広き檻の中で 第28回
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結局。
今日は一日中志穂の隣りにいた。何時か目が覚めるんじゃないか、なんて淡い期待を抱いていたからだ。
お嬢は今日は特に行動を起こさない。いったいなにがしたいんだ?
「おらおらおらぁ」
志穂の頭を小突く。
グリグリグリ
こめかみアタック!
「………」
返事がない。ただのしかばねのようだ。
いやいや。まだ死んでないって。一応。
「ほら、起きろよ。」
ムニムニ
頬を摘む………まるで氷のように冷たい。本当に死んでるように思えてきた。
時間が止まるってどんな感覚でいるんだろ。寝て起きたら何十年も経ってるなんざ軽い浦島太郎だ。
「ふはははは!またHな悪戯しちゃおうゾ!!」
「………」
あいもかわらず無反応。
Hな悪戯か………
今思えば、志穂とは体の交わりはあったけど、一度も真面目にに「好きだ」「愛してる」なんて
いった事が無いような気がする。
………恥ずかしかったんだろう。俺みたいなタイプの人間は言葉より行動で表すからな。
今になってみて、それが二度と言えないかもと思うと後悔してもしたりない。真剣な空気は苦手だから、
恥ずかしいからって、いつもおちゃらけて逃げてきたのかもな。
「Hey!Girl!起きなヨ!お前に一つ、物申す!!」
い、いかん
「俺はなぁ……俺…は…」
ヴィジョンが乱れてきちまった。まったく、画質の荒い眼球だ。
「……起きろって……じゃねえと…意味ねえじゃねえかヨ………」
たとえ感情を奪われようが、奴さんは無限に沸いてくる。人間としての運命さ。
「ちく……っしょぉ…………すまんな。」

 

そう言って志穂の濡れた顔をぬぐい、誠心誠意のキスをして部屋を出ていった。
その唇さえ、機械のように冷えていた。






自分の部屋へ向かう途中、いかにして志穂を助けるか考えてみた。が、時間なんて普通の人間が
供給できるもんじゃない。
平凡の底辺である俺に、そんな神懸かり的なことできっこない。
結論。あきらめろ……と?
諦めなければなんでもできるなんてただの戯言。失敗からの逃避だ。「諦めるな」なんていいながら
「諦めが肝心」という言葉もある。
「矛盾もいいとこだネ。」
そう呟きながら、自分の部屋のドアノブに手を掛けると………
バチッ!
全身に電撃が走った。
いやいや。
一目ぼれした時とかに表現するアレじゃなくって。
本当の電撃。
「あ……う…う?」
訳が分からぬまま、蹲るようにして気を失った。


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