義姉 〜不義理チョコ パラレル〜 第1回
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姉ちゃんと部屋で別れた事で泣き言愚痴ってたら、ちょっと話がそういう方向にいったんだよ。
んで、突然姉ちゃんが、「どうせ全部エロ本からの知識なんでしょ、童貞のくせに」
とか言い出して、俺は腹立ったから「うるさい、寝込み襲うぞ」
って怒ったら、姉ちゃんは「そんな度胸無いくせに〜」って笑ってんだよ。
ムカついたから怖がらせてやろうと思って、押し倒して両腕押さえつけたら、
驚いたような顔で俺のこと見てるんだよ。で、俺が冗談で顔を近づけたら、
「あんた覚悟できてる?」って言われて睨まれて、ちょっとヤバイかなーと思ったら、
「こ・・・こっちはできてるから・・・」って小声で囁かれて、
俺悪戯のつもりだったのに、すげードキドキして
___

        *        *        *
『士郎』

 いつもの帰り道の筈だが今日は都合よく周りには同じ学校の人間が見当たらない
 ――今隣にいる彼女を除いて。
 チャンスかもしれない。
「――なあ三沢、ちょっといいかな?」
「え、なに?」
 彼女はいつもの顔で尋ね返してくる。
 その顔を真っ直ぐ見つめていると改めて今言おうとしていることが恐ろしくなってくる。
 いや、絶対オレの事悪く思ってないはずだ。二人きりで遊びに行ったこともある。
 ――よし、友達以上恋人未満の関係を終らせるんだ。
「あのさ、前恋人いないって言っただろ……その……よかったらオレと付き合ってみないかな。
 ……いやほら、オレ達結構気が会うし」
 言ってしまった。体が熱い。立っているだけなのに苦しい。
 三沢は黙り込んでいた。長い沈黙が不安と恐怖を募らせていく。
 ヤバイ――この展開はノーなのか。
 言わなかった方がよかったかもしれない。まだ今なら冗談で済むかもしれない。
「あの……ゴメン……実は私も――」
 ゴメンて――
 そうか――
 気がついたときには走り出していた。
 背中から三沢が何か言いかけている。どうせ、『いいお友達でいましょう』
 とかそんな慰めの言葉だろ。そんなこと言われたらもっと惨めに思えてくる。
 聞きたくない、言われたくない。
 逃げるしか出来なかった。

 明日から何て顔すりゃいいんだよ――

        *        *        *
『涼子』

 私が帰ってきた時シロウの部屋には灯りが灯っていなかった。
 てっきりまだ帰ってきていないのかと思ったが、いつものように漫画を借りようと
 部屋に入ったら布団の中ですすり泣いていた。
「どうした、苛められでもした?」
 返事はなく布団の中で啜り泣くだけ。
 確かいつも一緒に遊んでいる友達は居たからクラスで孤立してるってことはないと思う。
 大体、子供じゃあるまいし、よくある泣くような事態といえば――
「ふられた?」
 返事の代わりに布団の中の泣き声が大きくなった。
 ――図星か。
「話ぐらい聞いてあげるけど?」
 返事どころか布団の中から顔すらだそうとしない。
 今日ぐらいは泣きつかれるまで放っておいた方がいいか――
 溜息を吐いて、出て行こうとすると声がした。
「……行くの?」寂しそうな声だった。
 顔も見せないくせに誰かに傍に居て欲しいか。結構我侭な奴。
「大丈夫、すぐ戻ってくるから」
 まあ月並みだが、アレしかないか。
 ――世話のかかる弟だ。

「酒。お約束だけど飲んで忘れなさい」
「……うん」

 そういえば、こいつと酒飲んだのなんて初めてだ。
 そして気づいた、こいつ結構酒強いかもしれない――
 いや失恋の思いを少しでも紛らわそうとしているのかもしれない。
 さっきからこいつは飲むかツマミ食っているか、彼女との思い出を語っているかのどれかだ。
 遠めから話しているのを見た感じじゃ、三沢って子もシロウの事悪く思ってない気がしてたんだけど。
 ――いや、直接話したことなんて一度もないから、よく知らないんだけど。
「少し飲むペース落としたら?」
 多分、このまま放っておいたら絶対急性アルコール中毒起こしそうな気がする。
「――それでさ二学期最初の席替えの時、隣の席になれなくて」
 人の忠告を無視しながら、ようやく夏の思い出編が終り、二学期編に入ったらしい。
「悪いこと言わないからさっさと忘れなさい。友達で居られるなら友達続けて、
 無理なら綺麗さっぱり縁を切る。
 まー、その辺はあんたが思っているより結構なんとかなるもんだよ」
 愚痴の垂れ流しを聞くのもさすがに飽きてきたから、ちゃんとアドバイスしておく。
「――恋人いないだろって言ったら、お前も居ないだろって……」
 また人の話無視している。
「……人の話聞いている?」
 少しカチンと来た。
 いつもなら一発ぶん殴っているところだが、さすがにこんな時ぐらい大目みなきゃいけない。
「やだよ……忘れられないよ……」
 ――また泣き出していた。
「忘れなさい。ふられた相手を想ってたからって何にもならない。傷の治り悪くするだけ」
 少しキツメに言っておく。
「やだよ……」
 泣きながらも小さな声で人の忠告に対し拒絶の意志を言葉にする。
 こいつ変なところで頑固だな。
 苛立ちが高まってくる。
 酒の回った脳がある結論をはじき出す――最終手段に出よう。

