広き檻の中で 番外編 『この子どこの子?』 番外編5話
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朝食。
「もぐもぐ……おかわり。」
「わぁ、おにいちゃんたくさんたべるねぇ。」
「ふふん、減った分余計に入るからね。」
そう言って志穂を見る。何食わぬ顔で飯をよそっていた。くっ!
前の志穂だったら恥ずかしがる顔をするはずなのに……パ、パワーアップしているだと!?
「はい、晋也……ああ、それと……今日学校はどうするの?」
「ん?どうって普通に……ああ、そかそか。」
ナミちゃんを置いて学校には行けないな。さて、どうするか。預けられる知り合いもいないし。
今から託児所に行くっていうのも時間ないし。
「どうするよ?」
質問に質問で答える。こんなことすると某獣に怒られそうだ。
「それだったら私にまかしといて。春校に連れて行くから。」
「連れてくって……大丈夫なん?」
「うん。あてはあるから。」
「えー。私おにいちゃんといっしょにいたいぃ。」
二人の会話を聞いていたナミちゃんが、急に甘えたように抱き付いてくる。
嗚呼、可愛いなぁ。ってか懐かれてるなぁ。
………は、犯罪に走るようなことはしないよ?僕は?

ナミちゃんをぎゅっと抱いてみる。どうしてまぁ、女の子ってこう柔らかくて暖かくて
気持ちいいんだろうか。晋也七不思議のうちの一つだよ。
「おー、よしよし。うーん……やっぱり可愛いなぁ。そうだね、
おにいちゃんといっしょに夏校に………」
ザクッ
「うっ!」
水面下……否、机下では惨劇が起こっていた。……ふ、フォークがあ、足にぃ………
「ん…おにいちゃん、きついよ。」
あまりの激痛にナミちゃんを強く抱き締め過ぎたらしい。イヤイヤと腕から逃げようとする。
ごめん………黒炎をまとった志穂によって恐怖が止まらないんだ。
「や、やっぱり春校に連れてってくださひ。ナミちゃんも……ね?」
ここは大人の事情。いいかいナミちゃん。人は選択し一つでデットエンドにも直行できるんだよ。
……ていうか志穂、ナミちゃんみたいな子供相手に嫉妬するなヨ!
「うん……わかった……ボソ…なんだかおねーちゃん怖いよ……」
ああ、このオーラは無垢な幼女にまで届くのか。なんと奇怪。なんと脅威。
そのうちこのオーラで人殺しまでできるんじゃないかと思って来た。

バーン!
「ほら、先輩!学校にいく時間ですよ!いざ、私達の愛の巣へゆかん!」
ちっ、現れやがったな。空気読み人知らずめ。
「おい春華よ。どうしてお前はいつもここ一番って時にそういう強引な登場をするんだ?」
「はっ、こうでもしないと、先輩に私の存在を忘れられてしまうのでは?
というぐらい志穂先輩とバカップルしているからです。まあ、学校では私と先輩で
バカップルしてますがねぇ。」
そう言って俺の背中越しに志穂を挑発するように見る。わかる……私にもわかるぞ!
〇ラァ!後ろに……黒い竜巻が渦巻いているのが!そんな俺ニュータイ……
グサァッ!
「ひぐっ!」
再び不吉な効果音。春華には影になって見えてないようだが、
俺のお尻に……フォークがささった……まるでダーツの如く飛来したそれは、
食いつくように突き刺さっている。
お尻にフォーク……そんな歌があったような。
「うわぁ、おにいちゃんいたそう。ぬいてあげるね。」
ズボ!
「!!?!??!」
声にならない悲鳴が喉から漏れる。な、ナミちゃん!急に抜くと目茶苦茶痛いんだよ!
その激痛に絶えるがため、全身を打ち震わし、悶絶した。

「せんぱーい。そんなところで悶絶してると、遅刻しちゃいますよー。」
「いいのよ。こんな変態ほっとけば。いきましょ、ナミちゃん。」
「は、春華!助け……」
「すみません、先輩!私の脳が瞬時的に遅刻or先輩を天秤にかけたら圧倒的に前者が有利です。
はい、私も前期の成績がピンチなんで、アデューです!」
「おぁあああああ!?」








「で?笹原。なんで遅刻した?」
「おけつが痛いからです。」
「………なんで授業中なのに突っ立ったままなんだ?」
「おけつが痛いからです。」
「お、お前は先生を馬鹿にしてるのか!?」
「いやぁー、いつもなら、はい馬鹿にしてます。ってこたえるんですけどね。
今日はヒサビサに本気です。ええ。おけつが痛いからです。」
「……なにかあったのか?」
「……掘られました」
「「「「アッーー!」」」」
このクラス全員の叫びは、春華のクラスまで聞こえたという、伝説となった。
そして俺がゲイだという噂も伝説に………う、嘘はついてないヨ!本当に掘られたんだヨ!?

昼休み
「んまーい!やっぱり食堂の水は違うね。」
財布の紐を志穂に握られてるため、ろくにお金がない俺は今日も昼飯抜き。
そんなふうにたそがれていると……
「せんぱーい!た、た、大変です!」
「やぁ、裏切り者。」
「うっ。」
「ん?なにが大変なんだい?寝返り者?」
「うぅぅ……」
「ほら、話してみなよ。明智光秀。」
「う゛〜〜〜……奢りますよぅ…」
「♪」
カレーを貪りながら、春華の話しな耳を傾ける。
「そうそう、カレーなんて食べてる暇にいですよ。」
こやつ……さっきの会話を全否定しやがって……
「さっき春校の友達から電話で聞いたんですけどね………」
「ふむ…んぐ…」
「志穂先輩、ナミちゃんを自分と先輩の子供だって言ってまわってるそうですよ。」
「んぐっはっ!」
「せ、先輩!水、水!」
「んー!……んく…ぷあ、な、ナンダッテー?!」
「ええ、本当です。それで『晋也ファンクラブ』を牽制してるらしいですよ。
いや、壊滅にまで追い込むつもりで……」
くっ、様子が変だと思ったら、そんなことまで始めやがりましたか。こうなったら……
少しおしおきが必要のようですねぇ。
「春華……耳を貸せ。」
「はい!わくわく、わくわく………」
ふふふ…みてろよ、志穂め……お前がイニシアチブを取れると思うなぞ、百年早いわい!


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