歌わない雨 Another
[bottom]

 葬儀場。
 少年の両親が泣き叫ぶその後ろで、やはり涙に顔を濡らした少女二人が居た。
「せっちん、来なかったね」
「本当に、どこで何してるんだか。あの泥棒猫」

 降り頻る雨の中、公園のベンチに座り少女は歌っていた。
 傘はあるが、少女の隣に置いてある缶珈琲と灰皿、その上に置いてある煙草に被せるように
 置いてあるので少女は濡れていた。
 そして歌っている曲は、彼女の最愛の少年が好きだった曲だ。
 少年は死んだ。
 殺した人間は少し進んだ交差点で、車に挽かれて死んだらしい。
 まぬけな話だ、と少女は心の中で毒を吐く。
 しかし、歌うのを少女は止めない。
 雨で濡れても、歌い続けた。
 雨は歌ってくれないから、自分が歌う。
 そうでもしなければ、少年があまりにもかわいそうだと少女は思った。
 暫くして歌い終え、少女は二本目の缶珈琲に口を付ける。
 そして、泣き始めた。
 雨は歌ってはくれないけれど、涙を洗い流してくれる程度には優しいのだ。
 少女は目元を乱暴に拭うと、今はもう誰も居ない、灰皿を置いている位置。
 少年がいつも座っていた場所を見つめた。
 そして空を見上げる。
「ばかやろう」

 

"The Don't Singing Rain" is END


[top] [Back][list]

歌わない雨 Another inserted by FC2 system