幕間
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何度か試すが…手錠もベットも破壊は不可能だった。
拙いな…完全に手詰まりだ。
俺にはこれ以外に脱出の方法は思い浮かばない。
手錠を破壊するか。
ベットを破壊するか。
…俺を破壊するか。
思いついた…たった一つだけ脱出の方法が…
もう一度確認するが、手錠の輪はわりと大きい。
これなら手があと少しだけ小さければ簡単に脱出できるだろう。
あと少しだけ…小さければ。
そして…今の俺にはそのための手段がある。
正直あんまり使いたくは無かったが、他の方法を考えてる時間は無い…
それに天野の命には代えられない…
「即席秘技…手錠殺し」
 ゴキッ…
左手の親指を力任せに捻る…
身を焼くような鈍痛が走ったが、構っている暇は無い。
だが…この程度では抜け出せないようだ。
ここからは…覚悟の勝負っ!
俺は左手を慎重に触り、骨が外れた部分を探し当てる。
そしてその部分に…渾身の力で噛み付いた…

 

 …ガチャッ
少々時間が掛かってしまったが、何とか脱出に成功した。
外は既に明るく、ようやく俺は日付が変わっていた事に気づく。
左手の指が一本減ったが…その程度で使えなくなる技は全体のごく一部。
まだ戦える…英知を止められる。
英知を…止められる!?
まただ…また特大の違和感を感じた。
落ち着け、俺は特に変な事を考えていた訳じゃない。
以前の戦いの際、英知の茨は確かに脅威ではあったが、いま一つ反応速度が遅い。
立ち回り方にもよるが、俺なら大した危険を冒さずに鎮圧できる筈だ…
『英知には不撓の秘術がある、通常の方法では打倒は困難だ。
だが…英知には実戦経験が圧倒的に少ない。奇襲を用いれば、あるいは届くかもしれんな…』
これかっ!
まさしくこれは診療所を出る時に感じた違和感だった。
…待て待て。
違和感の正体はわかったが、一体これが何を意味するんだ?
兄貴が俺の実力を過小評価したのか、それとも英知の実力を過大評価したのか…
まさか英知にとんでもない切り札があるのか!?
いや、大槻との一戦はわりとギリギリだったからな…
切り札があるのならあの場で使わない理由がわからん。
考えろ…兄貴の真意を…
 ゴオオオォォォ…
…すぐ近くで火柱が上がった。
 …ドクンッ!
心臓が…嫌な音がした。
まさか…いやまさかっ!
俺はすぐさま思考を中断させ、走り出していた…

 

早く…早く英知を止めなくては…
そうじゃなきゃ…そうじゃなきゃ…
さっき感じた嫌な予感が…現実になる!!!
…見つけたっ!
思ったよりも早く英知は見つかった。
「兄上っ!何故ここに!?」
「英知いいいぃぃぃっっっ!!!」
早く…早く…
その瞬間…何かが…視界の端に現れた…
 駄目だっ!見ちゃ駄目だっ!
俺の精神が必死にそう訴える。
だが…俺の頭は一瞬でそれを理解した。
そこにいるのは全身の大半を血で染めた英知と…
今なお血を噴出させ続けている…
横たわった…天野であった…

1・その瞬間…俺の中で何かが切れた…
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