Why Can't this be Love? 第6回
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「紅司のバカタレ……」
 飲みほし空になったマグカップを両手にしながら私は呟いた。
 いや、紅司が悪いんじゃない。 今回のは私も急きすぎたのかも。 今回はコレで良しとしておこうか。
 紅司の性格からして断わりはしたものの、気になって待ち合わせ場所に伺いに来る事は予想が出来た。
 雨に関しては全く予想できてたわけではない。
 少なくとも最初に誘ったあの日には分からなかったから。
 出しなに見た天気予報でも降るとは言っていたが、朝方晴れていたのがこうも見事に降るとまでは
 予想してなかった。
「お姫様抱っこ……してくれたんだよね。 えへへ……」
 思い出すと頬が自然と緩む。 雨で冷え切った体にはより一層紅司の温もりが暖かく感じられた。
 ウチに付いて部屋に入ったところまでは出来すぎてるぐらい『こうなったら良いな』と
 思うとおりにことが運んでくれた。 でも……
「流石に何もかも思い通りとは行かないか」
 まぁ良い。 欲張りすぎて取り返しがつかなくなっては元も子もないしね。
 それに、今回は紅司に私の『女』を十分印象付ける事ができた。 

 そして翌日。 体調は良好。 昨日ずぶ濡れになっちゃったけどあの後温かくして栄養とって
 シッカリ寝たからすっかり全快。 天気も昨日の雨が嘘みたいなほど快晴でイイ気分。
 前方を見れば、お、紅司を発見。
「おっはよ〜紅司」
 私が声を掛けると振り向いた紅司はどこかまだ寝ぼけたような、不機嫌なような顔をしてた。
「あ、ああ。 おはよう」
 何となく睡眠不足っぽく見えるけど、若しかして昨日の私の事気にしてくれてるのかな。
 やっぱり未だ私の事が気になって未練を感じてくれてるってことなのかな。
「昨日はゴメンねー。 雨の中わざわざ家まで運んでもらっちゃってサ」
「其の調子だともうすっかり大丈夫みたいだな」
「ウン、昨日シッカリ寝たからバッチリ全快!」
 そして私はウインクしてVサインをして見せた。 そんな私を見て紅司はホっとしたような
 戸惑ってるような顔を見せる。
 やっぱり昨日の事気になってるみたいね。
 直後前方数メートルの所にお下げ髪の見知った背中を発見。 藤村さんだ。
 隣の紅司を見れば、何となく声をかけずらそうな顔をしてる。 隣に私がいるせいかな? ふーん……。
 私は藤村さんのもとへ駆け寄り挨拶する。
「藤村さんおはよう」
「あ、おはようございます白波さん」
 藤村さんは振り向いて挨拶を返してくれた。 そして後ろにいる紅司にも気が付いたみたいだ。
「紅司クンもおはよう」
 そして紅司も挨拶を返す。
「あぁ、おはよう」

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 一体コレはどうしたことだ? 俺は最近の身の回りの状況に少々混乱を憶えている。
 現在昼飯時。 テーブルを寄せて弁当を広げているのは俺と美嬉と……そして何故か夕子も一緒にいる。
 いや、夕子と一緒の昼メシ自体は幼馴染として小学校の頃からずっと、それこそクラスが違う時でも
 どちらかがもう片方の教室に弁当を持ってって一緒に喰ってたりした。
 だが俺が美嬉と付き合うようになってからはそう言う事はなくなっていたんだが……。
 それが何でこう言う事になっているんだ?
 既にこの状況になって数日が過ぎ、美嬉も夕子も和気藹々と食事を楽しんでいる。

「わぁ、コレとっても美味しい」
「でしょ? 紅司もコレ好きなんだ。 良かったら今度作り方教えてあげよっか?」
「本当? ありがとう白波さん」

 こんな具合である。
 万事平和で良い事な筈なんだけど、なんか胸がざわざわする。
 こんな状況が成立してるのは、美嬉が夕子の事を信頼してると言うか警戒してないと言うか
 そんな状態だからだ。 美嬉は夕子と俺の幼馴染と言う関係を完全に兄弟姉妹みたいなものだと
 信じ切っているから。
 だが、実際にはそれは大きく違っていて、夕子の俺に対する思いは完全に恋愛感情のそれだ。
 そして俺の夕子に対するものもそれに近いのだが……。
 いや、一応言っておくが二股じゃないと思うぞ。 確かに未練が無いと否定しきれないが、
 一応夕子には美嬉と別かれるつもりもないし今更付き合えんと言ってあるし、
 幼馴染以上の付き合いはしてない……筈……。

 何て言うか夕子の考えてる事が読めん。 
 そんなこんなで傍目には穏やかだが、どうにも俺の心中は落ち着かない。
 そんな風に俺たちの日常は過ぎていった。

 そして更に数日経過。
 俺の心中とは裏腹に相変らず夕子と美嬉は仲良くやっている。
 至って平和で最近では俺の考えすぎなんじゃないかと思えてきたりもするのだが……。
 そんな二人の間で最近話題に上る事が多いのはファッションとかお化粧の事。
 まぁ、女の子なんだからそう言う話題で盛り上がるのは当然と言えば当然か。
 それにしても改めて思い知らされたのは女は化ける。 昔っから言い古された言葉だが、
 改めて目の当たりにすると驚かされる。
 特に顕著だったのは夕子だ。 美嬉も当然美人で可愛いのだが元から淑やかで女らしかったのに対し、
 夕子は、まぁ可愛くはあったがお転婆で女らしさに欠けるところもあった。
 それがどうだ。 髪型、化粧、ファッション。 そうしたことを意識しだした途端驚くほど綺麗に、
 女らしくなっていく。
 そんな姿に俺は魅入られつつも同時にどこか怖さも感じる。

 そう言えば魅了の『魅』って字には『鬼』の字が入っているっけ……。


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