歌わない雨 ACT9
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 契約通りに日常をすごして三日間が過ぎた。
 相も変わらず、僕の心はいつも沈んでいたし、そのくせ急に上がったり下がったり。
 緑と芹はいつも馴れ合いの喧嘩をしたり、雪はそれを笑いながらなだめたり、僕はその光景に安心したり。
 皆少し疲れているけど、それこそが僕が欲しがった日常だった。
 しかし長くは続かなかった。

 僕と緑が最後の契約をしてから四日後、恒例となったキスをしてあの人の名前を言う。
 昨日は緑の要望で泊まりだったので、セックスも起きてすぐに済ませた。
 いつも通りの筈だった。
「ねぇ」
 あの人の名前を言い終えた後、緑は僕の胸に顔を埋めて弱く呟いた。
「どうした? 胸に顔を埋めるのは僕の専売特許だぞ?」
 下らない冗談にも反応せず、そのままの体勢で数秒。
「辛いよ、悲しいよ、苦しいよ」
 泣きながら、緑は叫ぶ。
「いつまでこんな事しなくちゃいけないの」
 そこに居たのは、悪役の毒で心を擦り減らされた、策も何も無い少女だ。
 これが僕の最後の策。心を潰して余裕を減らし、普通の女の子に強制的に引き戻す。
 しかし、その姿はあまりに痛々しくて見ていられなかった。

 僕は目を閉じると緑にキスをして、強く抱き締めた。
「もう、こんなの止めないか?」
 緑からの返事は無いが、僕は言葉を続けた。
「皆、傷付きすぎた」
「…うん」
「皆、疲れすぎた」
「…うん」
 そのままの姿勢で数分、僕は緑を抱き締め、緑は泣いていた。
 そして漸く緑は顔を上げると、
「最後に聞かせて」
「うん?」
「伸人は、私のこと、好き?」
「ごめん。緑のことは好きだけど、やっぱり幼馴染みとしてしか見れない」
 再び、緑は泣きは始める。
 緑は馬鹿だ。
 そして僕も馬鹿だ。
 何が策士だ。
 何が悪役だ。
 余計な策など練らず、こんなに簡単な質問をすれば良いだけなのに。
「…振られちゃったね」
「…ごめん」
「謝る位なら、最初から振らないでよ。でも、すっきりした。これでようやく私の初恋はおしまい」
「ごめん」
「良いんだよ。だだ、もう暫くは嫉妬させて」
 そこには、普通の女の子が居た。
 そして僕は新たな決心をする。
 これから、全てに決着を付けてやる。


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