翌日、わたしの体温は39度を超えるほどにまで上がっていた。
あまりの高熱にお兄ちゃんがわたしの看病をすることになり、今、学校に電話をかけている。
本来なら、お母さんが家に残るところだが、仕事の関係上どうしても休めないらしい。
……でも、これでよかった。
お兄ちゃんをひとり占め出来るから……。
ボンヤリと見慣れた天井が浮かび上がってくる。
薬のおかげでずいぶんと長い時間眠っていたみたい。
恐らく、もう深夜だろう。
熱はお兄ちゃんの看病のおかげか大分下がった。
この調子なら、明日は無理でも明後日には学校に行けるようになるだろう。
ふふふ、それにしても今日は最高の一日だったなぁ。
今日の出来事を思い出すだけで、顔がついニヤついてしまう。
お兄ちゃんが、学校のヒーローであるお兄ちゃんがわたしのためだけに動いてくれた。
病院まで支えてもらったり、おかゆを食べさせてもらったり、わたしが寝るまで手を握ってもらったり……。
お兄ちゃんはわたしに、風邪のおかげの特別に濃くて甘いジュースを与えてくれたのだ。
こんな日が毎日続いて欲しい、毎日このジュースが飲みたい………。
しかし熱が下がり、少し冷静になった頭はその可能性を否定する。
無理……。もう熱は下がっちゃった。
今日のことは、わたしがひどい熱をだしてたから。
それに、きっとお兄ちゃんは明日学校へ行ってしまう。
そしたら、円香さんはわたしがいないのをいいことにお兄ちゃんと……?
最悪の夢想が頭をかすめる。
嫌っ!!!
そんなの、駄目……だよ。
どうしようどうしようどうしようどうしよう?
わたしはほとんど泣きそうになりながら答えを探した。
答えはとても簡単だった。
わたしは携帯で時間を確認し、ふらつく足でお風呂場へと向かっていった。
熱が下がったならまた上げればいい。
脱衣所で服を脱ぎ、お風呂場に入る。
お風呂場はまだ前に入った人の熱気が残っていた。
しかし、今はこの熱気も邪魔なだけだ。
わたしはシャワーを冷水に設定し、蛇口を回した。
勢いよく冷たい水がわたしにふりかかる。
わたしは、念入りに冷水シャワーを浴びた。
それこそ、足の先から髪の毛一本まで……。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。
息が白くなってきた。
そ、そろそろいいかな。
わたしは十分ほどシャワーを浴びた後、静かに脱衣所に引き返す。
お風呂場にさっきの熱気は全く残っていなかった。
頭がわれそうに痛い。
裸のままふと鏡を見ると、顔面蒼白のわたしが写っていた。
その顔色からは明らかに正常な状態でないことが読み取れる。
ひとまずこれでよし、と。
わたしは体をタオルで軽くふき、自分の部屋へと戻っていった。
部屋までの距離が果てしなく長く感じる。
それでも、頑張ってなんとか部屋までたどり着き、自分の布団にもぐり込んだ。
わたしは布団のなかで、確実に風邪が悪化するのを感じる。
ふふふ、これで、きっとまたお兄ちゃんが……。
わたしは意識を失った。
意識を失う寸前、なぜか悲しそうなお兄ちゃんの顔が頭にうかんだような気がした。