広き檻の中で 第32回
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あー…取れろって……早くしないとどっちか死んじゃうかもしれないだろぉ。
「だーあ!!!取れねぇヨ!!!!」
そうやってもがいていると、
「お久し振りですぅ〜」
久々に会ったような気がする。里緒さんだ。そうだ…
「り、里緒さん!これ取ってくれっ!」
「どうしてです?」
「え?…いや、た、助けにいかないと。お嬢と志穂を。」
「佐奈様のこと。好きじゃないんでしょう?それに、私達だけで此所から逃げ出しましょうよぉ。ね?」
こんな時までこの人は……
「ダメ!!お嬢も里緒さんも。俺が好きなのは志穂ナノ!」
これだけは譲れない。
「絶対にぃ?どうしてもぉ?」
「そう!絶対に!どうしても!」
「う〜ん…今晋也…いっ…も…やや…しく…なるん…よねぇ……」
なにかぶつぶつ言ってる。良く聞こえない。
「うん!良いですよぉ。解いてあげます。面白そうだから。」
「サンクス!」
面白そうだからってのが気になるが………
ポケットから鍵を取り出し、手錠、足枷を外し始める。
「よく鍵持ってましたね…」
「この屋敷の鍵の管理は、私がやってますからねぇ……」
こんな物の鍵もかい……
パッパと鍵を外し、自由を取り戻した。おぉ!動ける!!
「いやん!」
晒し続けていた一物をチャッチャとしまう。
「おっとと……」
目茶苦茶フラフラする。やっぱずっと縛られてたからなぁ。足がガクガクする。でも行かなくちゃ。
里緒さんを後に、部屋を出ていった。





「はぁはぁ…あ、いた……」
二人は玄関ホールに居た。お嬢はナイフを。志穂は……斧を持っていた。あれは用具入れにあったやつだ。
二人は睨み合い、間合いを計っている。
「ま、待った!やめろって!」
慌てて二人の間には入り込み、仲裁に入る。
「晋也…」
斧を持っている志穂に近付く。
「ほ、ほら、志穂。そんな危ないの降ろしなって。な?」
そう言って志穂を優しく、刺激しないように抱き締める。あ、あれ?抱いた時の違和感が………

ドス
ああ、…この冷たい感覚……前にも。刃物が体に入った時のアレだ。
「う、お、お嬢?」
振り向くと案の定、お嬢が血塗れたナイフを持って立っていた。
……なんだよ…俺を殺したら意味ないんじゃないの?
「そいつ、…それ、私じゃない!!」
は?
「私が…私が志穂よ!」
「ま、まさか…」
どうみても、お嬢じゃん……そう思い、抱いた『志穂』を見る。…うん、志穂…だろ?
力が入らず、倒れてしまう。あぁ…いてぇ…
「よくも…よくも私の晋也を、殺したわねぇ!!!」
「うるさい!うるさい!私が志穂なの!私が晋也に愛されなくちゃいけないのよ!!!」
そう二人で叫び、互いに飛び掛かる。
ドス!
ガッ!
ナイフは喉に、斧は肩に食い込んだ。血が噴水のように吹き出し、俺の顔に降り懸かる。
あぁ…素人目でもわかる。即死だ。
二人もまた、血から尽きて倒れる。
ハハハ…はははっ…さ、最悪じゃん。
カツカツ
階段から、誰かが降りて来る。……だれだ?
「あらあらぁ〜ヒドいことになってますねぇ。」
り、里緒さんか。…これを見ても、相変わらずだなぁ。
里緒さんは俺の顔を覗き込む。
「ふふふ……晋也さんまで殺されちゃうなんて、予定外でしたねぇ…」
え…な、に?
よく、聞こえ…ない
「まぁ、いいわ。……次こそは待ってますよ。…也」
違うよ。みんなちがうじゃんよ。
俺の、名前も、違う。
目の前にいるのも、里緒さんと違う。「あ、あはは…げふ…げふ!…はは、は…」
俺は、結局、永遠に苦しみ続けるのかなぁ……
この、広き檻の中で………


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