身を固め、その言葉をようやく搾り出した時には手は下腹部を過ぎ
 優しく玉袋を愛撫し始めていた。
「やりたいと思う事やる事――」
 腰を動かしたい。豊満な胸を貪りたい。中へと突き入れたい。
 やっちゃいけない、とめなきゃいけない。頭はやめろいっても体の昂りがそれを許してくれない。
 姉の遊んでいたもう一方の手がパンツの中に忍び込み、本来外から何かが進入しない菊門へと
 指が進入していた。
「ひゃっ?」体が震え思わず声が漏れていた。
「ふーん、やっぱりね」耳を甘噛みしていた口が離れた「何かやりたいことある?」
「……い、いや別に」
 こんな言葉無意味に決まっている。また以前のように流されるままやってしまうに違いない。
 今昂っているものを姉が沈めてくれる。全部叩きつけられる。
 パンツの中から手が抜き取れる――次は何が来る。期待が高まる。
 しかし姉の手は自分を再び抱き枕の様に抱きしめただけだった。
「――じゃ、お休み」
「あ……おやすみ」
 やりたい。全身が昂っている。今すぐそこに全身が要求してやまない体がある。
 姉ちゃんの行為は終ったというのに頭に上った血が戻ろうとしない。
 目を閉じれば乱れていた姉ちゃんの裸体しか浮かんでこない。
 自分で処理しようにも姉ちゃんが背後に張り付いている状況下でできるわけがない。
 眠れそうもない――

 

 目覚めた――という事は少しは寝れたらしい。全然寝た気はしないが。
 時計を見ればいつもより少し遅い。今朝はもうトーストとハムエッグにしよう。
 そう考えながら布団から抜け出していた。

 台所へ入るなり味噌汁の匂いがした。あれ、母さん帰って来ていたのか。
「おはよう」
 エプロン姿の姉ちゃんが朝の挨拶をした。
「あ……おはよう」
 冷蔵庫から牛乳を取り出し、マグカップに注ぐ。電子レンジにセットする。
 電子レンジの中の回転をするマグカップを眺めているとカツオ出汁の匂いが鼻腔をつつく
 ――味噌汁はカツオ出汁じゃなくてイリコ出汁だと思うんだけどな。少なくとも母さんは
 ずっとイリコ出汁だった。他の家ではどうなんだろう、そういえばそんな事誰かに聞いた事なかった。
 鼻歌混じりにまな板を叩く音がする――何か妙な違和感を感じて仕方がない。
 姉ちゃんは別に料理が出来ないなんて事はない。まあ人並みだと思う。
 面倒という理由でオレにやらせている。
 ああ、確か中学の時もこんな感じで母さんと一緒に料理していた様な――
 とりあえず今は前を見ろとレンジが電子音を鳴らしていた。


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