広き檻の中で 第34回
[bottom]

結局この場は俺の逃げ切りでしのいだ。まったく。志穂ならまだしも、
里緒さんの体格で殴られたらたまったもんじゃない。
しっかし……困ったなぁ……この世界、おれにとっちゃ苦痛でしかない。奈緒と花穂……
どっちが好きといわれれば困る。
違和感バリバリだからだ。それにお嬢もなぁ……ここまでする程俺を思ってくれるって
ことだからなぁ………お兄さん、本当困っちゃうよ。
となると………
「三分割作戦じゃい!」
思い立ったが即日。このナイスアイディアを献上すべく、お嬢の部屋へとダッシュ。
ノックもせずドアを開ける。お嬢は窓の前で外の景色を眺めていた………とはいえ、
塀で囲まれていて良い眺めとはいえない。
「お嬢!」
「晋…純也!?」
突然の訪問にさすがのお嬢もビツクリ。名前を間違える。……つーか、やっぱり純也なのね。
晋也がいないってさびしいなぁ……。
俺の存在を理解すると、パァッと花咲くような笑顔を見せる。嗚呼!その健気な表情に弱いんだヨ!!
トトトと駆け寄り、抱き付かれる。あはぁ……いい匂が……イカンイカン。
「う、うむ、お嬢。実は話があって来た。」
よいしょとひっぺがす。
「うん、うん、やっと私を選んでくれるのね?」
あぁ、目がキラキラしてるよ。まっぶしいずぇー。
「いや、実はな、いい考えが浮かんだのじゃな。」
「いい考え?」
「ああ。誰か一人選ぼうとするから穏和じゃないんだ。だから!三人平等にいこうじゃないか!」
「三人…平等?」
「そう。例えば日替わりで、月曜から二日づつ交替で愛す!!日曜は休日!」
ビバ!週休一日制!!!
「社会チックにいえば三権分立。一人に力が集まるから崩壊がおこるんだよ!!」
その策を力説していく度……あ、あれ?目が怖いヨ?抱き締める力が強いよ?

 

「いだだだだ!!」
「そんなのだめに決まってるでしょ!!他の女にも抱かせるなんて……許せないわよ!!」
「な、なんで?そうすりゃ穏和に……」
「じゃあ、純也は、私達が二股三股しても平気?」
「う!……うぅ。」
そ、そりゃ……
「イヤダイヤダー!!皆僕のだい!!」
「でしょ?…まぁ……そんな事は絶対しないけど……」
「ん?なに?」
「な、なんでもない!とにかく!曖昧な事はダメ。」
うーん。玉砕。はぁ、どーしよっかなぁ。
「ところでね……私からも提案なんだけど…」
指先を胸の前であわしモジモジとしてる。ぐぁ。こういう何気ない仕草がイイよなぁ……。不埒な考えじゃ。
「も、もっとお互いの事を好きになるために、その……お、同じ部屋で過ごさない?」
「ほへ?」
いきなりの事にま抜けた返事。いや、まぁ、だって、でもなぁ……したらしたで、
違う死に方を迎えそうだし……
「アーー!!!」
そういきなり叫ぶ。
「いっけね。今日夕飯当番だった!急がないと志……あーっと……花穂にブッとヴァされちまうぜ!
ってことで、じゃあな!お嬢。アデュー。」
一気にまくし立て、逃亡。まるで風と一体化したかのような俺を、お嬢は呆然と立ち尽くしたまま
見て居るだけだった。





 

そのまま台所へ向かうと、リズミカルな包丁の音が聞こえた。ナイスタイミング!本当に料理中だったか。
走った勢いで入り、誰かを確かめる。おっと、あのロ○ボディは……
「ふ、待たせたな、Girl……」
決まった。完璧な巻き舌だ……
「………」
ビシッと顎に手を当て、決めポーズを取っていた俺を、目をパチクリして見ている。
『今日の純也、変よ?』とでも言いたい気満々だ。
「ははん、志穂よ。俺は開眼したんだ。ダンディズム溢れる男にな………」
無理やり声を低くしてみる。地声が高いから憧れるんだよね。マジで。
「あのぉ……純也君?」
あ、あれ?なんだ?さっきまで肉を捌いて血塗れの包丁をこっちへむけてるヨ!?
「さっきから気になってたんだけドォ……志穂ちゃんってダレカナァ?」
しまった。また間違えた………
奈緒からはさっきから殺気が漂っている。あの包丁。半端ない攻撃力の筈だ。くっ!
我が半身『純也』よ!我に力をカシタマヘ!!!
「アーー!!!庭掃除が途中のままだったぁ!!!!」
再度、逃亡。さっきまで立っていた足下に包丁が突き刺さっていた辺り、お嬢との能力の差が知れる。
いかんなぁ………早く順応しないと、また早死にするな………


[top] [Back][list][Next: 広き檻の中で mixture world mixture world ]

広き檻の中で 第34回 inserted by FC2 system