「ちょ、姉ちゃん?」
 今ベルトを外した。
「一発やって忘れなさい」
 あんたみたいなタイプは一発やれば色々変わるのよ。
 四つんばいになって逃げようとしているシロウをズボンごとパンツを引き下ろす。
「姉ちゃんヤメヤメ!酔ってるって!」
 あたりまえじゃん、こんなことシラフで出来るわけないじゃん。
 後ろから覆いかぶさり手をシロウの股間へ伸ばす。なんだちゃんと勃起してる。
 口では嫌がってても体は正直じゃん――いけない、なんかエロ親父っぽい。
 そう思いながらも手はスピードを上げる。
「ううっ!!」
 なんだ、こいつ結構可愛い顔するじゃない。
「大丈夫だって。悪いようにしないから」
 耳元でそっと息を吹きかけ囁く。
 最初がこのまま最後まで手ってのも可哀想か――
 ――そういえば忘れていた。
「あんたゴムは?」
「へ?」
 一瞬シロウの動きが止まっていた。
「コンドーム! どこ?」
「いや、あの、持ってないけど……」
「あーもう……。あんたも年頃ならちゃんと準備しておきなさい!」
 せっかく人がその気になりかけていたのに。
 苛立ちの余り一発頭をぶん殴った後、部屋を後にした。

「……助かったのか、オレ?」

        *        *        *
『モカ』

 極々普通のコンビニのバイト。
「あ、涼子」
 涼子挨拶を無視したまま棚に向い目的のものを引っつかむと、そのままレジへ向かってきた。
 何故かその背後の空間が歪んで見えるの気のせいかな?

「あのさ、さっきメールで知ったんだけど――」
 いつものようにこちらの会話に乗ることなく、涼子は無言で乱暴に手に持っていたものを叩き付けた。
 コンドームだ。
 えーと、これってあれだよね。
「新しくカレでも――」
「――レジ早くしなさい」
 声が滅茶苦茶低い。
 なんか着乱れている気がする。目も血走っている。
「普通、そういうのは男が用意しているものでしょ!」
 涼子は酒臭い息とともに隠せない苛立ちをぶつけてくる。
「そん……そ、そうだよね」
 そんな事知らないよ――そう言いかけたが言葉を飲み込んで同意した。
 怖い――気圧されている。何か下手な事言ったら噛殺される、そんな予感がしていた。
「――財布忘れた。立て替えといて、明日学校で返すから」ポケットを弄っていて、気づいたようだ。
「あ、うん……」
 返事を待たずして涼子は背を向けていた。
 なんだかよくわからないが野獣は去った。

 えーと状況から察するにカレといざコトに及ぼうとしている時になかったって事かな?
 なんか鬼気迫るって感じだったけど――

        *        *        *
『智子』

 体が熱い。告白されてから随分時間が立つというのにまだ動悸が納まらない。
 神埼――ううん、もう恋人になるから士郎って呼んでもいいんだよね。
 折角告白してくれたのに。ちゃんと聞こえたのかな私の言ったこと。
 だってしかたないよね、士郎が言うだけ言ったら走っていっちゃうんだもん。
 おかしいな、今まで何度も電話かけてきたのに指先が震えてかけられない。
 明日、学校で会ったらちゃんと言おう、ゴメンなさい、今まで言えなかったけど私も好きでしたって――

 

        *        *        *
『士郎』

 座っているはずなのにやたら大きく上半身が揺れている。
 かなりアルコールの回った脳味噌でもさっき起こったことはわかる。姉に襲われ貞操を奪われかけた。
 こういう時の為ちゃんとゴム用意しとかないとな。いや、なんか違うよ。
 とりあえず一難去った。それだけは事実だ。
「三沢――」
 愚痴る相手がいなくなった事により今日の出来事を思い出し始めていた。
 明日から友達としてでも話してくれるのかな。でもオレは友達として話せる自信がない――
 また止まっていた涙が溢れかけていた。
 寝よう。寝て全て忘れてしまおう。
 コップに残った酒を一気に喉に流し込んだ後、そのままベッドに潜り込んだ。

 

 ――気分が悪い。
 頭痛と吐き気とやたらと強い渇きで起こされた。
 布団から抜け出て部屋の中で見つけたコップの中の水を流し込む。
 ――酒じゃん、これ。
 なんでオレ、今裸なんだ――ようやく気づいた。
 熱いから脱いだのかな。

 ――なんでオレの部屋の中にオレの衣類以外に女物の下着まで混ざっているだろう。

 記憶を遡る。
 確か昨日は三沢にふられて――
 いけない、また泣きかけている。
 その後自分の部屋で泣いてて、姉ちゃんが帰って来て、酒飲まされて、愚痴ってて――
 なんか記憶がその辺から凄く曖昧だ。

 背後のベッドで誰かが寝返りをうった。さっきまでオレが寝ていたベッドでだ。
 両親とも家にいなかった。消去法ではオレ以外の人間なんて一人しかいない。
 何か凄い嫌な予感がする。予感というより推論だ。これでもかって状況証拠がそろっている――
 確認の為、恐る恐る背後を振り返るとやっぱり居た。姉ちゃんがオレのベッドに。
 姉ちゃんの服も脱ぎ散らかされているって事は――
 ――オレ、ひょっとして酔った勢いで滅茶苦茶ヤバイ事しました!?


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