結局。
今日は一日中志穂の隣りにいた。何時か目が覚めるんじゃないか、なんて淡い期待を抱いていたからだ。
お嬢は今日は特に行動を起こさない。いったいなにがしたいんだ?
「おらおらおらぁ」
志穂の頭を小突く。
グリグリグリ
こめかみアタック!
「………」
返事がない。ただのしかばねのようだ。
いやいや。まだ死んでないって。一応。
「ほら、起きろよ。」
ムニムニ
頬を摘む………まるで氷のように冷たい。本当に死んでるように思えてきた。
時間が止まるってどんな感覚でいるんだろ。寝て起きたら何十年も経ってるなんざ軽い浦島太郎だ。
「ふはははは!またHな悪戯しちゃおうゾ!!」
「………」
あいもかわらず無反応。
Hな悪戯か………
今思えば、志穂とは体の交わりはあったけど、一度も真面目にに「好きだ」「愛してる」なんて
いった事が無いような気がする。
………恥ずかしかったんだろう。俺みたいなタイプの人間は言葉より行動で表すからな。
今になってみて、それが二度と言えないかもと思うと後悔してもしたりない。真剣な空気は苦手だから、
恥ずかしいからって、いつもおちゃらけて逃げてきたのかもな。
「Hey!Girl!起きなヨ!お前に一つ、物申す!!」
い、いかん
「俺はなぁ……俺…は…」
ヴィジョンが乱れてきちまった。まったく、画質の荒い眼球だ。
「……起きろって……じゃねえと…意味ねえじゃねえかヨ………」
たとえ感情を奪われようが、奴さんは無限に沸いてくる。人間としての運命さ。
「ちく……っしょぉ…………すまんな。」
そう言って志穂の濡れた顔をぬぐい、誠心誠意のキスをして部屋を出ていった。
その唇さえ、機械のように冷えていた。
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自分の部屋へ向かう途中、いかにして志穂を助けるか考えてみた。が、時間なんて普通の人間が
供給できるもんじゃない。
平凡の底辺である俺に、そんな神懸かり的なことできっこない。
結論。あきらめろ……と?
諦めなければなんでもできるなんてただの戯言。失敗からの逃避だ。「諦めるな」なんていいながら
「諦めが肝心」という言葉もある。
「矛盾もいいとこだネ。」
そう呟きながら、自分の部屋のドアノブに手を掛けると………
バチッ!
全身に電撃が走った。
いやいや。
一目ぼれした時とかに表現するアレじゃなくって。
本当の電撃。
「あ……う…う?」
訳が分からぬまま、蹲るようにして気を失った。