義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第3回
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 生まれて初めての姉弟ゲンカから間もない頃だった。
 気恥ずかしさもあってか弟はまだ姉を姉と呼べずに名前を呼び捨てた。
 それに対して姉の対応は極めてシンプルだった。一発ぶん殴った後、一言「お姉ちゃんと呼びなさい」
 弟はそれに対し、その場は先ほど一方的に殴られた恐怖より素直に従う以外手はなかった。
 その後、弟のささやかな反抗と共に似たようなやりとりが数回あった後、
 いつのまにか「姉ちゃん」の呼び方が定着していた。

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『士郎』

 姉がオレの腰の上で跳ねている。
 形のよい胸が上下に揺れている。たまらず勝手に手が伸びていた。
 腰の動きに合わせて姉が鳴く。長い間ずっと一緒にいるが、
 こんな顔をしてこんな声で鳴くなんて初めて知った。
 姉の上半身が倒れこむ。唇を重ね、舌を絡ませあう。背中に手を回しより密着しようとする。
 でも腰の動きはとまらない。

 ――なんかすげえ夢を見た。いいようで悪いような凄く微妙な夢。
 ベッドを確認――よしオレ一人。
 パンツの中を確認――よし大丈夫。生理反応として立ってはいるが出てはいない。セーフ。
 しかしおかしいよなあ、姉ちゃんが下着姿で家の中うろついていても平気なのにあんな夢見るなんて。
 多分昨日の悪戯のせいだ。昨日あれから何もしかけてこない、その事が却って奇妙だった。

 ――普通、こういうのって姉ちゃんの役目じゃないかな。
 朝、出汁をとりつつ思う。
 別に当番制とかそういう訳ではない。
 母さんが留守がちだったので自分で作る習慣が出来ていたのはいいが、
 以前自分の分だけ準備してたら姉ちゃんにぶん殴られた。
 それ以来母さんが居ない時の食事当番は半ば自分の役目となっている。
 そういえば、ここんとこ落ち込んでいる間、姉ちゃんが代わりにやってくれたんだよな。
 ありがとう――って今までツケ考えたら全然割りが合わないや。

 朝の食卓で同席しててふと思う。
 ――今まで全く意識した事ないけど、こうして見ていると姉ちゃんって結構美人な方なのかもしれない。
「……私の顔なにかついてる?」
 こちらの目線に気づいたらしく問いかけてくる。
「い、いや、別に――」
 慌てて目線をそらした。
 変な悪戯されて、変な夢を見たせいだ。

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『涼子』

 そういえば、あいつと私の初めても半分酒が入った上での冗談みたいな感じからだった。
 ――まただ。思い出している。重ねている、比べようとしている。

「智香いる? ノート返しに来たんだけど」
「モカなら、さっき教室出て行ったけど。あ、席そこだから」
 そういえば、いつも昼は私と一緒にいるのにどうしたんだろう。
 昨日ちょっと怒ったりしたけど、そんな事気にしている様には見えなかったけど。

 昼が終った頃ようやくモカは帰って来ていた。
「モカ、何処行ってたの?」
「ふっふー、秘密秘密」
 何やら楽しげな顔。ひょっとして男でも出来たのかな。
「そうそう、士郎君って何か好きな映画とかある?」
 あっさり話題を切り替えられた。
「好きって言うか苦手なものなら、今はそれ程でもないけどホラーとか怪談が凄く苦手だったな」
 テレビの前で無理矢理見せたりしたらビクついて一人じゃ寝れない、とか言ってきて可愛かったな。
「うんうん」
「夏場なんか新聞で確認してから間違っても心霊番組にチャンネル合わせたりしないように
 頑張ってたから、テレビのタイマー機能使って途中で突然に心霊番組に切り替わるようにしたりしたな。
 それ以来心霊番組が裏番組にあるときはテレビ見ずにビデオとるようにしてたらから
 ビデオ録画予約を――」
 いやー、今思い出してもあいつがビデオ再生し始めた時の顔は傑作だった。
「……私、あなたの妹として生まれなかった事、天に感謝するよ」

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『モカ』

 今日も士郎君は中庭で一人でいた。
 少し頭を捻って後ろからこっそり近づいて、乱暴に頭を撫でる。
「うわっ!」
 びっくりしてる、びっくりしてる。可愛いな、この反応。
 士郎君の手元にあるサンドイッチはまだ封が切られていない。
「お昼まだでしょ? 一緒に食べよ」

 そういえば、昔から士郎君は知っていたけど、あんまり話したことはなかった。
「士郎君ってどんな趣味ある?」
「……編み物かな?」
 ちょっと考え込んだ後に言葉が出てきた。
「へー、男の子なのに珍しいね。何時頃から?」
「確か中一の冬。姉ちゃんが編んだの見て、見よう見まねでやったら姉ちゃんより上手くできたからかな。
 昔から色々と負け続けていたけど、あの時の姉ちゃんの悔しがる顔が忘れなくてね」
 そっか……ちょうどあの頃からか。

