義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第13回
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『士郎』

 右手がゆっくりとモカさんの髪を梳い続ける。
 誰かの髪の毛の梳いてたのはいつ以来だろう。母さんと一緒に寝ていた頃は毎日の様にしていた。
 そして、いつの頃からか一緒に寝なくなった。
 時々一人で眠るのが怖い時があった。お母さんの所へ行きたくても中途半端なプライドが邪魔した。
 そんな自分を見て気づいたのか姉ちゃんは一緒に寝るように誘ってくれた。
 そして姉ちゃんの髪を同じように触らせてもらっていた。
「士郎君、私の事好きだよね?」
「――はい」
 今頃になって隣で寝ているはずの姉ちゃんが気になった。モカさんはぐっすり眠っているからって
 言ってたけど、結構音立てたんだから起きてもおかしくない。
 でも、いいんだよな、これで。姉弟なんだからああいった関係を続けていていい訳がない。
 それに、ただ誰かに傍にいてくれるだけで心地いい。
「士郎君の匂いって涼子と似ているんだね」
 全身がビクッと跳ねた。後ろめたい事実を突きつけられている。
「あ、シャンプーとか同じの使ってるからか」
 軽く笑いながらモカさんも同じ様にオレの髪を梳く。
 大丈夫、何も気づかれていない、知られていない。心臓の鼓動は直ぐに落ち着きを戻し始めていた。
「じゃ、私一旦帰るから――それから、またしようね」
 唇が頬に触れるだけの少しこそばゆい優しいキス。
 そういえば姉ちゃんとはこんなキスはしたことがなかった。情欲だけの貪るキスだけ――

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『モカ』

 士郎君から離れるのは名残おしいけど、別れのキスをしてから涼子の寝ている部屋へと足を向けた。
 告白に夜這いかけるなんて結構無茶な事するなあ、私も。もうちょっと普通に告白しようかなとも
 思ったけどインパクト重視でこれにした。失敗したら一生モノのトラウマになりかねなかったけど、
 まあ成功したからいいか。

 今更無意味かもしれないが、鼻歌混じりにスキップしそうになるのを抑え、ゆっくりと足音を
 殺しながら部屋に戻る。音を立てぬよう最新の注意をもってドアノブを回し、開けた。
 よし! まだ熟睡中だ。にんまり笑って出迎えられる可能性もあったが問題なし。
 睡眠不足と言って叔母から譲ってもらった睡眠薬はまだ効いている。
 いくら友達だからと言って――いや、友達だからかな。やっている最中の声とか聞かれるの恥ずかしいし。
 士郎君との事もう言っちゃおうかな。熟考――よし、このまま黙っていよう。ここまできて話すのも
 今更っぽいし。隠れて付き合うってちょっとしたスリルっぽいし。それにバレたらバレた時で別に
 大した問題ないし。
 にやけている顔を抑えながら、外がもう少し明るくなるまでもう一寝入りしようと布団に潜り込んだ。

        *        *        *
『士郎』

「テレビ見にくい?」
「……いや、別にそんな事ないですけど」
 本日、昼過ぎにモカさんが帰ってから電話で呼び出された。断るのは悪いと思ったし、
 何より今家にい辛い事もあって素直にモカさんの家に遊びに来た。
 ドアを開けてそうそう挨拶代わりに頬にキスされた。殆ど不意打ちだったから反応できずに
 ポカンとしていたらモカさんに笑われた。
 で、ビデオでも見ようって言われたからソファーに腰を下ろしたら、モカさんは子供が
 親にするように、オレの前に腰を下ろした――正直どう突っ込んだらいいかわからなかった。
 モカさんも特別何か文句言ってくる訳ではなかったのでそのまま定位置となった。
「そうそう、私達の事、涼子にもう話した?」思い出したようにモカさんが口を開いた。
「いや……まだです……」
 姉ちゃんとは会話らしい会話を随分していない。このことを話したら姉ちゃんは何て言うんだろう。
 わからない。それどころか何て言ったらいいのかすらわからない。
「そっか。じゃあもう少し黙っていようか」
「――はい」
 モカさんは無防備にオレに背中を預けながら、弱い心に言い訳をくれる。
 気がついた時には後ろからモカさんを抱きしめるように腕が回っていた。特別何をする訳でもなく、
 ただ一緒にいるだけの心地よいだけの時間。嫌なこと、後ろめたいこと全てを何処かに捨てて
 来てくれる――

 ただ、傍にいてテレビ見ているだけの状態。そんな中、モカさんがオレの手を掴み、
 ごく自然にそのまま手を胸に促す。
 ――そういう事して欲しいって事だよな。
 ここまで露骨にやられれば嫌でもわかる。
 モカさんて着やせするタイプなんだよな――そう思っていると半ば無意識に手が柔らかい感触を
 味わいたいと蠢く。その手の動きにあわせてモカさんの体全体も小さく揺れる。
「もう、士郎君エッチなんだから」ボソッと呟く。
 えっと、今はモカさんから――
「続き、ベッドでしようか――」
 その誘いに黙って頷いていた。

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『涼子』

 シロウにしては珍しく遅い時間に帰ってきた。
 夜、いつもの様にシロウの部屋に行けば布団を頭からかぶっていた。
 こいつの言いたい事はわかる。
 もうしたくない――口に出しはしない、こいつらしい消極的な態度での返事だ。
 あれだけヤリタイヤリタイって目で言ってた癖に!
 今朝のシロウとモカと様子を思い出していた。フン、そうか――シロウにとって私はその程度か。

 布団越しにシロウを二度蹴った――そんな中途半端な態度で人にわかってもらおうと思ってるのか。
 知られたくないから黙っているのか――
 分ってくれると思っているから黙っているのか――
 私を何だと思っているのか――


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