義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第12回
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        *        *        *
『涼子』

 肉のぶつかり合う音。
 自分の意思に反して出てしまう喘ぎ声。
 シロウが後ろから突き上げてくる。
 四つんばいになってケダモノの様に交わる。獣欲にまみれた私にはこれでちょうどいいのかもしれない。
 今のこいつと顔を向き合うと愛おしく思えてくる。抱きしめたい――ロクでもない考えばかり
 浮かんでくる。だから情欲だけに身を任せ気を紛らわせる。
 手が上半身を支えきれず肘が折れる。シロウの動きが一瞬止まる。早く続けろと腰の動きで促す。
 シロウのが奥深く二度叩きつける。腰の動きが早くなる。
 もうすぐ終る――

 わずかばかりの余韻を味わっている私の髪へシロウが手を伸ばしてくる。
 昔一緒に寝てたときからよく人の髪に触りたがっていた。
「触るな」
 その一言で全てが終る。そう強く言ってしまえばシロウは何も出来なくなる。
 それをわかった上で言ってやる。
 シロウは何かを言いかけて結局やめた。
 そんな辛そうな顔するぐらいなら自分から何か言え――

 突き放しながらも体を求めようとする。矛盾している。
 自覚しているからこそ、それが苛立ちをつのらせる。

 

        *        *        *
『士郎』

 モカさんが遊びに来た。今二人とも姉ちゃんの部屋にいる。
 今まで泊りに来るのは今まで何度もあった。手に持ってた荷物からして多分今日は泊りだろう。
 今日は姉ちゃんとできない、しない――いや、もうずっとしない方がいいのかもしれない。
 仮にも姉弟だ。その方がいいに決まってる。
 名残惜しくないと言えば嘘になるが、もう体の関係は終ってもいい。
 できれば前みたいに何でも感じで一緒に過ごしたい。三沢の事も含めて全部「普通」、
 現状維持でよかった、今頃になってそう思う。

 時計は十時を示していた。
 おかしい――いつもはもっと夜遅くまで二人は騒いでいる。
 誰か友達が来ている時には姉ちゃんの部屋には行かない。こっちに来て間もない頃、
 家に遊びに来た姉ちゃんの友達と話しかけようともじもじしていた所姉ちゃんに強引に追っ払われた。
 それ以来暗黙の了解となっている。
 考えたからってどうしようもない――もう寝よう。
 目を閉じてから少しばかり姉との毎晩の情事が頭を駆け巡ったが、強引に無視することに決めた。

 

 こっそりと部屋に何かが忍び込んでくる気配を感じる。そういえば今は居ないクロも夜な夜な部屋に
 忍び込んで布団にもぐりこんで来た。
 しかし今布団の中に潜り込んでこようとするのは猫のそれではなく人――女の子の感触。
 彼女の方から足を絡ませてくる。手を伸ばし。こちらから彼女を抱き寄せる。
「姉ちゃん……」
 こうして誰かと一緒に居るという事実が心を落ち着かせる。
 今の姉ちゃんにとってオレはセックスの為だけに必要な存在なのかもしれない。
 オレはそんな事よりもただずっと傍に居て欲しいだけなのに。
 今の姉ちゃんは抱き寄せようとすると拒否してくる。だからこれは夢だ。でも別に夢だっていい、
 こうして抱きしめていられるんだから。いつもより少し小さく感じる。まあいいか、夢だし――
「ブー!ハズレ」
「へ?」
 姉ちゃんの声じゃない。恐る恐る重い目を開くとやっぱり目の前に居た――豆球の黄色の光に
 照らされたモカさんが。
「駄目だよ、ベッドの上で女の子間違えちゃ。あ、トモカお姉ちゃんだったら別にいいかな?」
 薄明かりの下で二カっと笑ったモカさんの顔があった。そして彼女の指がゆっくりとオレの腹の上で
 円を描いている。
 頭が正しく現実を認識できない。ひょっとしたら夢なのかもしれない。
 しかし体はベッドの上を勝手に転がり彼女から離れようとしたら、あっさり背後の壁に後頭部をぶつけた。
 痛い。呻き声が出る。痛みのおかげで一気に意識が覚醒した。これは現実だ。
 モカさんはクスクスと笑いながら、先ほどぶつけた頭を優しく撫でてくれる。
「モカさん部屋間違えてますよ」
 彼女の方は向かずかず、背を向けたまま寝ている。
「大丈夫大丈夫、パパとママにはお友達のお家に泊るって言ってきたから」
 うん――言っている事は何一つ間違っていない。
「夜、ベッドに忍び寄るっていったら、どういう意味かわかるよね」
「いや、その……そういう関係じゃないし……」
 しどろもどろに口が動く。
 さっきまで頭を撫でてくれていた手が背中で「の」の字を書いていた。
「気づいているかもしれないけど私士郎君の事好きだよ。
 士郎君つきあっている子いないでしょ? だったら今からそういう関係になろうよ」
「あの……」
 何て返事をしたらいいのかわからない。
「ここまでやっている女の子に恥かかせないよね――」
 彼女の方から体を寄せてくる。
 鼻腔をくすぐるシャンプーと石鹸の香り。人の体温を感じていた。


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