義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第14回
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『士郎』

 姉ちゃんとの会話は完全になくなっていた。食事すら一緒にとらなくなっている。
 最後のコミュニケーションらしいものと言えば布団越しに蹴られた事だけだった。
 夜の関係を止めてしまえば元の姉弟の関係に戻れる――そう思っていた。
 しかし今は姉ちゃんとの溝はどんどん深くなっていく。もはや同じ家に住んでいるだけの
 他人となっている。
 どうしたらいいのかわからない。小さな頃は何も考えず生の感情だけをぶつけていた。
 だからしょっちゅうケンカばっかりしていた。いつの頃からだろう、素直に姉ちゃんで呼べるように
 なったのは。
 今自分は一人ぼっちだ。部屋にはオレ以外誰もいない。いつもなら用事もないのにやってくるのに――
 一人きりじゃ無いはずの家で孤独を感じている。その孤独感を紛らわせようとモカさんへと
 電話をかけていた。

 

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『モカ』

 士郎君に夜這いをかけた時、最初「姉ちゃん」って言ったんだよね。あの二人って今じゃ馴れ合う
 素振りどころか殆ど話さないのに家じゃ結構仲いいのかな。この間原因は詳しくは教えてくれなかった
 けど士郎君からケンカしたみたいな事電話越しに辛そうに話してたし。
 士郎君が来て間もない頃は私に士郎君への文句ブツクサ言ってきたと思ったら帰り道じゃ
 仲良くしてたりしてたし。口ではなんだかんだ言って仲いいのって結構うらやましいんだよね。

 今のところ士郎君との仲は好調。涼子には男が出来たと一応それとなく言ってみたけど、
 なんでもない話題の様に流された。結局未だ秘密のまま。ちょっとは勘繰ってくれないと
 隠しがいがないよ。
 士郎君と仲良くしていた三沢さん、私に面と向かって何か言うわけでもなく見ているだけ。
 別に卑怯な手段を使って奪ったとかそういうつもりは全く無いけど、ああいう目で見られると
 あんまりいい気はしないな。士郎君も何か言う訳じゃないけど彼女見ていていい顔しないし。

「士郎君はイヌとネコどっちが好き?」
 二人きりで膝枕させて軽く頭を撫でながら聞いてみる。
 やっぱり可愛いな、こうして撫でながら上から見てると。少し照れながらも凄く満たされた表情。
「猫ですけど」
 うーん、ネコか。ネコでいいかなー、もう。
「うんうん、わかった」そう言って遊んでいたもう一方の手で士郎君「ほらゴロゴローってやって」
「無理ですって」少し困った顔をして笑ってる。
「士郎君は私の何処が好き?」不意打ち気味に尋ねてみる。
「え――優しいところ……」一瞬間を置いてから返事が返って来る。
 今ちょっと考え込んだでしょ、そういうのはいつでも即答できるようにしないと。
 口に出して言う代わりに頭を撫でている手を少し乱暴な動きに変えた。

 

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『智子』

 大きく深呼吸をしてから静かに保険室のドアを開けた。
 ――居た。
 士郎が体育の授業で保健室に行ったと聞いて心配になってやってきていた。今士郎は保健室の
 ベッドの上で静かに横たわっている。
 会って何て話したらいいんだろう。頭の中がはっきりしないのに足が勝手に士郎へと向かっている。
 足の裏の接地間ない。夢の中の様に朧げに立っている事、歩いている事に現実感がない。そんな中
 体はゆっくりと自分の意思以外の何かにひっぱられるように彼に近づいていく。
 気がつくと真下に士郎の顔があった。寝ているらしいくこの距離まで来ていても反応はない。
 自分の頭が重力に従いゆっくりと落ちようとしていた。
「――モカさん?」少し寝ぼけた感じでゆっくりと口を開いていた。
 意識が突如覚醒し、慌てて顔を離し背を向けていた。
「……ごめん、間違えた」後ろからそんな声が聞こえた。
「……大丈夫?」
 背を向けたまま聞く。顔を見ることが出来ない。
「……うんまあ。鼻血がちょっと酷かったけどもう止まった」
 お互いの言葉が余所余所しく感じる。
「モカさんって――付き合っている人?」
 ――違うって言って。
「……うん」
 言って欲しくない答が帰ってきた。
「好き――なんだ……」
「……好きなるように努力してる」
 ――そんな努力しなくていいのに。
「そう……。
 なにか言いにくいことあったら私から言ってあげるから。士郎って変な遠慮して言おうとしない
 ところあるから。
 私でよかったらいつでも相談乗ってあげるし、力になってあげるから――」
 もう自分の口が自分の意思で動いていない。
「じゃあ、私もう行くから」
「ああ――」
 これ以上この場所にいると自分の口から何が出てくるのか分らない。それが怖い。だからこの場所から
 逃げた。

 保険室からゆっくりと出て行った時、全身が強張っている自分に気がついた。

        *        *        *
『士郎』

 保健室で気づいた。三沢の事、姉ちゃんの事、全部モカさんに逃げている。
 モカさんは弱い自分を許してくれている。そして自分はそれに甘えている。
 モカさんはオレの事を好きだと言ってくれる。オレも嫌いじゃない。
 いいのかな、これで――自問自答してみるが答えはわからない。
 屋上でよりかかっているモカさんの体重を感じながら、そんな事を考えている。
 ただよりかかっているだけで、特別何もしていない。でも心地いい。
 三沢ともひょっとしたらこういう関係になれたのかな、ふと思う。姉ちゃんだったら――
 今自分はモカさんをその二人の代わりにしているのかもしれない。
 ――よくないな、こういうの考えているのって。

「今日帰りに私の家寄ってよね」
 ボンヤリと空を見ながら考えている中、声をかけられた。
「え――あ、はい」
 返事が終ると同時に頬にキスをされた。
「よーし」心の奥底からの抑えきれない笑みがそこにあった。


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