そのまま走り抜き、庭へ出る。まぁ、飯の時間まで掃除しながら時間つぶすか……。
「ん?」
裏へ回ると、花穂が箒を持ったまま座り込んでいた。いかんなぁ。サボリは厳禁ですぞ!!
(常習犯の俺が言えないが)
花穂の死角に回り込み、驚かしてやろうと、ゆっくりと忍び寄る。と、あと少しというところまで
近付くと、花穂の独り言が聞こえてきた。
「はぁ…純也のやつ、どうしちゃったんだろ。性格反転してるじゃない………もっと静かで……
優しい純也が……好きなんだけどな。」
ツっと……花穂の頬が微かに濡れる。
「それに、志穂に里緒って誰よ……どう聞いても女の名前じゃない…。そんな知り合い、
いつの間に出来たのよ。あんなの、純也と違う……」
………止めよう。聞くな。これ以上の自虐行為に耐えられる程、俺は強くない。
花穂に気付かれぬよう、その場から立ち去った……
自室。
ベットの上で、悩んでいた。もうこれ以上は無理だ。こんな訳分からん世界にとばされて、
今まで以上に馬鹿なフリを努めてきたが、もう限界だ。
ここに俺の居場所はない。純也は純也であって、俺とは違う。花穂や奈緒が好きなのは純也だ。
そこに干渉出来る資格は、俺には無い。俺が好きなのは、あくまでも志穂なんだから。
………お嬢に交渉しよう。
交換条件を出されるのは目に見える。その内容もだ。まぁ、ここまできたら怖い物なんて無いさ。
「どーんとこーぅい!!!!」
ぐっと右の拳を上に掲げる。気合いを入れ、再びお嬢の部屋へ向かった………
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ノックもせずに、静かにドアを開ける。相変わらず、純粋な笑顔を見せてくれる。
……どうしてそこまで健気に、一途に、いられるんだ?
「純…也?」
「ん?あ、いや、ワリィ、ぼーっとしちまったな。」
「今日は珍しいわね。純也の方から二回も私の部屋に来てくれるなんて……
やっと私の気持ちが通じたかな?」
「かもな。」
「え!?い、いま…なんて……」
予想外の返事に驚いたようだ。まぁ、今までの俺なら決して言わなかっただろうしな。
喜んで小躍りしているお嬢の肩を掴み、真剣に目を見つめる。頼みごとするなら、真面目にな。
「お嬢、お願いがある。」
「うん!なんでもいいよ。なんでも聞いてあげる。あ、でもこの前みたいなふざけた提案は却下よ。」
「ああ、かなり真面目な話だ………俺を……俺のいた世界に戻してくれ。純也でなく、
晋也のいた世界に。」
それを聞くと、お嬢は小さく溜め息を付いた。
「ふぅ……やっぱりね。そういうと思ったわ。変に無茶してたもんね、晋也。」
そしてしばらく考え込むように下を俯いていると
「じゃあ、約束して。今度こそ、私だけを愛して。なにがあっても」
そう言って自分の手を俺の胸に添える。
「私だけ………」
「約束……は出来ないけど…努力はしてみる。」
「曖昧な返事。……まぁ、いいけど。そう調節するわ。」
調節ってなんだ?
そう思った瞬間、世界は閉じた。