もし、神様がいるのなら……。 外伝 『星を見てれば』 第18回
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"茜、最近、俺の部屋に入った?"

……え?
あの日、お兄ちゃんと腕をくんで帰ってから二日後の朝、いきなりお兄ちゃんがわたしに尋ねてきた。
何か少し怒った感じ……。
どうしたんだろう?

わたしはひとまずお兄ちゃんの質問に答える。
"入って、ないよ"
わたしには以前、お兄ちゃんの部屋に勝手に入り、お兄ちゃんが大事にしてた
日本代表の加地のユニフォームを破いてしまい小一時間泣きながら説教された苦すぎる思い出がある。
それ以来、わたしはお兄ちゃんの許可なしでお兄ちゃんの部屋に入った事はない。

 

その話はおいといて、お兄ちゃんの少し怒った感じの態度が気になったわたしは、逆に質問してみた。
"どうか、したの?"
お兄ちゃんは少し怪訝な顔をしたが、すぐにフッと笑い、
"いや、何でもない。きっと、気のせいだ"
と答えた。
その顔からは怒りの色はすっかり消え、もう、いつもの優しいお兄ちゃんに戻っていた。

 

支度をととのえ、普段通り、わたしはお兄ちゃんと一緒に学校へ向かう。

学校に着き、下駄箱でうわばきに履き替えようとしたところで、
わたしはうわばきの上にちょこんとのっているあるモノに気付いた。

……こ、これは、もしかして……ら、ラブレター……?

あまりの衝撃的な出来事に、わたしは時が止まったかのように、下駄箱の前から動けなくなった。

しばらく動けずにいると、後ろにいたお兄ちゃんが不思議そうな顔でわたしをのぞきこんでくる。

わたしはお兄ちゃんの視線に気付き、大いに慌てたが、なんとか笑顔でごまかし、
急いでラブレターとおぼしきモノをカバンにつめこんだ。

なぜか、それをお兄ちゃんに見られたくなかった。

 

放課後、わたしは一人屋上への階段を登っていた。

 

今朝、下駄箱に入っていた手紙はやっぱりラブレターだった。
誰にも見付からないようにトイレの個室で何度も確認したから間違いない。
だけど、そのラブレターの内容はわたしが想像してたモノよりもかなり短い内容で
「放課後、屋上に来てください。伝えたい事があります」
としか書いてなかった。もちろん差出人の名前もない。

ただ男の子にしては、丸っこいかわいい字で書かれていた事がひどく印象的だった。

 

 

屋上の扉を開けると、強い風がわたしを吹き抜けていく。
……寒く、なってきたなぁ。
少し肌寒い風に、秋の気配を感じる。

わたしは風に誘われたかのように、ゆっくりと屋上を歩き出した。

 

……あれっ?

どうやら、屋上には先客がいるみたい。
わたしと同じ制服のキレイな女の人……。

あの人は………知ってる。

名前は高山 円香さん。
わたしの一個上で、お兄ちゃんと同い年。
そして、わたしと同じ、数少ない耳の聞こえない障害児。

わたしが円香さんの方に歩を進めると、円香さんもわたしに気付いたようで、にっこりと笑いかけてきた。
女のわたしでも思わずドキッとしてしまう天使のような笑顔で……。

相変わらずキレイな人だなぁ……。

わたしは、自分と円香さんの体を比べて思わず溜め息をつく。
スタイルもわたしのぺったんこな体とは対照的……。うらやましいなぁ。

 

 

…………それにしても、円香さんはどうしてこんな時間にこんな場所にいるんだろ?


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