 士郎君はさっき来たメールの返信をやっているみたい。
「彼女から?」からかい半分に尋ねてみる。
「違いますよ……只の友達からです」少し辛そうな顔していた。
 あっちゃー、軽い冗談のつもりだったのにNGワード言っちゃった。
 ついこないだふられたばっかりの子に言っちゃいけない言葉だよね。
「えっと……週末空いてる?」話題をかえよう、話題を。
 少し携帯を見た後に一言「空いてますけど」
「じゃ、一緒に映画でも見に行かない?」
「いや、別に――いいですけど、何でオレがですか?」
「んー、友達と見に行く約束してたんだけど、キャンセルされちゃって急に暇になっちゃったから」
 本当はそんな事ないんだけどね。少しぐらい勿体つけた方がいいかな?

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『田中』

「――という訳だから……」
 深刻そうな顔で三沢は相談してくるが話は凄く簡単。
 告白したはいいが恥ずかしがってお互い避けているだけ。
「あんたらようやく告白したの?」
 その言葉で三沢は恥ずかしそうに俯いていた。
 こいつらひょっとしてお互いが好きなの隠しているつもりだったのだろうか。
 私はてっきりとっくに付き合っているけど皆に言い出す機会がなくて恥ずかしがって
 隠しているものとばかり思っていた。
「で、私にどうして欲しいわけ?」
「一緒に遊びに言って、ちゃんと言いたいんだけど……」
「ふんふん、自分で言い出すの怖い。代わりに私に誘ってくれと。
 で、お邪魔者達は勝手にドタキャンしろって事か」
「いや、別にそこまでは――」

 ふふん、何だかキューピットになった気分だ。
 あいつ昨日今日とはぐれメタル状態で捕まえられないから、とりあえずメールでっと。
『週末遊びに行こう』
『三沢も一緒?』
 すぐさま返事が返ってきた。
『そ、いつものメンバー』
 さあ食いついて来い、食いついて来い!
『パス、用事が出来た』
 ――わお、選択肢ミスった。

「えっと……ごめん。あいつ行けないってさ」
 多分今私凄い引き攣った顔している。

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『智子』

「うー……」
 凄くタイミング悪い。チャンスの女神には前髪しかないって本当だ。
 前世ででも何か悪いことしたのかな私。

 トボトボと一人駅へ向かう。いつもなら一緒なのに。
 少し顔を上げてみると遠くに士郎の背中が見える。何だ、まだまだツキが向いてるジャン私。
「誰、その人?」
 隣を歩いている女の人と楽しげに話している。
 うちの学校の人だ。でも私のよく知らない人。二年か三年の人。
 入学してからいつも一緒だったから士郎の知っている人なら私も知ってなきゃおかしい筈なのに――

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『士郎』

 ちょっと遊びに誘われて、一緒に帰ろう、とか言われたぐらいで期待しちゃいけないんだよな。
 うん――三沢もそうだったし。

「姉ちゃんって明日予定あるの?」
 学校では大抵姉ちゃんと一緒だった筈だから相手ってモカさんの言っていた相手って姉ちゃんなのかな。
「ないけど。どうかしたの?」
「いや別に――。なんでもない」
 考えすぎだ、考えすぎ。
「そういう、あんたはあるの?」
「――一応は」
「それは良かった」
 何故か姉ちゃんの顔は安堵した笑みを浮かべていた。
 やっぱり姉ちゃん妙に優しい気がする。いつもなら嬉々として人の傷口に塩塗りこみそうなのに。
「何が?」何が良いのかわからないから聞き返してみる。
「あんた週末に独りうじうじしてたら、また勝手に落ち込んで腐ってるでしょ」人を少し馬鹿にした口調。
 なんだ、あんまり変わってない。気のせいだ。
「うっせーな」
 ――間違っちゃいないだろうけど。

「そういえば、あんたの父さんって何してたの?」
「へ? 今、単身赴任中だろ?」
「違うって、生みの親の方」
 そういえば、そんな話今までしたことなかった。小さな頃は親の目もあってか遠慮して、
 気がついた頃には完全に忘れていた。
「――多分、農家かな……」
「多分って何よ、それ」
「小さな頃に離婚してから一度もあってないから……正直住んでた場所もよく知らない」
 五歳のとき別れてそれっきり。電話も手紙のやりとりもない。写真は殆どお母さんが処分した。
 顔も声もうまく思い出せない。
 でも、覚えている顔はある。怒鳴りつけている顔。本当は優しく頭を撫でてくれた事もあったのに、
 その時のことは随分とぼやけてしまっている。
「――姉ちゃんのお母さんは?」
「こっちは普通の主婦。それで交通事故で死別。八歳の時」姉ちゃんは天井を見上げていた。
「ふーん」
 義理の姉弟であることすら半分忘れかけていたけど、
 オレ達本当の両親は全く別で本来なら何の縁もゆかりもないんだよな――


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