Why Can't this be Love? 第1回
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 何時からだろう、俺――吉田紅司(よしだこうじ)が、
 あいつ―白波夕子(しらなみゆうこ)のことをこんなにも意識するようになったのは。
 物心ついたときから幼馴染で、喧嘩したりじゃれあったり男とか女とか意識せずただ楽しかった。
 誰よりも、他のどんな男友達より気を置けない仲。
 そして何時しかそれは友情から恋心に変わっていた。
 快活な性格も、跳んだり跳ねたりするたびに揺れるツインテールも、
 少し小振りの胸も全てが愛しくてたまらなかった。
 でも言えなかった。 言った途端この関係が壊れてしまいそうで怖くて。
 この関係が壊れるくらいなら幼馴染のままでいいと。

 だがそんな関係が終りを告げようとする出来事が起こった。
 単刀直入に言うと女の子に告られた。
 相手はクラスメイトの藤村美嬉(ふじむらみき)。
 酷く内気で影の薄いコだったが、三つ編みが良く似合う可愛いコだったから名前だけは覚えてはいた。
 でも、それ以上は知らないコだった。
 いや、たった一回だけ話した事がある。 駅で困ってる所を声をかけたのだった。
 切符を無くしてしまい困っていた所を助けてあげたんだっけ。
 律儀な事にその事をずっと恩義に感じてくれて、何時しか其の気持が俺への好意に変わってたらしい。

 だがそんな告白の一部始終を夕子に見られた。
 そして見られた事以上に夕子が言った台詞は俺にとってショックなものだった。
「おめでとう!コレであんたも彼女居ない歴にピリオド打てるね。
 折角こんな良いコが勇気振り絞って告白してくれたんだから裏切っちゃ駄目だよ。
 あ、コイツ一見パッとしないけどコレで結構優しかったりイイヤツだからヨロシクね」
 目の前が一瞬真っ暗になった。
 実は目撃された瞬間、見られた事に狼狽すると共に夕子の本心を知れるチャンスじゃないかなんて
 思ったりもしたから。
 若しココで夕子も狼狽したり或いは嫉妬の表情でも見せれば、それは自分にも脈があると言う証拠だから。
 でもそんな幻想は粉々に砕け散った。
 一瞬、違う、そんな気持は無い、と。
 俺が好きなのは夕子、オマエだけだと。 そう言おうと思った。
 が、
「おう、オマエも早く彼氏作れよ」
 出てきた言葉は心にも無い正反対の言葉だった
 見栄を張ってしまった。 醜く言い訳する所なんか見せたくないと思ってしまった。
 好きな娘の前だからカッコつけたいと思ってしまったから……。 自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。

 そして立ち去る夕子の背中を見送り姿が見えなくなると、
 俺の内には藤村に対する怒りが込み上げて来た。
 完全な逆恨みだ。 だが藤村の顔を見た瞬間そんな気持も吹き飛んだ。 泣いていた。
 一瞬自分の心の内を見透かされたかと思いうろたえた。 だが違った。
 嬉しくて幸せで思わず涙が溢れてしまったんだと。
 胸が痛んだ。 俺の身勝手な感情と裏腹に藤村の真っ直ぐさに。
 そしてそんな藤村を可愛いと思った。 気が付くと無意識に手が伸び抱きしめていた。
 俺は自分の身勝手さを恥じた。
 夕子が俺のことを友達としか思ってなかった事にこの娘は何の関係も無いのに。
 むしろ知りたかったあいつの気持を知れたんだ。
 下手に告白すれば友達の関係すら終わってたかもしれない、
 そうならずに済んだんだからむしろ結果的に良かったじゃないか。

 そして俺と藤村との付き合いが始まった。 最初は成り行き上で仕方なく、そんな思いであった。
 趣味も好みもまるで違うのだらけでこんなので上手くやっていけるかと心配に思った事もあった。
 だがそんな心配は徐々に消えていった。
 藤村は――いや、美嬉はいつも俺の話に真摯に耳を傾けてくれた。 そして一生懸命合わせてくれた。
 一途で真剣でそんな姿に次第に惹かれていった。

   X    X    X    X 

「どうしてあんな事言っちゃったんだろ」 
 あのあと家に帰った私は激しく後悔し、自己嫌悪に陥っていた。
 紅司を探しに行ったら女の子から告白を受けていて、しかもとっても可愛いい娘で。
 あんな事を言ってしまったのは怖かったから。
 紅司の口から、このコと付き合うことにしたよ、そんな言葉を聞くのが。
 だって其の娘、女として自分よりはるかに魅力的に見えたから。
 がさつな自分と違ってしとやかな物腰も,愛らしい顔立ちも。
 だから自分で自分に引導を渡した。 大好きなヒトから其の言葉を聞くくらいなら、と。
 そして今、自分の部屋で一人泣いていた。 泣いて泣いて泣き腫らして、それでも気持は晴れなかった。
 そんな次の日、告白を受けた。 相手は一つ年上の先輩。
 比較的見知っており、クラスの女子からの人気も高いヒト。
 でも私にとっては只の一先輩に過ぎないヒト。
 だが客観的に改めて見れば確かにそれなりに魅力的だし知らない相手じゃないし。
 誰かと付き合えばこの辛い気持も紛れるかもしれない。 そう思って告白をOKした。

 だがそんな気持で付き合ったって上手くは行かないのは目に見えてた。
 何かある度に心の中で紅司と比べてしまう。 そしてそんな気持が関係をギクシャクさせ結局破局。
 別かれる事にショックは無かった。 大して好きでもなかったのだから当然と言えば当然だ。 

「そうか、お前やっぱり未だ吉田の事が」
「ごめんなさい先輩」
 ショックは無いけどやっぱり罪悪感はある。
「実はずっと黙ってたんだが昔、吉田に相談を受けた事があったんだ。
 オマエに告白しようかどうか迷ってる、って。
 勿論その時俺もお前を狙ってたから止めさせたんだけどな。
 こんな事になるくらいならあの時アイツのの背中押してやりゃ良かったかな」
 其の言葉に思わず愕然となった。
「そんな……紅司が。 でも今更もう遅いよ。 だって紅司にはもう彼女が……」
「そうやって諦めるのは未だ早いかもしれないぜ。 俺たちだって上手く行かなかったんだ。
 あいつだって上手く行ってないんじゃ無ぇのか?」
「そ、そんな都合のいい話……」
 ある訳ない。 そう言おうとしたが言葉が続かない。
 だって本心ではそうであればどんなに良いだろうと思ってたから。
「いや、実際愚痴ってたぞ。 女と付き合うのがこんなに疲れるものだと思わなかった、って。
 同じ女でもお前と会ってるときは気楽で楽しかったって」
「で、でも今更……」
「俺とオマエはもう恋人同士じゃ無くなっちまった。
 でもな、大事な後輩である事には変わりないんだ。 だから幸せになって欲しいんだ」
 そう言って先輩は背中を押してくれた。
「ごめんなさい。 アタシ先輩の事傷つけたのに、それなのに……」
 皮肉なものだ。 今までにないほど先輩の優しさが身に染みる。
 たった今別かれ、しかも他の男へ思いを打ち明けようとしてるこんな時に。
「がんばれよ」
 そう言ってくれた先輩の笑顔に勇気付けられる。
 そして私はそんな先輩の笑顔に見送られ走り出していた。


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