義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第7回
[bottom]

        *        *        *
『智子』

 最近避けられている――
 それはきっと私と同じように恥ずかしがっているから、それとも何か勘違いしているから――
 そう思ってたし、そう思うようにしていた。
 でも、最近よく知らない先輩とよく一緒にいるのを見かける。
 お姉さんと思い安心した。
 でも昨日、襟首掴んで歩いてた別の人を「姉ちゃん」と言っていた。
 多分その人は士郎のお姉さんに間違いない。
 今日偶々廊下で見かけたとき名札で同じ姓だったのを確認した。
 じゃあ、あの先輩とはどういう関係なのだろう。
 仲良さそうだった。膝枕までしてもらって、多分親しい関係に違いない。
 もしお姉さんなら変な心配した、と胸を撫で下ろして終わり。でも、あの人は違う。
 ただの友達って雰囲気でもなかった――
 士郎は私が好きだから告白してくれたんだよね、私と同じ気持ちだから。
 でも、あの人は誰? 私より好きな人? 私なにか嫌われるような事でもしたのかな……

 臆病だ――
 自信がない――
 踏み出せない――
 聞けない――
 言えない――

 今、士郎は私の事どう思っているかわからない――
 そして聞くのが怖い。もし他に好きな人がいるって言われたら――

 士郎に近づくのが怖い。
 ――少し前まであんな一緒にいて、一緒にいたかったはずなのに。

        *        *        *
『士郎』

 自分の部屋でゴロゴロしている。そろそろ寝ようかどうか考える時間帯だ。
 ――今日はモカさんにされるがままだった。
 自分って何でああいう時なんで強くでられないんだろう。
 でも膝枕なんてされたの何時以来だろう。確か婆ちゃんの家にいた頃、
 婆ちゃんにしてもらったぐらいかな。
 ――いや、他にも一度だけある。
 確か小六ぐらいだったか左手の骨が折れたことがあった。
 まあ右手じゃなかったのが不幸中の幸いで日常生活には少々不便な事はあったが
 それ程困ることはなかった。
 しかし物凄く困ったことが一つ生じた――耳掻きだ。
 左手の指先までガチガチにギプスで固められていた。
 だから右手で耳掻きをつかい頑張って左耳を掻こうとするが上手くいかない。
 そんな光景を見て姉ちゃんが歯がゆく思ったらしく「かしなさい、私がやったげる!」と一言。
 嫌な予感がしたので素直に遠慮の言葉を発したが、それは意味なく「いいから、いいから」の言葉で
 頭を太ももの上に押さえつけられて力いっぱい耳掻きされた。
 左のついでに右耳も力いっぱい――

 ――嫌な予感は見事的中し、力加減なしで耳掻きしてくれたお陰で、しばらく耳が痛かった。

 そんな事を思い出していたら耳掻きしたくなってきた。
 耳掻きのあるリビングへと足を向けていた。

 リビングには姉ちゃんが寝ていた。
 それと缶の山――酒の。
 いくら親不在だからってこんなに堂々と未成年が飲むなよ。
 そう思いながらも一応は放っておけない。
「姉ちゃん、もう夏じゃないんだから、こんなところで寝ていたら風邪引くよ?」
 肩を揺さぶってみるが返事はない。
 困ったな。いくら女の子でも担いで二階まであがるのは面倒くさい。毛布とってくるか。
「――ごめん」
 なに? 姉ちゃんがオレに謝っている?
「……信じてなかった……全部……」
 しかも泣いている。こういう風に泣いている顔を見たのって初めてだ。
 でも、寝言か。
 なぜだか、そっと優しく頭を撫でてやりたくなった。
 ――でも、そんな事してて起きられたら半殺しの目に会うんだろうな。
 そんな考えが頭をよぎった為伸ばしかけた手を引っ込めた時を見計らった様に
 姉ちゃんは気だるそうに頭を動かした。
「……あんた、なんかしようとした?」ボソリと問いかけてくる。
 慌てて首を振って否定する。別にエッチなことをしようとしていた訳ではない。
 でも何故だか少し後ろめたいのものがあった。
 オレの方をつまらなさそうに見た後、ゆっくりと体を起こしていた――が動きが妖しい。
 真っ直ぐ立っていない、グネグネ揺れている。完全に酔っている。
 見ているこっちの方が不安になってくる。
 たまらず倒れかけた体を半ば無意識で受け止めていた。
 ――柔らかい体。女の体。
 最近強烈に意識し始めたそれだった。
「離しなさい――」
 こちらの僅かばかりかの下心を見透かした様な声で強がりとも警告とも取れる言葉を発していた。
「――あ、うん」
 慌てて体を離したら姉ちゃんはそのまま千鳥足でリビングを出て行った。
 怪しい動きを背後から姉ちゃんが自分の部屋に着くまで見送った。
「……何か私に言いたいことでもある?」自分の部屋のドアを開ける前、こちらには振り向かず尋ねてきた。
「――いや、別に」
 何と言いたいのだろう、本当は。

 ――もう寝よう。そう思い自分もベッドに入った。
 心にモヤモヤが残っていたが、最近あまり眠れてなかったせいか直ぐに瞼が重くなってきた。
 程よく深い眠りにはいりかけた頃、携帯から鳴る。これはメールじゃない、電話だ。
 もういいオレは寝る。そう思い携帯から発する音を無視し布団の中に潜り込んだ。

        *        *        *
『モカ』

 ふっふー、士郎君の番号ゲット! 入手手段はどうあれゲットしたことには代わりないもんねー。
 自室のベッドでゴロゴロ転げまわってみる。あー、なんか幸せ気分。
 あー、随分昔から近くにいたのに何でもっと早く気づいて、早く手をつけなかったのかな私。

 さって、何て言って電話かけようかなー。
 『ちょっと話したかったから』
 『ちょっと声聞きたかったの』
 んー、友達以上恋人未満にかけるのには凄く微妙な気がする。
 いつも友達に何気なくかけている電話に理由と呼べるようなものなんて殆どないのに
 今は凄く理由がなくちゃいけない気がする。
 さりげなく、それでいてグッとくるようなかける理由。

 『この間付き合ってくれたお礼に今度は私が付き合ってあげるけど何処がいい?』

 これだ! これだよ!
 お礼を言っているようで、ついでに週末のデートの約束も取り付けれる一石二鳥。

 恐る恐るボタンを押し、単調な呼び出し音を聞きドキドキしながら待つ。
 あー! 呼び出し音ってこんなに長いのだっけ、早く出てよ。待ち遠しい。
 足が勝手にバタつく。

 ――散々待ったが出てくれなかった。
「もう寝ちゃったのかー」
 仕方ないから私も寝ようっと。


[top] [Back][list][Next: 義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第8回]

義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第7回 inserted by FC2 system