広き檻の中で mixture world mixture worldU9
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そのまま部屋にもどり、ベットに倒れる。
「はぁ…」
やたらと疲れたきがする。春華の一件についてだ。パソコンをみて身構えてはいたが、
まさかあんなふうにストレートに言われるとは思わなかった。
烏丸春華……夏校一年生、共に帰宅部に所属。別に恋愛感情を持って接するつもりじゃなかった。
良き先輩として、だった。
三年間。時間は短いんだ。一人や二人と仲良くしたっていいじゃない。
ただ、春華の感情と俺の感情は同一ではなく、制御はできない訳で。
そこが人付き合いとして難しいところ。
「やんなっちゃうよ。」
俺も男で在る限り、春華を女として意識的にみてしまう。言葉遣い、匂い、仕草、容姿………
言葉に出せば即変態扱いされる目でみてしまう。まあ、それは春華だけでなく志穂にも当てはまるわけだ。
「そういや……」
そんな事を考えていたせいか、志穂の声が聞きたくなった。安心を得たかった。
自分が志穂を好きだということを確認するために。
「電話するか。」
それから二時間程志穂と話したが、春華のことは黙っていた。言っても解決する訳じゃあるまい。
やったら気怠いため、電話を終えたら即寝てしまった。

翌朝

「んぐあ……ああ?」
体が重い。節々が痛い。吐き気がする。目眩もある。なんて最悪な体調だ。風邪でもひいたか。
「いかんいかん、ただでさえ出席日数がやばいってのに休んでられるか。」
死んだような体を引きずり、寝転がりながら着替える。うーん…まじでやばいなぁ。
芋虫のように這いずりながら、朝食を用意して食べる。
ぶっちゃけ食欲はないが、ジュースで流し込むように食べる。
「うぇ…」
適当に風邪薬を飲み、いざ出陣!気を奮い立たせ、ドアを開ける………と。
「おはようございます、晋也さん。」
……春華がいた。いつものテンションとは違い、とても静かに、お淑やかに。
「ど、どうしたんですか?顔色悪いですよ?」
「…いや、ちょっと調子が悪いだけだ。」
ちょっとではなく、かなり、だが。それに加え、春華の様子がおかしい事を不思議に感じていた。
「肩貸しますよ。ほら、掴まってください。」
言われるままに寄り掛かる。昨日の気まずさを考えたが、それ以前に体調は最悪だ。春華に近付くと、
また女の子らしい匂いがして、緊張した。
そのまま寄り掛かり登校。なんかまるで……これじゃあ恋人みたいじゃないか!

「やっぱり、彼女としては、晋也さんをたすけてあげないとね?」
「は?」
考えが飛んだ。なんの脈絡のない言葉に。
「だれが?誰の?」
「私が、晋也さんの、彼女です。」
……いかん、完全に妄想に入ってる。昨日のショックのあまり、別人格でもできてるのか………
「です…ら…私…以外は…有り得……んよ。」
なにやらぶつぶつ呟いている。もう、怖いヨ!目が完全に逝っちゃってるヨ!
「ですから、今日晋也さんの家に、看病しに行きますからね。」
「い、いや、いいって。そげな大袈裟なこっちゃないって……」
「私の心配が、いらないって言うんですか?」
「うっ」
そのあまりの迫力には、閉口するしかなかった。志穂が帰って来る前になんとかしないと。
とはいえ、そんな考えもまとめられない程、体はボロボロな訳で。
『また』誰かを傷つける事になるのでは?
という恐怖が、幾度なく俺の思考を遮ろうとする。
結局授業は一時間目からサボり。鬼山をうまく眩まし、屋上へ出る。比較的今日は涼しく、
日の光も弱めで助かった。
ぐでんと横になる。一向に体調は良くならない。少し寝れば治ると思い、目をつぶると、
風が懐かしい香りを運んで来た。

「……これは、ラズベリー……久しぶりだね。お姫さん。」
姿も確認せず、後ろに呼び掛ける。
「そうね、久しぶり。」
声からして、ほんの5メートルか。それもまた、懐かしい響きな訳で。
「どう、この世界?お気に召した?」
「うーん……微妙。確かに志穂に会えたのは良かった。でも、また誰かに同じ傷をつけるかもしれない。」
「そうよねー。私がその一人なわけだからね。」
言ってくれるよ、全く。
「とにかく、今は体調がすこぶる悪いんだ。ちょっと寝たい。」
「それは……自業自得よ?」
「は?いやいや、このダルさは二日酔いとは別だし、昨日酒は飲んでないよ?」
「……この世界はね、晋也の想いでできてるのよ?晋也の……志穂に対する想いで……」
そうなるのか。この世界の1日目は、志穂と出会った日で、それ以前の思い出や記憶は『偽造』なわけだ。
「その張本人の晋也の調子が悪いって事は、晋也の志穂への想いが薄れてるの。」
「は!?馬鹿な俺は志穂にフォーリンラ……」
「相変わらず誤魔化す癖があるのね。思い当たる節は、無い?」
……無くも無い。曖昧だけど。明らかに志穂以外に意識する女がいる。
「もし、その娘への想いが、志穂への想いより強くなったら………この世界を紡げる自信は無いわよ。」
キビスィーこって。
「前向きに善処します。」
今時の政治家も使わないような返事をし、目を瞑る。本気で厳しい体調だ。
「そう……頑張って、としかいえないかな。」
その声が聞き終わると同時に強い風が吹き、それは緑の香りを運んできた。


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