歌わない雨
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僕の名前は、後藤・伸人。どこにでも居る、平凡を極限まで煮詰めたような高校二年生。
 今日は妹の誕生日プレゼントを買いに街で散策中。
 丁度良いチョーカーが見付かり、レジで代金を払おうとした時、
 轟音。
 突然の物音に店の外に出ると、問答無用の光景が広がっていた。
「助けてくれー!?」
「どうなってるんだ!?」
「け、警察は!?」
「め、メイドが…メイドロボがアッ!?」
 そう、メイドが居た。正確には女性型アンドロイド。それがメイド服を模したシャープな装甲を
 身に付け、大型のビーム兵器で街を壊していた。
 数秒。
 呆気に取られていた僕と、メイドロボの目が合った。しかも、超しっかり。
「少し可愛い」
「見ツケタ、愛シイ人」
 抑揚の少ない声で告げながら、右側のビルを指差す。目を向けると、壁にはえぐれた跡で
 ハートマーク。と、その屋上に立つ二人の人影!?
「「そこまでよ(だ)!?」」
 人影はそう叫ぶと飛び下りて近くに着地、今度は何なんだ?
「また現れたな『純愛団』」
「よくも伸人に愛を向けたわね」
「「許せない!!」」
 何やらこのメイドロボの心辺りが有るらしい、(魔法少女の格好が少々厳しい)ハイティーンの女の子達。
「嫉妬のパワーでマジカルにチェンジ」
「泥棒猫が居る限り、我等の存在は揺るがない」
「「マジカル☆ツイン、只今参上!!」」
 意味の分からない言葉を叫びながら、二人はポーズをキメる。
「マタ御前達カ、マジカル☆ツイン」

「何なんだこの状況は!?」
 僕は思わず叫んでいた。それに反応して、二人が振り替える。
「あのロボは世界を純愛で征服しようとする邪悪で極悪非道な集団、『純愛団』の高起動人型兵器。
 通称『ガール』、愛と理性と常識を中途半端に持った…」
「緑、話が長い。そして私達がそれらを倒す存在、『マジカル☆ツイン』だ」
「むぅ、芹はいつもそれだ」
「うるさい、イクぞ!?」
 只でさえ付いていけない展開なのに、更に恐ろしい事が起こった。驚愕、と言うよりも恐愕。
 二人はメイドロボの武器を取りあげると、
 殴った。
 蹴った。
 暴行だ。
 更に恐怖の加速は止まらない。
「「とどめよ(だ)!!」」
 二人は何処からか武器(緑と呼ばれた方は包丁、芹と呼ばれた方はナイフ)を取り出すと、ポーズをキメた。
「「喰らえ、『フォトン★デュオ』!!!!」」
 緑の包丁の先端から発射される破壊光線、わずかに遅れてナイフからも同じものがほとばしる。
 そしてそれは僅かなタイムラグをおいて時間差で着弾。飽くまでも、合体攻撃にする気は無いらしい。
 数瞬。
 独特の間をおいて、メイドロボが粉葉微塵に弾け飛ぶ。
「嫉みと」
「妬みと」
「「愛と共に!!」」
 キメ台詞を聞きながら、意識が遠退いていく。

 

「何て夢だ」
 外を見ると、いつも通りの朝。
 僕はなるべく夢の内容を思い出さないようにしながら、着替を始めた。


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