第6話 『幸せになるために(前編)』
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昔々、ある所に、小さな村が在りました。
その村には長い間日照りが続き、作物が次々と萎れていきました。
そんな時、その村に一人の巫女が現れました。
その巫女が祈れば雨が降り、巫女が踊れば作物が生き返りました。
人々は大変喜び、その巫女に感謝しました。
ところが、巫女が起こした奇跡は奇跡ではなく、陰陽術を利用した必然とも言える現象でした。
人々は怒り狂いました。
「この者は神を愚弄した」「八つ裂きにしろ」「生贄にしろ」
とうとう巫女は牢獄に入れられてしまいました。
可愛そうな巫女は処刑の日を待つばかりです。
そこに一人の武人が現れました。
武人は巫女に言いました。
「貴方ならここから逃げ出す事もできるでしょう、何故そうしないのですか?」
巫女は答えます。
「逃げる事はできても、一人も傷つけずに逃げる事はできません。
故郷の人を助けたいと願ってここに戻って来たのに、どうして村人達を傷つける事ができましょう」
武人はさらに言います。
「ここの村人は貴方に命を救われた、それなのにどうして村人によって
貴方が殺されねばならないのですか」
すると武人は剣を引き抜き、見張りを殺して言いました。
「見張りを殺したのは私です。これなら貴方は一人も傷つけずに逃げられます」
巫女は武人と共に逃げ出しました。
怒った村人は追っ手を出し、二人を追いかけました。
武人は巫女を守るために、戦い、殺し、逃げました。
そしてとうとう二人は遠い隋の国まで渡ってしまいました。
それから二人がどうなったのかは誰も知りません。
武人は、村の人々からこう呼ばれていました。
『決して折れざる者』『不撓の者』と…
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