走った。とにかく走った。以外にも春華の足が早く、なかなか追いつかない。
ただでさえ病み上がり直後だってのに。
「ま、まてって!春華!」
気付かなかったが、外はもう暗く、雨がフっていた。びしょ濡れだろうと構わん。裸足だろうと気にしない。
このまま逃げ切られたら、嫌な予感がする。だから疲れも無視、痛みも無視。
「いや!追って来ないでください!もう、いや……いやなんです!」
罵倒されようが構わない。追いついてやる。
それから数分走り、たどり着いた場所、そこは………
「春華……」
春華は線路の真ん中に立って居た。
「もう……いいんです。晋也さんがいない世界なんて、無意味です。振り向いてくれなくちゃ
駄目なんです……」
「そんなこと……」
「どうしても……絶対あの女が良いって言うんですか!?」
「ああ…」
しっかりと首を振る。
「あいつだけは、悲しませられないんだ。昔、約束したんだよ。」
「そんな……私は、私はいつまでも、晋也さんにとって後輩でしかないんですか?
それいじょうは……認められないんですか!?」
ダメだ。だめなんだ。……あの娘との約束だから、俺は志穂しか愛せないから。
「やめろ……戻ってこいよ。」
でも、春華は大切な人なわけで。大切な………
「嫌なんです……自分の願いがかなわないなんて……」
遠くから電車の走る音が聞こえる。春華は動こうとしない。
「春華!!」
ダメだ。あきらめるな。
『後悔しない様にしてくださいね。』
はるか昔に言われた様な言葉が思い出される。もう片方だけ、自分が良いと思う方だけだなんて嫌だ。
俺は……わがままなんだよ!!
「はるかぁ!!」
「私が死ぬのを…見てくださいね。」
電車のライトに照らされる春華。一歩、また一歩、春華に近付く。とどけ!間に合え!!
「うおぁぁぁぁ!!!!!」
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「…晋也さん?」
俺は泣いていた。線路から外れたところで押し倒す形で抱き締めていた。
「間に…あった…」
「なんで……なんでたすけたんですか?……余計つらくなるだけなのに。」
「馬鹿野郎!!」
春華の体がビクッと一瞬堅くなる。いきなり叫ばれて驚いたようだ。
「俺は…お前が居なくなって欲しいなんて思わないよ。何時もみたいに馬鹿やって……笑って……
そんな生活がいいんだ……心地良いんだよ。」
「……うぐ…ひっく…」
春華の目からも涙が溢れる。雨とは違う、きれいな涙が。
「…俺にとって、お前は後輩だ……でも、誰よりも大切な後輩なんだ………それに、
俺を『せんぱい』って呼んでいいのもお前だけなんだよ………」
「うぅ……せん……ぱい……ひくっ」
とても懐かしい様な響き。『せんぱい』。これが俺だ。
「せんぱい…せんぱい!」
何度も叫びながら、力強く抱き締められる。それに答えるように、もう逃がさない様に、
俺も力強く抱き返した……
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「せんぱい?」
「ん?」
帰り道。二人でずぶ濡れになりながら、志穂の所まで戻る途中。
「あの、その…最後に、わがままというか、お願いがあるんですけど……」
「おう!言ってみな。出来る限りの事はするぜ!」
ビシッと指を立てる。
「あのじゃ、じゃあ、私の……私の処女をもらってください!」
「へあ?」
予想外のことに困惑。
「せんぱいに処女をいただいてもらえば、私死ぬまで貞操を守り切れる自信があります。
うーん、けっなげ〜」
「……前向きに善処します。」
「あ、政治家的発言は禁止ですよ。」
「うーん、それは俺の一存で決められないからなぁ………」
「却下。」
志穂の答えは速攻だった。
「ええ!?た、頼むって!そうすれば、後腐れなく解決なんだよ!」
「あ、あんたねぇ、あんな目にあっといて、それはないでしょ?私が許すと思う?
他の女とHを認めるほど、放任しないわよ。」
くっ!やはり志穂の壁は厚かった。春華と土下座してみたものの、一向に良い返事は貰えない。
男と女が土下座し、こんな事を頼む構図は、ハタからみればかなり滑稽だが……しかたない、
こうなりゃ最終兵器……この鉄壁、崩してみせる!
すっと近寄り、志穂の耳元で呟く。
「…………」
ボッ、と音が聞こえるぐらいに、急に志穂の顔が湯で上がる。…勝機はみえた!
「な?悪くはないと思うぜ?」
「うぅぅ〜。ひ、卑怯よぉ……」
下を俯きながらぶつぶつ言っている。そして……
「わかったわよ……OK。ただし、これっきりだけよ。それに……私も、えっど……同伴した、
3Pなら……」
「(^∀^)」
「うわ、露骨に嬉しそうな顔したわね……」
「ありがとうございます!志穂先輩。伊達に胸は小さくないですね!」
「胸は関係……きゃぁ!」
喧嘩しそうな二人をヒョイと抱き上げ、颯爽とベットに向かった。