歌わない雨 芹Side2
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 雪から電話をもらい、私は髪を拭くのもそこそこにいつもの公園に向かった。
 途中で缶珈琲を二つ買う。
 本当はあまり好きではなかったが、それを美味そうに飲む伸人の顔が好きで、つい習慣になってしまった。
 これも、伸人の趣味にあわせてしまったものの一つだ。
 伸人自身、人と好みが被るのは好きではないらしいし、私も気恥ずかしさから偶然を装っていたが、
 今では本当に好きになっている。
 煙草などがその極端な例で、本当は嫌いだったが、今では伸人以上に吸っている。
 伸人と過ごした一年間を思い出しながら歩いていたら、いつの間にか着いていたらしい。
 今日は、いつもの歌を歌っていない。
 私は、伸人が歌っている曲が一番好きだった。
 以前に題名を訊いたが、伸人自身も知らないらしい。
 ただ、中学三年の時に死んだ彼の父がよく歌っていた曲らしい。
 私はなんとなく声を掛けそびれて、無言で近付いた。
 と、突然伸人がこちらを向き、目が合った。
 なんとなく気まずくなり、
「…今日は歌っていないんだな」
 そんな言葉が口から漏れた。
「そんな日もある」
 いつもの空気だ。
 少し安心した私は、いくつか言葉を交して伸人の隣に腰を下ろす。
 そして久し振りに、たくさんの話をした。
 伸人の悲しい話を聞き、慰め、そろそろ潮時だと考える。
 どうせ、私は友達だ。
 抱き締めた腕を解こうかと考えたとき、最初は耳を疑った。
「好きだ、付き合ってくれ」
 一瞬思考が飛び、続いてやって来るのは驚喜の感情だった。
「…喜んで」
 私は、久し振りに泣いた。
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